ーー星槎ジャーナルとはーー
 星槎ジャーナルでは、世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマに、星槎の理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし広く発信していきます。


ーー「星槎ジャーナル」のスタートについてーー
 このたび、大学大学院のホームページに「ジャーナル」を立ち上げ、スタートさせていただくことになりました。
 世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマにの理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし、学内外に発信していこうという試みです。

 過日、「ジャーナル編集委員会」(編集長佐々木)の第1回会合を開催し、取りあえず走り出すことにしました。走りながら考えるのか、という叱責をいただきそうですが、グループの広報の一助になればとも思っております。
 ジャーナル第1号は「わが身を見つめ直す時に転換しようコロナ禍、デマに惑わされるな」(佐々木執筆)を掲載しました。ちょっと長めですが、コロナ禍の中で、デマやフェイクニュースにどう対応したらいいのか、というのがテーマです。
 星槎グループ教職員の投稿を歓迎します。掲載に当たっては編集委員会の内規に従って決めさせていただきます。また編集委員会から執筆をお願いすることもあろうかと思いますので、前向きにご検討ください。

 「ジャーナル」に掲載する原稿につきましては、テーマを問いませんが、結果として、内容がの3つの約束などの理念につながったり、想起させたりするものであれば、一層歓迎したく思います。ジャンルはシリアスなものでも、エッセイでも、国際交流記や旅行ルポでもなんでもござれです。楽しく、ためになり、タイムリーという3つの「T」が原稿の1つの目安です。

 原稿の長さは400字詰め原稿用紙換算で1枚から10枚程度までと考えていますが、厳格には規定しておりません。掲載の頻度については不定期としてスタートします。

ジャーナル編集長 佐々木 伸
 

星槎ジャーナルー記事一覧

星槎ジャーナル[根記事一覧]
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事務局(小林)2021/01/12 19:21:18

「危機管理」として問い直す「緊急事態宣言2020~21」           

2021年1月12日/執筆者:今津 孝次郎 教授(星槎大学大学院教育学研究科 博士後期課程 )

●「危機」と「危機意識」
 新型コロナウィルス感染防止対策について「危機管理」面から触れられることがあるが、断片的な議論に止まりがちである。そこで、個人レベルから家族や学校・企業さらに国家に至るまで広範囲に適用されるこの用語の意味を明確にしたうえで、政府による「緊急事態宣言2020~21」の発出について「危機管理」として問い直したい。
 先ず「危機crisis」とは「何らかの秩序の激しい動揺」である。crisisとは古くは病理学の用語「クリシス分利」で、高熱がその後に良くなるか悪くなるかの「岐路」を指す。日常語で「危機」と言うと悪いイメージで不安を感じさせるニュアンスが強いが、「秩序が変化する分岐点」と客観的に理解するのが精確である。とはいえコロナ禍による生活の秩序変化は、恐怖や不安を覚えがちである。これまで人類が毎回大きな被害を被ってきた感染症(天然痘・コレラ・結核・スペイン風邪など)の一つであり、しかも未知の新型ウィルスだけに、生活秩序の激しい変化に戸惑う以上に、古来から人間の心の奥底に潜んできた感染症への恐怖心が頭をもたげてくる。その恐怖心ゆえに、感染者と感染者に接する医療従事者が排除・差別されやすくなる。
 「危機」はあくまで統計・調査データで客観的に示される変化の仕組みであり、最近ではビッグデータ解析に基づくシミュレーションによって将来予測も可能になった。ところが、人間は基本的に生活の安定を求めるから、主観的な「危機意識」を持つだけに多様で複雑な態度が生じる。この意識を「認知」と「対処行動」という別個の側面ごとに捉えてみよう。そうすると以下の多様な態度が挙げられる。
 「認知」面では、ⓐ十分に認める、ⓑ少し認める、Ⓒ認めない。「対処行動」面では、①全面的に行動する、②部分的に行動する、③行動しない。態度が複雑というのは、「十分に認める」ゆえに「全面的に行動する」とは限らず、「行動しない」こともありうる。他の態度の組み合わせも同様である。パンデミックに対して要請されるのは当然ⓐと①であろう。ただ、日頃の生活秩序をそのまま継続して心理的安定を求めるなら、Ⓒと③が好都合であり、秩序の変化が大きくなればⓑと②そしてⓐと①へと移行するだろう。よく「危機感がない」とか「危機意識に欠ける」と評されるのは、認知Ⓒのことか、対処行動③のことか、あるいは両者の場合か、いずれも当てはまるだろう。また、こんな場合もある。「感染防止と経済活動のバランスを取る」ことが、2020年春のいわゆる第1波以後にしきりに主張されるようになった。そこで経済を重視するなら、客観的な「危機」が拡大していても、Ⓒと③あるいはⓑと②で対処するというように。要するに「危機」の克服を左右するのは「危機意識」のさまざまな在り様と関わるのである。さらに別の例を挙げるなら、何らかの深刻な不祥事を生じた企業が、認知ⓐと対処行動①で秩序の動揺に真正面から向き合うか、それともⒸと③で隠蔽または逃避するかによって、その企業が再建に向かうか倒産に向かうかが分かれてくる。

●「危機管理」の2局面
 組織が直面した危機の克服方策として二つの局面がある、と組織の「危機管理」研究で提起されてきた。組織の安定を揺るがす深刻な事態が生じた直後の対処としての「クライシス・マネジメント」局面と、深刻な事態の発生に備えるための、または発生を予防するための「リスク・マネジメント」局面である。リスクの用語を正しく理解しておこう。脅威の具体的現実である「危険danger」とは違って、日常生活の不確実性から生じ得る危害や損失の発生可能性の割合を示すのが「リスクrisk」であり、「危険」はゼロに(除去)出来ても確率を示す「リスク」はゼロにならない。ところが、異なる二つの局面を同じ「危機管理」と混同するものだから、「危機」も「危機意識」も乱雑な捉え方になって、現実には危機の克服に向かえないことになる。
 第1波に関する政府の諸対策について、独立したシンクタンク「新型コロナ対応・民間臨時調査会」が詳細な検証をおこなった結果、「場当たり的な判断の積み重ねであった」と結論づけた。たしかに安倍前政権の対応は組織的というよりも個人的で恣意的な判断による施策が目立った。あえて性格づけをすれば、認知ⓑ、対処行動①となろうか。つまり、秩序の動揺に関する理解が不十分なまま、国民に自粛を求めて生活を一斉にストップさせる「緊急事態宣言」を2020年4月に7都府県さらに全国に発出したのである。日本は台湾や韓国などと違ってサーズやマーズの経験もなく、近年は公衆衛生政策で感染症を軽視してきたために、政府が右往左往せざるをえなかったとしても、その対処は一貫し体系立った「クライシス・マネジメント」として形成されてもいなかったと言える。
 ところが、国民への自粛要請が意外と円滑に運び、それなりに抑え込めたので、「日本モデルだ」などと自慢して、政府は安心してしまったきらいがある。この第1波の対応から浮かび上がった課題は多い。PCR検査体制、医療機関や保健所の態勢整備、新型コロナウィルス対応特別措置法改正、ワクチン国内開発、など。これらの諸課題を早急に達成することが要請されていた。専門家も第1波が弱まった後で「秋・冬こそさらに大きく流行するから今から備えを」と何度も警告を発していた。まさに「リスク・マネジメント」の提言にほかならない。
 しかし安心しきったせいか、第2波を経て第3波の始まりに至る約6ケ月間、そうした取り組みはほとんど見られず、むしろGoToトラベル・GoToイートの開始である。これらは本来「コロナ終息後の経済底上げ政策」という趣旨だったから、本来とは違う誤りのスタートとなった。経済の回復に力点を置く菅首相が強力に推進しながらも、途中で止めざるをえなくなったのは当然の帰結である。第2波から第3波へ向かう時期の政権の対応が「後手、後手だ」と批判されたのは、「リスク・マネジメント」の発想とその取り組みがまったく無いに等しかったからである。
 その証拠に、2021年1月8日に一都三県を対象にした「緊急事態宣言」の再発出である。同宣言は感染爆発予防が目的のはずなのに、感染爆発に近づいたから発出してもどれだけ効果があるだろうか。本来なら2020年12月に西村担当大臣が「勝負の3週間」と呼んだ時に発出すべきで、明らかに1ケ月手遅れとなった。通常医療が受けられなくなることに示される医療崩壊が生じている状況下で、局面違いの「クライシス・マネジメント」に拠ったとしても、ウィルス相手では対策が空回りとなり、感染拡大はさらに進むだろう。宣言期限は2月7日までだが、この1ケ月間で感染抑止が達成できるはずはない。おそらく暖かくなる3月下旬くらいまでかかるのではないだろうか。再発出宣言では経済になお配慮するためか、夜の「飲食時短」を「急所」にして、かなり限定的な制約措置が政府の方針である。しかし、専門家が異口同音に言うように、「飲食時短」だけでは効果は薄く、総合的に強い制約をかけないと収束には向かわないだろう。しかも、GoToトラベルやGoToイートをあれだけ強調していた菅首相が、ここにきて手のひらを返したように、夜の飲食を控えるようにと訴えても、そのメッセ―ジ性はきわめて弱い。国民の多くは不信感しか抱かず、第1波のときのように従う人は減少するに違いない。

●「危機介入」におけるリーダーとフォロワー
 生活秩序の激しい変化に直面して、状況が分からず今後の展望も得られない人々が抱く不安を緩和し問題解決を援助する実践は「介入intervention」と呼ばれ、危機管理にとって重要な取り組みである。コロナ禍の対処としてリーダーのメッセージ性がよく話題になる。国民に生活行動変容を要請せねばならないからである。国家レベルでの広い「介入」の一つと捉えてよい。そこで、「リーダーのメッセージ性」について改めて検討しよう。論点は二つ、リーダーの役割は何か、メッセージ性とは何か、である。
 一般にリーダーとは、強力な主張によって集団ないし組織を牽引する役割(リーダーシップ)だと考えがちだが、それは上滑りの部分的理解である。なぜならリーダーの下にいる多くのメンバーの存在を視野に入れておらず、牽引の方向と内容をいかにメンバーに伝えるかというコミュニケーションの側面をおざなりにしているからである。リーダーの役割を再定義すれば、リーダーの方針を理解し共鳴して、リーダーに自発的に従うフォロワーを創ることであり、そのために両者間に信頼関係を築くことにほかならない。
 2021年1月6日に日本医師会の中川会長の定例記者会見があり、いつものように詳細に誠実で説得的な心に響くメッセージが発せられた。「緊急事態宣言の意義は大きい」と医療崩壊を前にする病院と医師の立場から、宣言の再発出を歓迎しながらも「4人以下の会食なら感染しないと考えることは間違いです」と噛んで含めるように説き、「国会議員の皆さん、夜の会食はすべて取り止められたい、国民に範を示してほしい」と語調を強めて国会議員に注文を出した。
 翌7日には菅首相の記者会見があった。感染拡大が止まらないので緊急事態宣言を再発出するとの説明があり、国民へ感染防止マナーを守るお願いが述べられたが、宣言解除の基準や、1ケ月で終わるのかどうかについての詳しい説明は無かった。首相の会見は形式的で事務的な感じが強く、宣言の再発出は考えていないと年末に発言したばかりなのに急に方針転換したことの説得性に乏しく、「国民の命と健康、生活を守るために」という言葉も空疎な響きがして、あまり心に響かなかった。中川会長とは対照的な印象であった。
 「メッセージ性」とは、単なる伝達や通信を意味するのではなくて、発信者の覚悟や決断、信念に基づく心からの声と、詳細な情報開示から伝わってくる誠実性と信頼性を受信者が感じ取り、このリーダーに従うフォロワーになる(フォロワーシップ)と判断できるような内容とプレゼンテーション方法を意味していると思われる。そこにリーダーとフォロワーの関係がはじめて成立し、危機管理が真に実現していくのではないか、と考える。

事務局(小林)2021/01/11 14:13:38

トランプ氏、屈辱の“敗北宣言”議会占拠の扇動批判で保身か

2021年1月10日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 トランプ大統領は1月7日、動画による短い声明で「20日には新政権ができる。円滑な政権移行に傾注する」と述べ、これまで拒否し続けてきた“敗北宣言”に踏み切った。大統領の扇動で支持者らが議会を占拠した事件では、罷免や弾劾の可能性が取り沙汰されており、バイデン次期大統領の勝利を認めることで、政治的な苦境からの「逃げ切り」と「保身」を図ったと見られている。

▼「議会史に残る暗黒の日」とペンス副大統領
 6日に発生したトランプ氏支持者らの議会占拠については、「米英戦争時の1814年8月に英軍が議会に侵入して以来の暴挙」(米連邦議員)といわれるほどの衝撃だった。議会は米民主主義の象徴であり、それだけに社会全体からの反発も強い。

 バイデン氏は「民主主義や法の支配への攻撃だ。議会に侵入した者たちはデモ隊ではなく、反乱者、テロリストだ」と述べ、「トランプ大統領が煽った」と非難した。米議会で7日未明、バイデン氏の大統領選勝利を最終的に宣言したペンス副大統領も「暴力は勝利しない。議会史上に残る暗黒の日だ」と暗に大統領を批判した。大統領との“決別”が決定的になったとの見方が強い。

 米メディアによると、今回の事件に対しては、民主党だけではなく、共和党からも厳しい声が上がっている。かねてより大統領に批判的なロムニー上院議員が「事件は大統領により扇動された反乱だ」と非難したのを始め、「これはクーデター未遂だ。大統領のレガシーは酷いものになるだろう」(キンジンガー下院議員)、「分断を煽ってきたトランプ氏の醜悪なやり方の結果だ」(サス上院議員)といった具合だ。
 
 暴徒と化したトランプ支持者らによる議会襲撃はバイデン氏の勝利への異議申し立ての審議中に発生したが、この事件でバイデン氏当選に反対を表明していた共和党のロジャーズ下院議員ら何人かが反対を取りやめ、バイデン氏の当選に賛同する側に回った。それでもなお、共和党の140人弱の下院議員がバイデン氏当選に反対を表明したのは同党がいかに“トランプ党化”しているかを浮き彫りにしたものだろう。

 議会が「民主主義の砦」という誇りを持っている民主党のペロシ下院議長は怒り心頭だ。議長は上院のシューマー上院院内総務と7日会見し、憲法25条を発動してトランプ大統領を罷免するようペンス副大統領に呼び掛けた。議長は大統領の任期が13日しかないことを指摘しながら、「残りの日々がホラー・ショーになりかねない」と危機感を露わにし、シューマー氏も「トランプ氏は一日も大統領にとどまるべきではない」と述べた。

 憲法25条の規定は「大統領が職務不能と判断された場合、副大統領と閣僚の過半数が議会にその旨通告し、罷免することができる」というもの。大統領が異議を申し立てた場合は、上下両院のそれぞれ3分の2以上の賛成で大統領の罷免を決めることが可能だ。ニューヨーク・タイムズはペンス副大統領が拒否したようだと伝えている。

 ペロシ議長はペンス氏が応じなければ、大統領の弾劾を検討するとして、ウクライナ疑惑での弾劾に続き、2回目の弾劾手続きを進める意向も示した。だが、実際問題としては残りの任期がわずかな中で、弾劾に持ち込むのは事実上不可能。大統領に圧力を掛けるための政治的な動きと見られている。

 トランプ氏を見限っているのは連邦議員だけではない。政権の閣僚や幹部も批判的な姿勢を強めている。チャオ運輸長官は議会占拠を「看過できない」として11日付で辞任すると表明。デボス教育長官も7日、この問題で辞表を提出した。ポッティンジャー大統領次席補佐官、マシューズ副報道官らの辞任も伝えられている。7日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは社説で、トランプ氏に辞任を要求した。

▼「死ぬ気で戦え」
 トランプ大統領は議会占拠事件が起きる前、ホワイトハウス前の集会で支持者らに約1時間にわたって「自分が圧勝していたのに、選挙が盗まれた」と陰謀論の持論を展開、議会に通じるペンシルベニア通りを行進し、バイデン氏勝利確定の審議に抗議するよう呼び掛けた。大統領は演説の中で「死ぬ気で戦え」とまで煽った。

 メディアによると、集会には大統領の個人弁護士のジュリアーニ氏や息子たちも参加して演説した。それぞれ「戦闘で試してみよう」(ジュリアーニ氏)「気概を示せ。議会まで行進しなければならない」(次男のエリック氏)などと扇情的な発言が相次いだ。支持者らがこうした発言に触発されたのは間違いないところだろう。

 襲撃事件後、トランプ氏は当初、しばらくは沈黙し続けた。しかし、国内ばかりか、英国など海外からも厳しい批判が沸き起こったことで、事の重大性に気付いたのか、6日夜になって1分間の動画を発表。議会を占拠した暴徒を非難するどころか、「特別な人たち」と呼び、「みんなの気持ちは分かるが、法と秩序が必要だ。帰宅するように」と訴えた。

 トランプ氏は7日になって、投稿凍結が解除されたツイッターに2分半の動画を発表。議会侵入を「悪質な暴力」などとやっと非難する一方で、新政権が20日に発足するとして初めて敗北を宣言した。大統領は「素晴らしい私の支持者たちが失望していることは分かっている。だが、われわれの旅が始まったばかりであることも知ってほしい」となだめた。

 大統領は2024年の次期大統領選挙への出馬を検討しており、次のステージの政治活動を示唆することで、支持者の期待をつなぎとめようとしたと受け止められている。だがワシントン・ポストによると、ワシントンの連邦検事は議会占拠事件では、トランプ大統領の扇動も捜査対象になることを明らかにしており、退任後の同氏に対する容疑が1つ増えた形だ。

 米紙によると、トランプ氏はここ数日、自身の恩赦が可能かどうか、側近らと協議しているというが、今回の扇動の容疑を念頭に置いたものかは明らかではない。大統領を支持する右派メディアなどの間では、議会を襲撃したのは、極左集団の「アンティファ」がトランプ支持者を装って実行したもの、との陰謀論があふれ、トランプ擁護論も強まっている。



事務局(小林)2020/12/17 10:27:29

「米新大統領にバイデン氏確定」

2020年12月16日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

円滑な政権移行に協力せよ
 米大統領を正式に選出する選挙人投票でバイデン次期大統領が確定し、来年1月20日に新政権が発足する運びとなった。
 トランプ大統領は依然、敗北を認めていないが、法廷闘争で選挙結果を覆そうとする戦略はすでに破綻しており、逆転の機会は事実上閉ざされた格好だ。
 トランプ氏はこれ以上、政治的な混乱を助長してはならない。スムーズな政権移行に協力することが最高指導者としての最後の務めと知るべきだ。
 選挙後のトランプ氏の負けを認めない抵抗ぶりは異常と言うしかない。根拠を示さずに「不正選挙」と主張し、腹心のバー司法長官が不正の証拠がないと発表した後も、バイデン氏や民主党に対する非難を続けている。
 選挙は民主主義の根幹だ。その制度に重大な瑕疵(かし)がないのにもかかわらず、独善的な主張を繰り返し、選挙に対する信頼を損ねたことは米憲政史に不名誉な記録として留まるだろう。
 トランプ陣営は選挙結果を覆すために50件を超える訴えを行ったが、ほぼ全てが退けられた。
 看過できないのはトランプ氏が連邦最高裁の棄却判断を「恥ずべき誤審」と罵ったことだ。三権分立への挑戦と受け止められてもやむを得まい。
 しかし、こうした大統領の言動をいさめようとする動きが与党共和党から出てこないのは残念だ。
 同氏は負けたとはいえ、7千4百万票を超える支持を集めており、国を二分するその影響力は絶大。議員たちはその逆鱗に触れることを恐れて萎縮しているようだ。
 同氏は24年の次期大統領選に出馬することを検討しており、退任後も共和党に強い影響力を行使し続けるだろう。
 社会の分断の修復を担うバイデン氏はこうしたトランプ氏の存在を意識しながら政権を運営していかなければならず、前途は多難だ。
 バイデン氏は新政権の人事を進めているが、閣僚らにオバマ前政権時代の人材登用が目立ち、新鮮さに欠ける。「オバマ政権3期目」と批判を浴びるゆえんだ。
 しかも、次男ハンター氏が対中ビジネスに絡んで検察の税務捜査を受けていることが明らかになった。トランプ政権はロシア疑惑で当初からつまずいたが、バイデン氏も政権発足前から身内のスキャンダルが持ち上がっているのは痛い。
 米国ではコロナ禍が急拡大し、国家的な危機に直面、ワクチンの接種が始まったばかりだ。両氏はひとまず対立の矛を収め、共同で対応に当たるべきではないか。

事務局(小林)2020/12/10 11:45:28

あらためてSDGsを考える

2020年12月9日/執筆者:太田 啓孝 教諭(星槎高等学校)

 前号で坂田映子教授から報告があった通り、「SEISA Africa Asia Bridge 2020」が11月14日(土)に開催され、今までとは違った形ではあるが、多くの方々に参加してもらうことが出来た。オンラインも併用した新たな試みであったが、若い教職員たちのアイディア、機転の利いた行動で様々な困難を乗り越え、今後への可能性を見出すことが出来たのではないか。
 sTEDで発表をした生徒、その手伝いをした生徒たちが一丸となって、自らの考えを堂々と発表してくれた。また、生徒一人ひとりが調べ学習でアフリカの国々ついて教室掲示で発表をしていたことも、決して派手さはなかったものの生徒の学習成果がよく表現されていた。
 SAAB2020も終わり、さて、来年はどうしようかと気持ちは行きがちであるが、それまでにやらなければならないことが多々あるのではないか。生徒の学習及び発表の場として大事なイベントではあるが、それをイベントだけで済ませてはならないと感じている。
 
 さて、SAABと聞くとSDGsを連想する人も多いだろうが、SDGsはそんな特別なものなのだろうか。星槎グループの歩みを振り返ると、それはまさに表現方法の違いはあるとはいえ、SDGs以前から取り組んでいたことではないのか。星槎グループの組織図とSDGs17の目標を並べて眺めると、すべての目標が当てはまるように見え、さらにSDGsにはない指針も読み取れ、日々の活動自体が、最終的に目指す「共生社会の実現」に繋がっていくことが考えられる。そこで大事なことは、目標を示すと同時に実行していくことだと考える。「SAAB Future宣言」では、8つの項目を立て参加したすべての方々に向けて宣言しており、横浜市のホームページにも掲載されているので多くの市民が注目していることに違いない。別の言い方をすると、この宣言をイベントで終わらせることなく、教育活動を通して理解し、実行していく責任を伴うことであるいう認識を持たなければならない。
 
 別の視点から捉えると、高等学校では2022年に改訂された学習指導要領が実施される。星槎内の高校部門ではすでに改訂にあたって新しい教育課程を編成している時期だと予想するが、如何にそれを生徒の特性に応じた星槎らしいものにするか、喫緊の課題であると言える。教務課が中心となって検討しているが、各教科の科目の単位数をパズルのように課程表に当てはめていく作業で終わってはならない。
 特に、中学校3校と星槎高等学校は、「不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を行う学校」の指定校であるので、先を見据えた特色あるものでなくてはならない。「持続可能な開発のための教育(ESD)」を推進し、2030年までの目標であるSDGsの達成に貢献するものを考える必要がある。従来の教育手段に加え、コロナ禍で実践してきたオンラインでの授業展開、それらを組み合わせたハイブリッド授業、さらにGIGAスクール構想も他に遅れることなく検討し、社会に示していくことが重要であると考える。加えて、地域の教育資源を活用し、魅力ある教育活動を生徒はもちろん、家庭、地域の方々も含め実施できるよう努め、カリキュラム・マネジメントの充実を図っていくことが大切である。
 
 最後に、今回の学習指導要領改訂の次期改訂は10年後である。SDGsの目標としている年でもある2030年と重なってくる。あと10年、決して遠い先の話ではないが、星槎を取り巻く様々な環境は確実に変化していることが予想される。その時に、星槎が星槎であり続けるために、今回のSAAB然りこれからを担っていく先生方と協力して考えていきたい。そして、笑顔の連鎖が世界中に広がっていることを期待する。


事務局(小林)2020/11/18 09:08:27

SEISA Africa Asia Bridge 2020 ~コロナ禍開催の手応え~                   

2020年11月17日/執筆者:坂田映子 教授(星槎大学 附属国際交流委員会)

 星槎グループと世界をつなぐ恒例の「SEISA Africa Asia Bridge 」が11月14日、横浜市旭区若葉台にある星槎高等学校を中心に開催された。通称“SAAB”といわれるこのイベントは今回が6回目。新型コロナウィルスの影響を考慮し、オープニングセレモニーとオンラインという「ハイブリッド型」の異例な形での実施となったが、SAABの意義を改めて考えさせる試みとなった。
 当日の参加者はオンラインを含み約2万人。エリトリア国など6カ国の大使館も参加、一部の大使らが来場(ビデオメッセージを含む)した。このほか、日本・UNDP(国連開発計画)・ヤンキンEC附属学校を合わせると9ヵ国以上の参加協力があった。感染対策のため規模を縮小し、セレモニー会場はソーシャルディスタンスの保持に努めた。コロナ禍の悪化で、一時は開催が危ぶまれたが、オープニングセレモニーなどの行事が滞りなく進められ、生徒同士が学びの輪を広げたことは何よりの収穫だった。イベント開催に努力した教職員や国内外の関係者とともに、喜びを分かち合いたい。

▼「人間の安全保障」
 オープニングセレモニーは、特別対談「UNDP・JICA・SEISA」(NYC-YOK LIVE中継)、「SAAB Future宣言」など、アメリカ(NYC・UNDP)・ミャンマー及び日本全国40 会場と日本中の各家庭をオンラインで繋ぎ、公開された。
 特別対談で最も心を突き動かされたのは、「人間の安全保障」という言葉(概念)である。将来にわたって日本の若者たちが信頼しあい交流を築いていくこと、すべての人々が「人を認める」「人を排除しない」「仲間をつくる」という星槎の精神を大切にしていくことが、「人間の安全保障」の根幹を作ると伝えられた。
 「人間の安全保障」(2005年世界サミット成果文書『人間の安全保障』(A/RES/60/1)パラグラフ143) とは、貧困と絶望から解き放たれて生きる権利を強調し、恐怖からの自由を得る権利を有すること(筆者要約)を各国首脳が認めた文書である。現在、コロナ禍が、先進国、途上国を問わず、全世界を不安に陥れ、加えて各国のいたるところで分断・対立が起きている脅威も含めて、各国の政府・国民に深刻な課題を突きつけている。このような状況下で述べられた「人間の安全保障」の意味は、殊のほか大きいといえるだろう。

▼6つのチャンネルからの学び
  さて、オンラインイベントは、メイン会場・JICA横浜第二会場・知繋プロジェクト・LINK・全国星槎チャンネル・sTEDの6つのチャンネルから配信された。それぞれ特色のある内容として、全国高校生によるSDGsプレゼンテーション、トップアスリート・パラリンピアンによる夢トーク、知繋プロジェクト、オンンラインシアターなど、ジャンルや志向が幅広く充実した展開であった。
 筆者が担当する「知繋プロジェクト」では、バングラディシュレポート、ミャンマーオンライン懇談会が催された。バングラディシュレポートでは、アグラサーラ孤児院の子どもたちが、コロナ禍で集団生活ができず、各地の知り合いのもとに身を寄せている様子が伝えられた。参加した生徒たちには、苦しむ子どもたちに寄り添うという人道支援に共鳴している姿が印象的だった。
 ミャンマーオンライン懇談会では、ヤンキンEC付属校生徒が、「日本にはゴミが落ちてない、ゴミを見つけるとすぐ拾うとても美しい国だ。ミャンマーもそうありたい」と話した。特筆すべきは、星槎で学ぶミャンマーの留学生が、星槎では1人1人に合った教育が進められ、時間の使い方がミャンマーと違うと述べたことだ。ミャンマーの生徒たちがこの教育方法に敏感に反応し興味をもったことはいうまでもない。「知る」「繋がる」はここに芽吹いたといってよいだろう。
 フィナーレでは、メイン会場・オンラインに携わる生徒や教職員が、協力によって成し遂げた充実感と多くの関係者から称賛をいただいたことへの感動で笑顔が広がっていた。

▼次年度SAABに想いを馳せて
 コロナ禍で対策したユニットはいずれも良く、共生社会・持続可能な社会・平和とは何か、私たちができることは何かなどに思いを巡らせ、SAABを考える1日を過ごすことができたように思う。
 通常開催に戻った時、何を復活させ、何を更新するのか、検討しがいのある課題や手応えがあった。とりわけ、ネット環境の不安定さにヒヤリハットが発生し、そのたびメイン会場やスタジオが青ざめたことはとても良い経験であり、今後の課題でもある。
 最後に、高校の先生方のチーム力、事務方の協力体制はSAABのうねりの強さを物語っていた。心からの拍手を送るとともに、コロナ禍を奇貨として新たなオンライン開催に挑戦した今回の流れをくみ、来年は大胆な一手を期待したい。

事務局(小林)2020/11/09 16:12:50

「米新大統領誕生へ」-国民の結束に全力を

2020年11月9日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 激戦となった米大統領選挙はバイデン前副大統領が現職のトランプ大統領を退け、第46代大統領に当選することが確実となった。
敗北したトランプ氏は選挙の不正を主張し、裁判で徹底抗戦する構えを示しているが、主張には根拠が乏しい。敗者として潔く政権交代に協力すべきだ。
 バイデン氏は「分断ではなく融和を目指す」と勝利宣言した。その公約通り、二分した国民を結束させることに全力を傾注してほしい。

 今回の選挙はトランプ氏の4年間に対する信任投票という意味合いが強かった。
 敵と味方を分け、対立をあおって支持を固めるトランプ氏の手法は熱狂的な岩盤支持層を生む一方、反トランプ勢力の拡大につながった。同氏の激烈なやり方に「トランプ疲れ」が沈殿し、バイデン氏は「トランプでなければ誰でもいい」という国民の受け皿になった。

 とりわけ新型コロナウイルスを軽視、感染者が急増して死者が23万人を上回ったにもかかわらず、「峠は越えた」と楽観論を繰り返した。対策を取らなければ「暗い冬が来る」と警告したバイデン氏とは対照的だった。
 トランプ氏はコロナ対応の失敗から国民の目をそらすため、黒人差別撤廃運動をめぐる治安問題を争点化、平和的なデモの参加者を「暴徒」と非難する一方、白人至上主義者を擁護した。

 郵便投票など期日前投票が1億人を超え、投票率は劇的に高まった。バイデン氏の得票は7千4百万票を上回って史上最多。トランプ氏も7千万票以上を獲得した。この得票状況は分断がいかに深刻かをそのまま反映している。
 バイデン氏が最優先課題としてウイルス対策を挙げ、既に特別チームを組織したのは心強い。公共の場でのマスク着用の義務化などを推進する見通しで、本腰を入れてウイルスの拡散防止に踏み出した、と評価したい。
 
 バイデン氏はこの他に今後、経済の立て直しや人種差別解消、環境問題など、トランプ政権下で顕著になった社会のひずみの是正に取り組む方針。
 とりわけ注目したいのは外交方針の転換だ。トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、同盟国を軽視、国際的枠組みなどから離脱を繰り返した。バイデン氏は環境問題のパリ協定に再加盟するなどとしており、「国際協調主義」へ復帰し、世界の指導者としての役割を再び取り戻す考えだ。
 バイデン氏には内外の難問が山積し、前途は険しい。力まず着実な歩みを期待したい。

事務局(小林)2020/11/08 10:16:07

バイデン氏の当選確実 -ゴルフ中に敗北知ったトランプ氏

2020年11月8日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 米主要メディアは7日、大統領選で民主党のバイデン前副大統領が現職のトランプ大統領を破り、当選を確実にしたと一斉に報じた。バイデン氏は最終的に大統領選挙人を306人獲得し、大勝となることが濃厚だ。トランプ氏は「選挙は全く終わっていない」として法廷闘争に固執する姿勢を変えていない。バイデン氏は同日中に勝利宣言し、国民に「融和と結束」を訴える見通し。

▼CNNが一番に勝利を速報
 米メディアなどによると、バイデン氏の当確はCNNが7日午前11時24分に速報、その後、ABCなど3大テレビ、フォックスニュース、AP通信、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの主要メディアが相次いでバイデン氏の勝利を伝えた。

 バイデン氏とトランプ氏は接戦の6州の集計が長引き、獲得選挙人数でバイデン氏253人、トランプ氏214人の状況が丸1日以上にわたって続いてきた。この6州は東部ペンシルベニア(選挙人20)、南部ジョージア(選挙人16)、ノースカロライナ(同15)、西部アリゾナ(同11)、ネバダ(同6)、アラスカ(3)。

 しかし、CNNの速報で、バイデン氏がペンシルベニアを制することが確定的となり、大統領選挙人を20人上積みして273人(過半数270人)とし、当選が決定的となった。バイデン氏はその後、ネバダでも勝利し、これまでに獲得した選挙人は279人。同氏はアリゾナ、ジョージアでも優位にあり、最終的には306人の大勝になることが濃厚だ。

 バイデン氏の得票は7450万票を上回り、史上最多となった。これはコロナ禍により、郵便投票など期日前投票が急増し、投票率が67%と飛躍的に上昇したためだ。この100年で最高の投票率だ。トランプ氏の得票も7千万票を超えており、今回の選挙に対する国民の関心がいかに高かったかが浮き彫りになった。

▼バイデン氏の勝因
 バイデン氏は今回、2016年の前回の大統領選で、民主党のクリントン氏が失った中西部のミシガン、ウィスコンシン、東部ペンシルベニアを奪回し、同党の“青の壁”を取り戻した。さらに伝統的に共和党が強かったアリゾナ、ジョージアでも勝利する公算が大きい。

 今回はトランプ氏の4年間の審判となる信任投票だった。バイデン氏の勝因の背景にはトランプ氏の「分断と対立」をあおる手法に国民がうんざりし始めたことがある。いわゆる“トランプ疲れ”だ。その意味で、バイデン氏は「トランプでなければ誰でもいい」という反トランプ票の受け皿になった。前回、トランプ氏を支持した白人女性らが今回はバイデン氏支持に回ったのが好例だろう。

 バイデン氏勝利の直接的な原動力となったのは、なんと言っても新型コロナウイルスへの対応をめぐるトランプ氏の失策だろう。同氏は「春になればウイルスは奇跡的に消え去る」などと楽観論を繰り返し、国立感染症アレルギー研究所のファウチ所長ら医療専門家、科学者らの助言を無視した。同氏は自らのコロナ対応の失敗を棚に上げ、選挙後にファウチ氏を解任するとまでと公言した。

 トランプ氏は10月初めに自らウイルスに感染し、入院した。だが、3日で強行退院して選挙戦に復帰、遊説に飛び回った。同氏は自らの強さを「スーパーマン」と誇示し、マスクもせずに密集した集会を開催、支持者らを熱狂させた。ウイルスを軽視するこうした大統領の失政もあって、米国の感染者は1日13万人を超え、死者は23万人を上回った。コロナ禍でトランプ氏の集票の頼みの綱だった経済の落ち込みが痛かった。

 トランプ氏の黒人差別撤廃運動への無理解と強硬方針も有権者離れを促進した。人種差別への抗議デモに参加した人たちを「暴徒」と呼ぶ一方で、白人至上主義者を擁護し、オバマ前大統領ら民主党勢力を“影の政府”と呼んで非難し、「Qアノン」などの陰謀論者を「愛国者」と称えた。

▼2つに割れる側近たち
 現職の大統領として再選に失敗したのは第二次世界大戦以来、トランプ氏がカーター(民主党)、ブッシュ(父、共和党)両氏に続いて3人目。トランプ氏が最も嫌悪する「敗者」になった。

 トランプ氏がバイデン氏に敗れたことを知った時、バージニア州スターリングにある「トランプ・インターナショナル・ゴルフクラブ」でプレー中だった。ワシントン・ポストによると、同氏は在任中、247回のラウンドを行ったが、これは1週間に2回のペース。同ゴルフ場では97回プレーしたという。同氏はこの知らせに急きょ、プレーを中断し、ホワイトハウスに戻った。

 同氏は郵便投票をかねてから「不正の温床」と非難。今回も「勝っていた自分の得票が魔法のように消えてしまった。詐欺行為だ」などと怒りを表明したが、遅れて開票された郵便投票はバイデン氏支持票が多く、ペンシルベニアやジョージアなどでトランプ氏を逆転する“レッドミラージュ”(赤い蜃気楼)現象が起きただけだ。トランプ氏が言うように不正が起きた証拠はない。

 トランプ氏は「選挙は全く終わっていない」「合法的な選挙なら容易に勝っていた」と負けを認めず、最高裁にまで持ち込んでも勝敗を争う考えを変えていない。しかし、こうした試みが成功する見通しは暗い。陣営が集計停止を求めて提訴したミシガン州やジョージア州では既に訴えが退けられた。

 大統領のホワイトハウスへの居座りに固執する姿勢は身内の共和党内でも批判的な声が強い。「危険で衝撃的」(サントラム元上院議員)、「愚かだ」(ケーシック元オハイオ州知事)などといった具合だ。米紙によると、トランプ氏の選挙後の対応をめぐっては側近らが二つに割れているという。1つは家族を中心とする徹底抗戦を主張するグループ。もう1つは大統領の“名誉ある撤退”を探るグループだ。

 トランプ氏の長男ジュニア氏や次男のエリック氏らはツイッターで、「大統領支持に立ち上がって不正と戦おう」などと呼び掛けているが、同調者は少ない。“名誉ある撤退”を探るグループには共和党の有力者らも含まれているとされるが、このまま大統領の「負け戦」に付き合えば、自分たちが返り血を浴びることになりかねないと懸念しているようだ。

 こうした中で注目を集めているのはペンス副大統領の対応だ。次の大統領選挙の共和党の有力候補なだけに、「トランプ氏を見限って次に備えるべきだ」(アナリスト)という意見も強まるかもしれない。しかし、一方で「大統領を見捨てた」(同)と受け止められる可能性があり、ハムレットの心境だろう。

事務局(小林)2020/11/03 10:48:57

フロリダの行方が勝敗を決定 -米大統領選、シナリオを占う

2020年11月3日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 トランプ大統領の再選か、バイデン前副大統領の政権奪取か。米大統領選は3日、支持率で後塵を拝してきたトランプ氏が土壇場で猛追を見せる中、投票日を迎える。前回トランプ氏が逆転勝利したのと同様、予断を許さない状況だが、勝敗はつまるところ激戦州フロリダの帰すうに掛かっている。最もあり得るシナリオを占った。

▼トランプ氏、フロリダ落とせば絶望
 ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどの米メディアや複数の選挙分析サイトによると、トランプ氏は激戦6州といわれる南部フロリダ、ノースカロライナ、東部ペンシルベニア、中西部ミシガン、ウィスコンシン、西部アリゾナで激しく追い上げ、1日現在、6州の平均支持率で「3.2ポイント差」(リアル・クリア・ポリティクス)まで迫った。

 10月中旬の時点でこれら激戦州のバイデン氏との支持率差は5ポイント程度開いていたが、積極的な遊説を重ね、「誤差の範囲」(専門家)にまで差を詰めた。こうした中で、トランプ氏が絶対に落とせないのがフロリダ州だ。大統領選挙人はニューヨーク州と同数の全米で3番目に多い29人。

 フロリダとアリゾナは他の激戦州と比べると、支持率はほぼ互角。トランプ氏の勝利を予想している「トラファルガー・グループ」の分析では、トランプ氏が3ポイント弱優位に立っている。同グループは、激戦州ではウィスコンシンを除く5州でトランプ氏がリードしている、としている。主要な十数社の世論調査でこの半年、トランプ氏が優勢と一度でも予測したのは同グループの他は一社のみだ。

 激戦州を除くトランプ氏の基礎票は前回、大差で勝った中西部のアイオワ(選挙人6)、オハイオ(同18)両州を今回も獲得すると仮定して204人。これに激戦州で比較的勝つ確率の高いフロリダ、アリゾナ(選挙人11)、ノースカロライナ(同15)を加えると、259人となり、過半数の270人を獲得するためには、残り11人が必要だ。

 トランプ氏としては、これにペンシルベニア州(同20)、ないしはミシガン州(同16)を制すれば、勝利できることになるし、ウィスコンシン州(同10)のみの獲得でも269人で、同点に持ち込むことが可能だ。無論、フロリダ州で負けても、前回同様、ペンシルベニアなど他の激戦州を軒並み制すれば、270人を上回り勝つことはできる。

 だが、現状では6ポイント以上の差を付けられているミシガン州やウィスコンシン州を含め、フロリダ以外の全ての激戦州で勝利するのは極めて困難だ。つまり、「フロリダを落とせばゲーム・オーバー」(アナリスト)になる可能性が強いと言わざるを得ない。いかにフロリダ州がトランプ氏にとって死活的であるかが分かるだろう。

▼バイデン氏、3ポイント失っても優位変わらず
 バイデン氏の場合はどうか。同氏の基礎票を前回のヒラリー・クリントン氏が獲得した232人とした場合、全米の平均支持率がそのまま選挙結果に反映されれば、楽に逃げ切ることができる。激戦州のうち、仮にフロリダとアリゾナ、ノースカロライナの3州でトランプ氏に競り負けたとしても、残りのペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州で勝てば、獲得選挙人数は278人で当選となる。

 トランプ氏の猛追を受けているものの、「リアル・クリア・ポリティクス」によると、バイデン氏はペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州で、それぞれ4.3、6.1、6.8各ポイントの差を付けており、大接戦のフロリダ州やアリゾナ州で負けたとしても、なお優位にあることは間違いない。

 バイデン氏がフロリダ州で勝った場合、獲得選挙人数は261となり、後は残りの激戦州の1州でも制すれば、勝利となる。また、現在の平均支持率が実際の投票で3ポイント、トランプ氏に傾いたとしても勝てる見通しで、バイデン氏の優位は揺るがない。
 
 フロリダ州での勝負は前回、トランプ氏がクリントン氏を1.2ポイント差で振り切った。トランプ氏の勝因としては、態度未決定だった無党派層が土壇場でトランプ氏に大量に流れ、都市郊外に住む白人男女、高齢者からの支持を受けた。しかし、フロリダ大学のダニエル・スミス教授によると、高齢者は今回、トランプ氏の新型コロナウイルス対策に批判的だという。

 また別の調査によると、白人の大卒女性は前回、60%がトランプ氏を支持し、クリントン氏支持は37%しかいなかった。今回は64%がバイデン氏を支持、トランプ氏支持は35%にとどまっている。バイデン氏の不安はヒスパニック層に弱いとされるところだろう。同州ではすでに700万人(前回の約80%)を超える有権者が期日前投票を終えていると伝えられている。

▼フロリダはすでに開票作業
 今回の選挙はコロナ禍の影響で郵便投票など期日前投票が急増、「米選挙プロジェクト」などによると、すでに9300万人以上が期日前投票を行った。有権者の関心は高く、投票率は前回の55.3%を大きく上回って最終的に65%程度に達し、史上まれにみる高投票率になる見通し。投票率が高くなれば、バイデン氏が有利とされている。

 最大の関心はいつ選挙結果が判明するかだ。通常は選挙当日に大勢が判明し、勝った方と負けた方がそれぞれ勝利宣言と敗北宣言をし、事実上勝敗が決着する。だが、今回は郵便投票がいつもの3倍に増えると予想されており、開票作業に手間がかかる上、消印が有効であれば、選挙日が過ぎて到着する郵便投票も認める州が多くあり、開票結果が大幅に遅れる懸念が出ている。だが、実際にいつになったら選挙結果が確定するかは分からないというのが正直なところだ。

 では、肝心のフロリダ州はどうか。ワシントン・ポストによると、同州は3日の午後8時ごろ(日本時間4日午前10時ごろ)に第1回目の結果を発表する見通し。同州は期日前投票について、選挙当日前から開票作業を行うことが許されており、他と比べると、比較的早い段階で結果が判明するかもしれない。アリゾナ州も選挙当日前の開票作業を認めている。

 だが、もう1つの焦点であるペンシルベニア州の場合は郵便投票について、選挙当日まで開票作業を始めることが禁じられている。このため大勢判明には「数日かかる」(州当局者)見通しだという。同州では投票日の3日後の到着分まで有効と見なす仕組みだ。同紙によると、3月中旬以降、連邦議員選出の予備選挙が23州で実施されたが、郵便投票が増えたため、結果判明には平均4日かかっている。

 選挙まで最後の日曜日となった1日、トランプ氏は激戦州など5州を飛び回って遊説したが、選挙当日を過ぎて到着する郵便投票が許されることに強い不満を表明。早くも選挙後に、裁判を起こすことも辞さない姿勢を示した。ワシントンではトランプ氏が郵便投票の開票が完了しない前に、勝利宣言するのではないかとの憶測が一段と強まっている。

事務局(小林)2020/10/26 09:49:31

バイデン氏が抱えた“爆弾” -攻撃不発の大統領に反転の足掛かり

2020年10月25日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 11月3日の米大統領選に向けた最後のディベート(テレビ討論会)が10月22日、南部テネシー州ナッシュビルで開かれ、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領が激論。逆転に意気込んだ大統領の攻撃はほぼ不発に終わった。だが、バイデン氏が「石油産業の閉鎖」に踏み込んだ発言をしたことで激戦州に“爆弾”を抱えることになり、大統領は反転への足掛かりを得た格好だ。
          
▼石油産業を破壊しようとしている
 今回のディベートは投票日前の最後の直接対決の場だった。ディベートは当初、3回計画されていた。しかし、トランプ大統領が今月初め、新型コロナウイルスに感染したことから15日に予定されていた2回目がオンライン形式となり、これを大統領が拒否。結果として22日のディベートが最終回となった。

 第1回目は大統領がバイデン氏の発言を再三妨害、これに同氏も反撃して中傷合戦になり、政策論争はほとんど行われなかった。このため今回は、主催者側が、討論議題のそれぞれの冒頭発言の際、一方のマイクを切る措置を導入。大統領も不規則発言を自重し、論戦を交わした。CNNのディベート後の勝敗調査によると、バイデン勝利が53%、トランプ勝利は39%だったが、ほぼ互角というのが一般的な見方だろう。

 大統領はウイルス感染から復帰した以降、激戦州を中心に積極的に遊説を行い、その効果もあってリードを許しているバイデン氏との支持率の差が徐々に縮小。22日現在、世論調査をまとめている「リアル・クリア・ポリティクス」によると、全米平均で7.9ポイントの差となっている。激戦州では、7ポイント以上離されていた東部ペンシルベニアで4.9ポイントまで差を縮め、中西部オハイオでは大統領が逆に0.6ポイントリードしている。

 バイデン氏がディベートで踏み込んだ発言をしたのは気候変動についてだ。同氏は争点になっているシェール石油のフラッキング(水圧破砕法)に関しての応酬の際、大統領から「石油産業を終わりにするのか」と問われ、「石油産業を転換するつもりだ。なぜなら、石油産業は大気を著しく汚染するからだ。新しいエネルギーへの転換のプロセスの一環とすべきだ」などと応じた。

 これにトランプ大統領は鬼の首を取ったかのように「それは大きな話だ。ビジネス上、大きな間違いだ。基本的に石油産業を破壊しようと言っている。(石油ビジネスに依存する)テキサスやペンシルベニア、オハイオを忘れていないか」とたたみかけた。米紙は、これはトランプ氏が仕掛けた“罠”と指摘しており、早くも南部オクラホマ州から連邦議会に立候補している民主党候補はバイデン氏の発言に反対の考えを明らかにしている。

 南部テキサスは共和党の地盤で、トランプ氏の優位は動かないと見られるが、シェール石油の生産地であるペンシルベニアやオハイオ、フロリダ各州はバイデン氏の発言に影響を受ける可能性がある。トランプ氏は今後、遊説でバイデン発言を大きく取り上げ、雇用を奪うとして徹底的に叩き、逆転につなげようとするのは確実だ。

 ワシントン・ポストによると、バイデン氏はディベートを終えた後の空港で、発言について釈明。「化石燃料を排除するということではなく、石油会社への補助金を取りやめるということだ」などと記者団に語った。同氏は新エネルギーへの転換で、新たに何千万人もの雇用を生み出すとしているが、トランプ氏につけ入るスキを与えることになったのは事実だろう。

▼攻勢目立ったバイデン氏
 今回のディベートでは、トランプ氏がバイデン氏を「副大統領を含め、47年間も公職に就いてきたのに何もしなかった」などと批判し、同氏の息子が外国から巨額の金を受け取っていた疑惑を繰り返して、「汚職まみれの政治家」というレッテルを張ろうとした。

 これに対してバイデン氏は効果的なカウンターパンチを浴びせてはね返した。同氏は大統領が精力的に遊説を行っている間に、ディベートに備えて徹底的にリハーサルを重ねてきたとされ、その成果が出た格好だ。発言の間、マイクオフでトランプ氏に邪魔されなかったこともプラスになった。

 新型コロナウイルスの感染拡大について、大統領が「ウイルスは中国のせい」「収束が見え始めている」などと自らの対応を弁護したのに対し、バイデン氏は「22万人もの多くの国民が死亡した責任を負うものは大統領職にとどまるべきではない」と、トランプ氏の資質に大きな疑問を呈した。

 トランプ大統領が根拠を示さないまま唐突に、バイデン氏がロシアから350万ドル(3億6千万円)もらっているなどと金銭問題を追及した際には、大統領が納税申告書を公表していないことを引き合いに出し「何を隠しているのか。外国企業はあなたに多くを払っている」と逆襲した。

 黒人差別などの人種問題では、大統領が「ここにいる誰よりも私は人種差別主義者ではない。(黒人奴隷解放をした)リンカーンを除いて、自分ほど黒人社会のために貢献した者はいない」と誇示した。これにバイデン氏は「この場にいる“リンカーン”は近代史上、最悪の人種差別主義者大統領の1人だ。あらゆる差別主義者に油を注いでいる」と皮肉交じりに反駁した。

 選挙戦は残すところ10日を切った。ニューヨーク・タイムズによると、すでに4800万人が期日前投票を行っている。トランプ陣営のステペイン選対本部長は共和党関係者に対し、トランプ氏の再選の道が「危険なほど僅か」であることを認めているという。その意味で大統領は今回のディベートでバイデン氏を圧倒できなかったのは痛い。大統領としては激戦州で、同氏の「石油産業の閉鎖」発言を喧伝し、土壇場の大逆転につなげたいところだ。


事務局(小林)2020/10/26 09:45:33

どちらが信頼できるのか −大統領選挙で問われる米国民の良識

2020年10月25日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 11月3日の大統領選まで残すところ10日となった。再選を目指す共和党のトランプ大統領は劣勢のままゴールが迫り、大逆転を狙う。
 対立候補の民主党のバイデン前副大統領は逃げ切りを図るが、勝敗のカギを握る激戦州では接戦となっており、勝負の行方は最後まで分からない。
 世論調査によると、国民の8割弱が過去の選挙より重要と考えているとされ、コロナ禍の中、これまで以上に有権者の良識ある判断が求められる。
 平均支持率では、バイデン氏が7~8ポイント優位にあるが、南部フロリダ、東部ペンシルベニアなどの激戦州ではその差が縮小しつつある。
 トランプ氏は今月初めに新型コロナウイルスに感染したが、早々と復活を宣言、精力的に遊説中。77歳と高齢のバイデン氏はオンラインを基本に訴えを続けており、動と静の対照的な選挙戦だ。
 トランプ氏の戦略は激戦州を中心に熱狂的な支持者らによる遊説集会を開催、その熱気と勢いを全米に拡大し、競り勝つというものだろう。
 しかし懸念されるのは同氏の過激な個人攻撃ぶりだ。バイデン氏の息子が外国から巨額の報酬を得ていた疑惑を取り上げ「バイデン一家は犯罪組織だ」と罵倒、中西部ミシガン州の集会では、支持者から民主党の州知事を「投獄しろ」との声が上がると、「全員を投獄しろ」と応じて見せた。オバマ前大統領やバイデン氏自身を指したものであり、社会の分断と対立をあおる言動に他ならない。
 集会では参加者が密集し、マスクをする人はほとんどいない。トランプ氏は「自分はスーパーマンだ」と感染に負けなかった強さを誇示。政権のウイルス対策の支柱であるファウチ博士を「大惨事だ。あほの話にうんざりだ」とこき下ろした。
 トランプ氏の科学軽視の姿勢は環境問題からコロナウイルスまで随所に見られるが、米国が最多感染国になった責任の大半はこうした対応にある。
 有力紙ニューヨーク・タイムズは「国家的危機を終わらせよう」との社説を掲げ、トランプ氏の再選に反対を打ち出した。主要メディアだけではなく、権威ある科学誌や大衆誌もバイデン氏支持を表明しており、トランプ氏への風当たりは強い。
 政治家は自分の利益ではなく、社会へ奉仕することを優先すべきだが、トランプ氏には「欠陥人間」(元米高官)と評されるように、信用できない言動が多すぎる。
 超大国の指導者として「どちらが信頼に足り得るか」。米有権者に求めたいのはこの尺度だ。


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