2020年5月10日に第一回星槎横浜絵本研究会がZoomにて行われました。
代表を務める教育学研究科修士課程修了生の伊豆田麻子さんが修士論文の紹介を行い、その後参加者と話し合いを行いました。参加者は顧問の仁平先生、代表伊豆田さん、副代表藤井淳子さん含め17名で、療育に携わる中で絵本を活用しておられる方、ラジオ番組で絵本紹介をされているアナウンサーの方、大学教員の方など、多彩な方々が参加されました。
【修士論文紹介】
子どもの虐待対応業務で疑問を抱えていた際、星槎の授業を体験し、仁平先生のレジリエンス研究に触れて、子どもにとっても、親にとっても力と希望になるような研究をしたいと考えた。「絵本にはレジリエンスを育てる要素がある」「親子で絵本を読むことは、親と子それぞれのレジリエンスを育む可能性がある」との二つの仮説を立て、絵本の評定研究と母子絵本読み研究を行った。
評定研究では、子どもと絵本に関わる経験の豊富な20代から60代の30名の方に、予め選定した12冊の絵本について、レジリエンスの観点から評定して頂いた。その結果、絵本にはレジリエンスのメッセージが含まれるものがあり、その含まれ方には特徴があることを実証した。更に評定結果をクラスター分析にかけることにより、12冊の絵本を、レジリエンスのメッセージという観点から系統図として示した。
母子絵本読み研究では、評定研究において、メッセージ・タイプが最も似ていないという結果となった2群の絵本を用いて、絵本が母子に与える影響を検証した。協力者は年少~年長児とその母親16組であった。初回絵本読みの録音データと、絵本読み後1週間の行動について尋ねたアンケートを分析した結果、レジリエンスのメッセージ・タイプの異なる絵本を読んだ2群間において、絵本読み時の母子相互作用・母子それぞれの発言と、絵本読み後1週間の行動に、統計的にも有意な差があった。
評定研究の協力者も、絵本読み研究の母子も、絵本から感じ取るメッセージ、絵本に影響を受けたと考えられる行動や、行動の思い出には共通するものが確かにあった。また、一緒に絵本を読むことは、お互いのユニークさに気づく機会を与えていた。絵本にあるメッセージは、絵本を一緒に楽しんだ体験と共に、残っていくということを実証することが出来た。
【参加者との話し合いの様子を一部紹介します】
<絵本読みの意義について参加者より>
〇絵本を読むと心が温かくなるような気がしていた。レジリエンスという視点での分析で、絵本の良さ、魅力に納得した。
〇保育の現場で、絵本を読み続けると子どもが落ち着いて来ることを体験していた。今回の研究は絵本の力を可視化してデータで示した。
〇絵本は子どもにも大人にも影響を与えるユニバーサルなものと感じていたが、それをエビデンスとして示したという点で、勇気づけられた。
〇今回は母の声で読んでもらったことの効果も大きい。
<絵本読み研究の協力者の発言から>
〇協力者:「行って、お母さんのところに帰って来る」安心の絵本が好きな息子は、衝撃的な場面がある今回の絵本が当初は好きになれなかったようだが、研究の追跡期間後には気に入って読むようになり、成長を感じた。
〇仁平先生:「未解決の何かを残す」「ちょっと引っ掛かるものが残る」方が、成長を促進する。
〇参加者:子どもの時、家にあると災いが起きると思うほど怖かった絵本を大人になって読み返し、全く異なる印象を受けた。
〇仁平先生:問題は、その時答えを出さなくても考え続けている。ある時アッと答えが浮かび、自分が考え続けていたことに気付く。大人になった時、子どもの頃読んだ絵本をどう感じるかという研究も出来る。研究のテーマはいくらでもある。
星槎横浜絵本研究会は、絵本について、テーマに沿って自由に話し合う会です。
次回の開催は9月、テーマは「ユーモア」を予定しています。詳細が決まりましたら星槎大学大学院のホームページにも掲載させていただきます。