ーー星槎ジャーナルとはーー
 星槎ジャーナルでは、世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマに、星槎の理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし広く発信していきます。


ーー「星槎ジャーナル」のスタートについてーー
 このたび、大学大学院のホームページに「ジャーナル」を立ち上げ、スタートさせていただくことになりました。
 世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマにの理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし、学内外に発信していこうという試みです。

 過日、「ジャーナル編集委員会」(編集長佐々木)の第1回会合を開催し、取りあえず走り出すことにしました。走りながら考えるのか、という叱責をいただきそうですが、グループの広報の一助になればとも思っております。
 ジャーナル第1号は「わが身を見つめ直す時に転換しようコロナ禍、デマに惑わされるな」(佐々木執筆)を掲載しました。ちょっと長めですが、コロナ禍の中で、デマやフェイクニュースにどう対応したらいいのか、というのがテーマです。
 星槎グループ教職員の投稿を歓迎します。掲載に当たっては編集委員会の内規に従って決めさせていただきます。また編集委員会から執筆をお願いすることもあろうかと思いますので、前向きにご検討ください。

 「ジャーナル」に掲載する原稿につきましては、テーマを問いませんが、結果として、内容がの3つの約束などの理念につながったり、想起させたりするものであれば、一層歓迎したく思います。ジャンルはシリアスなものでも、エッセイでも、国際交流記や旅行ルポでもなんでもござれです。楽しく、ためになり、タイムリーという3つの「T」が原稿の1つの目安です。

 原稿の長さは400字詰め原稿用紙換算で1枚から10枚程度までと考えていますが、厳格には規定しておりません。掲載の頻度については不定期としてスタートします。

ジャーナル編集長 佐々木 伸
 

星槎ジャーナルー記事一覧

星槎ジャーナル[根記事一覧]
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事務局(小林)2022/01/21 19:34:45

評論「バイデン政権1年」
◎指導力の回復が急務だ “第二のカーター”になるな

2022年1月21日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

▼ワースト2位の支持率
 米国にバイデン政権が誕生して1年がたった。だが、バイデン大統領の支持率は歴代ワースト2位と低迷、トランプ大統領ら共和党勢力との分断は深まる一方で、「国家の団結」という公約はいまやむなしく響く。
 政権の足を引っ張っている最たる要因は新型コロナウイルス拡大や物価上昇だが、大統領の指導力不足も大きな理由だ。政権浮揚の切り札だった歳出法案などが与党民主党内の造反で成立が危ぶまれているのが象徴的だ。秋には中間選挙を控える同氏にとって指導力を回復し、強い大統領像を示すことが急務だ。
 同氏の支持率は就任当初は約57%だったが、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退の混乱を契機に急落し、年間の平均支持率は42%程度にまで落ち込んでいる。最近では30%台という世論調査もある。同時期としては、トランプ氏の37%に次ぐ低迷ぶりだ。
 バイデン大統領は実績として、失業率の大幅改善と1兆ドル(約114兆円)という巨額なインフラ投資法の成立をアピールしている。だが、オミクロン変異株のまん延でコロナ禍対策が不首尾の上、インフレが高進し、ガソリン価格の高騰など国民の生活を直撃していることが不人気の理由だ。
 政権はワクチン接種の拡充をウイルス封じ込めの柱としているが、野党共和党の支持者らが接種に反対、国民の2回以上の接種率は6割強でしかない。接種の是非が社会の分断要因になっていることが進まない理由だ。保守派が多い最高裁が最近、政権が企業に求めた「接種義務化」を退けたこともバイデン大統領には手痛い打撃だった。

▼身内の造反で弱いイメージが増幅
 79歳という高齢のこともあって大統領には当初から弱々しいイメージが付きまとってきた。しかしここにきて身内である民主党内の造反を抑えることができない指導力不足も露呈、その印象が広まっているのが現実だ。
 昨年末、政権の成長戦略の柱である大型の歳出法案が与野党拮抗の上院で、1人の民主党議員の反対で成立の見通しが立たず、採決が見送られた。下院で通過していた法案だっただけに大統領の与党統率のふがいなさが浮き彫りになった。 
 大統領はまた、非白人の投票権制限を狙った州法に対抗する連邦法の通過を議会に要求しているが、民主党議員がまたも上院で造反し、暗礁に乗り上げてしまった。
 投票権の制限は郵便投票などが導入された20年の大統領選挙でトランプ氏が敗北したことに対し、危機感を深めた共和党側が数の上で優位にある州議会で推し進めている政策。米メディアの報道によると、約20州で投票をしにくくする法案が成立した。例えば、南部ジョージア州では投票所の数が減らされたし、他の州では郵便投票の期間が短縮されたり、有権者の身分証明の厳格化が盛り込まれた。民主党支持の黒人ら非白人の投票をやりづらくすることが狙いだ。バイデン氏らは民主主義の侵害と反発している。

▼「内戦」も取り沙汰
 こうした中、大統領は昨年の議会襲撃事件の1周年の演説で、あらためて国の結束を訴える一方、これまで「フォーマー・ガイ(元のヤツ)」と無視し続けてきたトランプ氏について、名指しはしなかったものの「前大統領」と16回も言及、強く非難した。トランプ氏ら共和党側は「事件を党派攻撃に利用している」と猛反発、国家の融和どころか、逆に分断が強調される形になった。
 24年の次期大統領選にはトランプ氏が再出馬することが濃厚だが、ニューズウィーク誌は「次期大統領選の投票日前後に、武力抗争が起きる可能性は十分ある」として、トランプ氏支持者と民主党支持者の間で“内戦”もあり得るとの暗い見通しを示唆している。
 自由と民主主義のリーダーである米国で“内戦”が起きるとは信じがたい話だが、昨年1月6日の議会襲撃事件を想起すれば、にわかに現実味を帯びてくる。
 内政で窮地にあるバイデン大統領だが、外交でも指導力を発揮しているとは言い難い。対立が激化している対中関係、ロシア軍の侵攻が懸念されるウクライナ問題でも、進展を見いだせないでいる。
 こうした大統領に対し、早くも“第二のカーター”になるのではないかという憶測も出始めている。民主党のカーター元大統領はイランの米大使館人質事件で弱いイメージが定着し、再選を果たせなかった人物だ。11月8日の中間選挙は政権の「信任投票」の意味合いが強いが、上下両院とも共和党が過半数を取り、ホワイトハウスとの間でいわゆる“ねじれ”の状況が生まれるとの予測が多い。現実となれば、バイデン氏が政策を進めるのははるかに困難になるだろう。そうなる前に大統領は党内の指導力を回復し、強い大統領のイメージを打ち出せるのか。残された時間は限られている。

事務局(小林)2021/12/18 17:27:07

編集日記:WE NEED JUSTICE― 国際交流の道 ―

2021年12月17日/執筆者:坂田 映子  教授(星槎大学 共生科学部/大学院 教育学研究科)
 浄明寺のカラカラと落ちる茶色の葉や、地面を転げまわる紅葉の葉擦れの音が際立ち、音と色のコントラストが初冬を象る。SAABの日、ブータン留学生は、国の「ゴー」を身にまとい、エリトリア留学生は緑と黒のスポーツウェアで、ミャンマー留学生はロンジー姿で登場した。朱色の波文様はヤンゴン、緑色のストールはチン州のものだ。鮮やかな色合いは、浄明寺の風景に重なる。そばに「サウン・ガウ(竪琴)」を置く。触れれば竪琴は絹のように柔らかい音を醸し出すが、今、ミャンマーに轟く爆発音は、蛮行の音だ。

▼平和は再びミャンマーに訪れるか
 2012年NLDの大勝によって民主化されたミャンマーは、経済的にも教育的にも発展が約束されていた。人々は勤勉に働き、ヤンゴンは活気に溢れていた。タウンシップの学校は、ミャンマー国歌『我、ミャンマーを愛さん Gaba Ma Kyae Myanmar』を、毎朝、講堂や校庭で歌った。民主主義を日本の復刻版で教え、子どもたちはその中で伸びやかに成長した。そうした中、ミャンマー国軍は2021年2月クーデターを起こす。市民は「暗黒の軍政時代への逆戻りは絶対ノー」と国軍に怯むことなくCDM(Civil Disobedience Movement)運動を繰り広げた。その運動も困難になり、市民は生きるため仕事に復帰し、以前の生活に戻ろうとしたが、政変の混乱が続く中、欧米の輸出規制で歯磨き粉や石鹼の輸入が止まっていった。

 多民族国家のこの国は、協調することの困難さを抱えたままだ。140万人ともいわれるラカインムスリム(ロヒンギャ)の一部の人々は、ベンガル湾の島に送り込まれ、約100万人のムスリムはバングラデシュに難民として流れた。どこでも市民権を得られず、他の民族からも異教徒として排除されたままだ。キリスト教徒の多いカレン州の数万人の少数民族は、タイ側の国境近くに集まっているが、国際機関からの援助は削減され危機的状況にあるという。あれから10か月、大都会ヤンゴンの学生らは学校で勉強ができずにいる。“WE  NEED JUSTICE”の声は筆舌に尽くしがたく、未だ情勢は改善していない。

▼知繋プロジェクトでの出会い
 出演が危ぶまれたミャンマーから、「日本一日本語学校」で学ぶヤンゴン大学医学生、ダゴン私立高校の生徒ら7名が、SAABのオンライン・プログラムに参加できたことは幸運だった。悲壮な影一つ見せず未来への希望だけを抱えて登場した。日本でICTを勉強するためには何の勉強が必要か、物価は高いか、バイトはできるかなど次々に質問が飛んだ。会場にいるエリトリア、ブータン、ミャンマーの留学生、星槎高校の学生らは、自己の経験談を語った。ミャンマー側は、自ら学んできた日本語が日本人に通じたという喜びに湧いた。「チーズーバー(ありがとう、またね)」の後の学生たちは笑顔に包まれていた。
 エリトリアの学生は自国の国旗について、「緑は土地の肥沃さ、農業を表し、青は海であり紅海を表す。赤は自由への闘争で流された血。赤の部分が左から右にかけて細くなり、右辺で消えているのは、戦いの流血が将来無くなって欲しいという願いなのだ」と語った。エリトリア国民もまた、歴史上、他国の支配、内紛に翻弄され続けてきた痛みをもつ。
 佐々木伸教授による「平和と共生」の講話からは、世界のおよそ30ヵ国に渡る紛争と人権侵害の実態、戦争ジャーナリストとしての体験などが伝えられた。国際社会の中で若者が最も考えなければならない「平和と共生」について、「その解は君たちにある」の問いに、学生らは真剣に取り組んだ。同教授は、併せて、ネット誤情報から真実を見抜くため、情報リテラシーの向上が欠かせないことも強調した。

▼平和を妨げるもの
 国の分断やクーデターが世界に打撃を与え、平和の妨げとなっていることは、アフガニスタン、エチオピア、ミャンマー国などにより一目瞭然である。人権や自由が奪われる光景、何百万もの人々が空腹を抱えている姿、海に呑まれ兵士に抱きかかえられた小さな子どもの亡骸、暴力的な女性蔑視、難民や移民の脆弱な人々への標的化など、あまりに非道で、決して許されるものではない。既に起きている地球温暖化の被害と、それによって失われていく未来も重く受け止めなければならない。このほかにも、身の回りの地域社会で、人を排除しようとする動きはあちこちに存在する。権威主義に走る大人の愚かな行為などがむき出しの世の中で、若者たちは、良いものも悪いものも、大人が決めたことを引き継いでいく運命にある。
 最近の調査「英バース大などの国際研究チームが欧米やインドなど10カ国の16~25歳を対象に実施した調査2021年9月」では、10カ国の若者75%が、平和を妨げる地球の出来事に強い不安を持っており、未来に希望が持てずにいることを指摘している。

▼国際交流は、共感と共生の道
 コロナ禍によって、国際交流をオンラインでカバーしようする動きは世界的に広まった。今後、日常的になっていくという展望も生まれつつある。この新しい形の国際交流が最も追求されるべきは、絶え間ない分断に苦しむアフリカ、アジア、中東地域になるのではないだろうか。これまで培ってきた信頼関係を、裾野の広い市民レベルの相互理解と共感へと高め、それを基盤として、我々が共通に抱える課題を、チームを組み、話し合いながらともに解決に向け、協働していきたいと思いはめぐる。
 だが、懸念は、国際秩序が根底から揺り動かされている事実に対し、今、持っている学問やこれまでの情報では、既に役立たない流れの中にいることだ。日々世界情勢は激しく変化し続け、コロナ禍の収束も見えていない。不安をもつ若者の声を聞くとともに、若者の国際感覚豊かな人材育成のためにも、国際交流を推進し、真の「共感・共生」の意義を広く共有する必要が求められている。

事務局(小林)2022/01/10 20:19:45

評論「2022年の国際展望」
国家間の連携強化を急げ-共生意識を高め諸問題の解決を

2022年1月9日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 新年の世界を展望するとき、「平和と安定」にはほど遠い「混沌と不安」に満ちているように見える。
 その最大の要因は新型コロナウイルスの地球規模の感染拡大にストップがかからないことだろう。紛争地などの飢餓の危機に対する人道支援問題や気候変動への対策も喫緊の課題だ。
 国際関係でも、新冷戦と呼ばれる米中対立やウクライナをめぐる緊張など懸念が山積している。
 こうした諸問題の解決には各国が協調や対話を重視し、国際的な連携強化を急ぐことが不可欠だ。
 コロナ禍はこの2年間、世界を揺るがし、私たちの生活のありようを一変させた。感染力の強いオミクロン変異株の出現で、各国はワクチン接種の義務化や外出制限などの対策に追われ、世界経済への深刻な影響が心配される事態になっている。わずか1週間前まで欧米の感染急拡大を傍観的に見ていた日本も感染爆発に直面しているのは周知の通りだ。
 こうした中で一段と懸念されるのは「ワクチン格差」問題だ。日本を含め富裕な先進国が3回目のワクチン接種を推進する一方で、アフリカなどの発展途上国では1回目の接種さえ遅れているのが実情だ。
 この格差が解消されない限り、コロナ禍の終息は実現しない。ワクチン公平供給に向けた国際枠組み「COVAX(コバックス)」への支援が必要だ。
 食料不足で飢餓の危機にあえぐ人々への人道支援も待ったなしの問題だ。米軍撤退後の混乱が収まらないアフガニスタンや、内戦の続くイエメンなどでは、国民の多くが1日約200円の国際貧困ライン以下の生活を強いられている。支配者らに搾取されないよう人々に直接届く援助を急がなければならない。
 国際関係では、米中対立の行方が最大の焦点だ。人権を重視するバイデン米政権の発足以来、両国の対決は「貿易戦争」から「理念戦争」へエスカレートした。バイデン大統領は習近平・中国国家主席と3度、オンラインなどで会談したが、対立は解消に向かうどころか、先鋭化の様相を呈している。
 米国内では中国の台湾侵攻論も取り沙汰されているが、支持率が低迷し、秋に中間選挙を控えるバイデン氏は対中強硬姿勢を示すため、北京冬季五輪の「外交ボイコット」に踏み切った。英国やカナダなどがこれに追随した。
 中国の習近平国家主席は今秋の共産党大会で異例の党総書記3期目を目指しているだけに、五輪はなんとしても成功させたいところだろう。
 バイデン氏、習近平氏とも歩み寄ることを難しくさせる国内事情をそれぞれ抱えているわけだが、スポーツの祭典である五輪が政治問題化したことは残念と言わざるをえない。
 ロシア軍の侵攻が懸念されるウクライナ情勢の緊張緩和も急務だ。北大西洋条約機構(NATO)はプーチン・ロシア大統領が軍をウクライナに侵攻させた場合、直ちにロシアに対する厳しい経済制裁に踏み切る方針で、制裁内容を既に策定したとされる。
 しかし、NATOはプーチン政権との対話を続け、戦争の芽を摘まなければならない。侵攻が高い代償を伴う愚策であることを説くと同時に、ロシアの安全保障の懸念を和らげる姿勢も示すべきだ。
 いずれの課題も各国が協調し、「共生意識」を高めなければ解決しない。世界は国連など国際機関の旗の下に結集し、共生社会実現に向け尽力しなければならない。

事務局(小林)2021/12/18 16:59:37

評論「民主主義サミット」-世界の分断を深めてはならない

2021年12月16日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 このほど開催されたバイデン米大統領主導の「民主主義サミット」は世界に非民主的な国家が増える傾向にある中、民主主義という「普遍的な価値観」を再考する上で大きな意味があった。だが、現実にはサミットへの招待リストが「善」と「悪」の二者選別に受け取られたことも否めない。専制主義勢力の中心とされる中国とロシアが反発し、対米関係がさらに悪化する結果となったのは残念だ。米国は世界の分断と対立を深めず、摩擦を解消する努力を強化しなければならない。
 中ロはサミットに対し「分断をあおるもの」「冷戦思考の新たな線引き」などと批判を強めた。特に共産党一党独裁という独自の統治手法で経済発展した中国の反発は激しかった。台湾が招待されたことも怒りを増幅させた要因だったろう。サミット前に「中国の民主」白書を公表、中国が米国より優れた政治モデルを創造したとし、一党支配体制を「民主制度の一形態」とまで主張してみせた。
 米国の同盟国ながら招待されなかったハンガリーは「無礼」と批判、招待されたパキスタンは中国の感情に配慮し欠席した。中国の影響力が強いアジア諸国は参加しても目立たないように振る舞った。中国の怒りを恐れたためである。
 参加国の招待の基準があいまいだったことも問題だ。強権色の濃いフィリピンなどの指導者が招かれたのは「中国包囲網」の戦略上、必要だったため、との見方が強い。招待のやり方が米国の都合を反映した「二重基準」との批判を受ける所以だ。
 中ロが指摘するように、そもそも「米国に民主主義を掲げる資格があるのか」との問い掛けに同調する国は多い。
 昨年の米大統領選挙の際、トランプ前大統領が民主主義の基本である選挙の結果を認めず、「選挙が盗まれた」として支持者を扇動、議事堂を襲撃させたことは記憶に新しい。黒人など少数派が差別されている人権問題もなんら解決していない。
 バイデン氏は選挙期間中、民主主義を再生させるため速やかに行動すると外交誌に寄稿し、サミットの開幕演説でも「再生には不断の努力が必要」と力説した。サミット自体、次期大統領選への再出馬が取り沙汰されているトランプ氏の「理念軽視」の姿勢を批判する意味もあったのではないか。
 中ロとの対立が先鋭化したのは昨今の国際情勢とも密接に絡んでいる。中国が力を入れる来年の北京冬季五輪に対し、米英豪カナダ、ニュージーランドの「ファイブ・アイズ」はウイグル族への人権問題を理由に政府当局者を派遣しない「外交ボイコット」に踏み切った。ロシア軍の侵攻がささやかれるウクライナ情勢は緊迫の度合いを増し、米国や欧州連合(EU)はプーチン大統領に対し、ウクライナに侵攻した場合、これまでにない規模の経済制裁を加えると警告、対立している。
 バイデン大統領は来年に再び対面でサミットを開催する方針だが、まずは中ロと対話を重ね、緊張緩和に取り組むことが先決ではないか。

事務局(小林)2021/10/25 14:16:06

◎参加しながら学ぶことこそ重要だー教職員には“主体的”行動を呼び掛け
 宮澤保夫会長〜SAABを前に語る。

 星槎ジャーナルはこのほど、11月13日開催のSAAB(Seisa Africa Asia Bridge)を前に、星槎グループの宮澤保夫会長・理事長にインタビューし、恒例のイベントの意味などを聞いた。
 会長はSAABがユネスコの「ESD賞」の候補になったことなどについて言及、国連職員も子どもたちの驚くべき知識力と好奇心、人とのつながりを実践しようとしていることに「日本にもこんな学校があったのかと感嘆した」と述べ、子どもたちがさまざまな事がらに対し、「問題意識を持ち、参加しながら学ぶことがこそ重要だ」と熱い思いを語った。
 会長は、さらに教職員に対しては形だけではなく、「主体的に参加してほしい」と強調、SAABに「心から共感して」行動するよう呼び掛けた。宮澤会長は「アフリカにも日本にも、互いを知りたいと思う子どもたちがいる。こうした子どもたちを、インターネットを通じて交流させたい」とし、国際的なオンライン交流を一段と深めていく考えを表明した。
 SAABは今年が7回目。コロナ禍のため昨年に続き、従来の2日間の日程を1日に短縮してオンライン開催になった。SAABはアジアやアフリカの国々のことを「知り」「繋がり」「共感し」、共生社会や持続可能な社会の実現、平和の意味を考える星槎グループ恒例のイベント。国際的にも評価されている。(聞き手:星槎ジャーナル編集長佐々木伸、編集委員坂田映子、小林学<2021年10月8日/13:30〜インタビューの内容>)

―SAAB本来の意味と目的は何だったのか。

(宮澤)地理上の距離ではなく、「心の距離」として身近に考えてほしかった
 子どもたちは将来に向けてさまざまな国の文化やあり方を理解していかなければならない。どのような立ち位置にいるのかを教えてあげる必要がある。学校の授業や学習では分からないアフリカやアジアの文化や生活環境、どんな暮らしをしているのかなどを肌で感じてほしいと思ったのが元々の発想だ。
 例えば、アフリカでは多くの部族間のいさかいや紛争、宗教的な対立が存在している。なぜそのようなことが起きてしまうのか。アフリカにある50数カ国は今や後進国という印象から変化し、ITもすさまじく発展しつつある。こうしたことは教科書だけでは分からない。要は地理的に遠い国という捉え方ではなく、「心の距離」として身近に捉えてほしいということだ。実際に直に接して体験する。これこそ「共感理解教育」ということだろう。

―何か直接的なきっかけがあったのか

(宮澤)外務省高官が自らエリトリアに同行
 エリトリアへの支援と交流を進め、現地への訪問を重ねる中で、2015年に10日ほどエリトリアを訪問したが、その時、当時の外務省アフリカ部長だった丸山則夫氏(現駐南アフリカ大使)もぜひエリトリアに行ってみたい、とのことで同行された。エリトリアは“アフリカの北朝鮮”などと言われていたが、実際に同国に入ってみると、人々は勤勉で伝統を大切にし、市民がこぞって清掃するなど想像以上に清潔な国だった。多くの宗教が混在していたが、大きな争いはなく、文化的に異なっていても互いに認め合っている。「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」という星槎の理念ととても似たものを感じている。同国の大統領とも2時間にわたって話をする機会があり、交流を促進したいとの認識を深めた。
 丸山氏とエリトリアで会談する中で、「日本の若い人々がアフリカのことを知る、繋がる機会をつくってほしい」という強い願いを託された。帰国後、すぐに星槎中・高等学校の教職員らと訪問の結果について意見を交換し、さまざまな紆余曲折を経てSAABというコンセプトができあがり、その年のうちに第1回のイベントの開催にこぎつけることになった。丸山氏をはじめ外務省の方々から多大な協力をいただき、第1回目から各国の駐日大使をはじめ、多くの大使館の参加を得ることができた。これは一般の学校ではあり得ないことだ。

―SAABには「知繋(ちけい)」という言葉がキーワードになっているが?

(宮澤)辞書には載っていない私の言葉だ
 「知繋」とは私の造語で辞書には載っていない。「知る」ことによって人と「繋がる」、仲間になるという意味だ。物事を理解するための心構えと言ってよい。その意味で遠いアフリカやアジアの国々を理解するというSAABにはふさわしい言葉だろう。これは星槎の理念である3つの約束に通じるものだ。知るためには学びが不可欠で、子どもたちはSAABに積極的に参加することで習得・探求の学びを深めることになる。今では星槎の子どもたちは皆、この「知繋」という言葉を理解しており、SAABとは切っても切れない関係だ。


―こうした子どもたちの不断の学修がユネスコで高い評価を受けることになったのではないか?

(宮澤)国連職員の驚がくした
 SAABで子どもたちが発表する、未来を見据えたプレゼンテーション(sTED)はいわゆるアクティブラーニングそのものであり、 内容はとても立派で大学生のような発表をしている。SAABの取り組みが日本から今年度の「ユネスコ/日本ESD賞」候補に選ばれたのもこうした取り組みが評価された結果だろう。11月に正式に受賞するかどうか、発表される見通しだが、期待したい。
 星槎の中学生たちがニューヨーク海外研修で国連本部に行き、国連職員と話をした際、彼らは星槎の子どもたちの驚くべき知識力や好奇心、人との繋がりを実践しようとしていることに感嘆した。「日本にもこうした教育プログラムを実施している学校があったのか」と驚がくしたと聞いている。子どもたちが主体的に興味を持って取り組み、社会や政治、歴史などさまざまな問題について触れていることが評価されたと思う。
 また、星槎グループの一つである世界こども財団(FGC)の活動についても国連で評価され、正式な発表はこれからになるが、国連におけるNGO(非政府組織)の参画を推進する経済社会理事会(ECOSOC)の推薦を受け、協議資格を得る予定だ。この協議資格により、国連への出入りが許可されるパスが発行されるほか、国連の会議やイベントに参加し、意見を発表する機会が与えられることとなる。実践と教育的なあり方、ステークホルダーとの関係強化についても認められたのだろう。
 これらは全て、星槎グループにおいて教育機関である学校と、世界こども財団が協働を進めてきた成果と言えるだろう。
 とりわけ、国連で発表した、国難の中にある子どもたちと友達になりたいと願う中学生の思いに支えられた実践は、素晴らしいものであり、これまでの小・中学校教育の基礎力に支えられているものであるといえる。学ぶべき福祉の世界などにも同様のことがいえるのではないだろうか。
 一方、国同士が宗教の違いによっていさかいが起き、内紛に発展している実例は多く見られるが、宗教そのものは、互いの宗教を認め合うことであり、「人を認める」「排除しない」「仲間をつくる」の根底を成す考え方は同様である。例えば、ブータン王国は、多様な宗教をもっているが、皆、仲が良い。山岳地帯の美しい風景や伝統的な音楽などを伝えていこうとしている。これからの国際社会では、我が国や諸外国の宗教・自然環境・文化などを子ども自身が理解していくことが必要であり、今、そのスタート地点にいるのではないか。

―今年のSAABについて指摘したい点はあるか?

(宮澤)一緒に参加し、何ができるかという視点が大事
 教職員、特に大学の教職員には「主体的に」SAABに参加するという視点と意識を持ってほしい。単なる研究の対象や発表の場と考えてほしくない。形ではなく、主体性が肝要だ。本質的に関わっていくという気概を望みたい。主体的に参加するということでないと、持続性が生まれない。「参加しながら勉強する」ことの重要性をよく分かってほしい。教育とは子どもたちや、国の将来のことを考えることであり、未来に対して伝え、残していくことが必要ではないのか。
 過去-現在-未来に伝えるものには、衣・食・住にまつわる資源・環境・文化などがあるが、われわれは、それらについて伝える準備をしたい。できることなら、未来に感謝されるような、文化的・社会的資産を後世に残したい、われわれがどのような社会をつくりたいのか、どのような未来をつくっていきたいのか、という理念や哲学が必要不可欠だと考えている。子どもたちには未来がある。われわれは未来社会を俯瞰して、将来の幸福に向けた良い知恵や制度、社会を残す必要があるのではないか。

―いま、国際交流でやってみたいことは何か?

(宮澤)アフリカの子どもたちとネット交流を
 アフリカには日本を知りたいという子どもたちが大勢いる。日本にもアフリカを知りたいという子どもたちがいる。こうした子どもたちにインターネット交流をさせてやることはできないか。これらの交流は、国際理解と共生社会実現の一助にもなると考えている。コロナ禍が収束したら直に交流することも考えたらどうだろう。言葉の問題や費用の問題もあるが、一歩踏み出し、一見難しそうな目標でも継続していくには、そうした取り組みを次世代に伝えていくことが何より大切だ。積極的に航空会社などにも協力を仰ぎ、できないか、考えたい。

写真①(丸山氏との会談の様子))


写真②(丸山氏との会談の様子))

事務局(小林)2021/10/20 10:39:27

「国際社会と人道危機」

2021年10月19日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

◎アフガニスタンの子どもを救えー飢餓の窮状に猶予はない
 アフガニスタンに関する緊急の20カ国・地域(G20)サミットがこのほどオンラインで開催され、「国民に直接届く」人道支援や女性らの人権促進などの取り組みを確認した。人道支援が複雑な形になったのは同国で実権を握ったイスラム主義組織タリバンの統治手法に多くの疑念があるためだが、このままでは支援が大幅に遅れる恐れがある。特に「9割の家庭で十分な食料が得られていない」(世界食糧計画)窮状の中、子どもたちは飢餓に直面しており、猶予はない。G20を代表とする国際社会は早急に効果的な食料援助を実施し、子どもたちを救わなければならない。
 米駐留軍が完全撤退し、タリバンが同国を掌握して約2カ月が経過した。しかし、国内の政治的混乱とテロなどの政情不安は続いたままだ。その最大の要因はタリバンの政権運営にある。
 なによりも厳格なイスラム原理主義に基づく恐怖政治への懸念が消えないことだ。実際、犯罪者の遺体をクレーンでつるすなどの残虐な行為も散見される。とりわけ女性の外出や就労が規制され、中等教育以上の女子の通学が認められないなど基本的な人権侵害が目立つのは容認できない。公務員などの給料未払いや失業、インフレも深刻で、国民は家財道具を売って食料を確保するなど「国家破綻は秒読み」という指摘もある。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「緊急支援がなければ、人道危機に直面する」と警告している。
 G20サミットで欧州は約1500億円、日本も200億円の緊急支援を表明したが、実際には進んでいない。タリバンの非民主的な言動に国際社会の不信感がぬぐえず、タリバンに援助すれば、不正流用され、国民に届かないと恐れているからだ。米欧は国際機関を通じて国民に直接届く支援を模索しているが、タリバンの積極的な協力がない現状ではうまく進んでいない。
 タリバン自身、援助は喉から手が出るほど欲しいし、国際的に認められることを望んでいるのも事実だ。米欧はこうしたタリバンの足元を見て、「タリバン政権の承認」と「支援」をてこに、①国民の自由な出国②テロ支援の放棄③女性の人権尊重―の実施を要求。同国の海外資産も凍結して行動を改めさせようとしている。しかし、タリバンは「人道支援と政治は別問題」と反発。国連事務総長が「女性の権利を尊重する約束が守られていない」と懸念を示す通り、原理主義的な姿勢は基本的に変わっていない。故に人道支援も滞ったままだ。
 問題なのは中国とロシアが米欧の対応を批判し、国際的な連携に亀裂が入っていることだ。今、サミットでも、バイデン米大統領や岸田文雄首相は参加したが、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は欠席した。大国同士の政治的な対立は人道危機の解決にはつながらない。こうした中、タリバンを敵視する過激派組織イスラム国(IS)の自爆テロが相次ぎ、治安が悪化しているのは看過できない。治安を回復するためにも、迅速な人道支援が不可欠だ。
 そこで国際社会に提案がある。タリバンの統治手法を改めさせる政治的要求を一時的に棚上げした上で、タリバンの行動への監視・監督を強化し、「期間限定で援助を先行させる」方法もあるのではないか。子どもたちの生命を助けるため、国際社会の知恵と決断が求められていると思う。

事務局(小林)2021/10/02 12:58:44

「キング」と「神」、そして星槎〜バスケの世界から社会貢献を考える〜

 
2021年9月30日/執筆者:小澤 勇人 星槎大学事務局

 NBANational Basketball Association)のファンの間でたびたび話題に上がるのは、「キング」は、「神」を超えることができるのか、というものだ。キングとはレブロン・ジェームズ、神とはマイケル・ジョーダンのことである。

 いずれもNBAで偉大な選手で、マイケル・ジョーダンは、計6度の優勝を達成。一方、レブロン・ジェームズは現在まで4度優勝。37歳という年齢ながら、今もチームのエースとして活躍している。
 生涯成績や優勝回数、MVP受賞歴などから、若干ジョーダンの方が史上最高の選手だという声が上回っているが、レブロンはまだ現役のため、現段階の結果だけでは決められない。
 加えて、2022年シーズンを迎えるにあたり、レブロンが所属しているロサンゼルス・レイカーズは、大型補強を行った。他のチームでエースとして活躍していた選手の獲得に成功し、新シーズンの優勝候補。5回目の優勝を果たすことも十分考えられる。

 もし、ロサンゼルス・レイカーズが予想通り優勝した場合、ジョーダンが6回、レブロンが5回優勝となり、経歴的に遜色がないと言えるだろう。

 

 では、どこでどちらが史上最高のバスケットボール選手だと判断するだろうか。

 難しい問題で、なおかついろいろな考え方はあるのは承知だが、私は、社会への影響力、バスケットボールに対する貢献度ではないかと思っている。

 ジョーダンが活躍する以前は、日本では、プロリーグなどもなく、バスケットボールへの関心は薄かったように感じる。そこに、マイケル・ジョーダンという生きる伝説が現れ、瞬く間にバスケットボールファンを増やしていった。

 そして、この伝説は、日本の漫画・アニメ業界にも影響している。

 そう、社会現象にもなった「SLAM DUNK」だ。

 このバスケットボールを題材にした漫画の主人公、桜木花道のライバルである流川楓は、マイケル・ジョーダンがモデルだと原作者も後に語っており、「バスケットボールは面白い」と日本全国で認知され、大ヒット。

 この日本で起きた社会現象のおかげで、バスケットボールの競技人口は20万人増加し、一時的ではあるが、サッカーの競技人口を上回ることとなった。

 また、マイケル・ジョーダンは、ドリームチームの一員としてオリンピックに参加し、世界中にバスケットボールの素晴らしさを伝えた。世界中に知れ渡ったジョーダンの活躍は、スポーツブランド「NIKE」のサブブランドのロゴ(ジョーダンの姿)になるほどで、今もなお、世界中で愛され、バスケットボール競技者はもちろん、皆が好んで愛用している。

 そして、2020年には、スポーツアスリートとして、社会貢献のため、人種偏見の撲滅と社会正義に貢献している団体に1億ドルの寄付を行っている。

 加えて、経済的困難を強いられている世帯や、犯罪率の高いエリアに住む学生を対象に、WINGS Scholarship Program”を立ち上げ、大学の授業料を全額支給するなど、積極的に社会問題に対する活動を行っている。

 

 それでは、レブロン・ジェームズはどうだろうか。

 社会貢献活動、社会への問題提起では、直近でいうと、女子テニス選手の大坂なおみ選手のマスクでも有名となった「Black Lives Matter」の運動を積極的に行っている。2020年に起こった黒人が白人警官に殺害された事件に対し、レブロンは、黒人選手も多く活躍しているNBAの先頭に立って抗議活動を行い、現在も社会問題に対して試合後のインタビューやSNSを通じて、今も発信し続けている。

 この活動を通して、「黙ってドリブルだけしているわけにはいかない。この社会にとって、若者たちにとって、出口がないと感じている子どもたちにとって、僕が声をあげることはとても大事なんだ」 というレブロンのメッセージはとても印象的だ。

 また、レブロンは自身の持つ財団で、授業料無償の「I Promise School」という学校を作り、多くの子どもたちに学ぶ機会を提供し続け、自ら行動し、社会貢献活動を行っている。

 

 ここまで述べてきた通り、社会貢献活動に積極的に関わっており、世界に大きな影響力をもっている二人だが、社会貢献度とそしてバスケットボール界への貢献度を鑑みて、最初の疑問に戻ろう。

 「キング」であるレブロン・ジェームズは、「神」のマイケル・ジョーダンを超えることができるのか?

 私の答えは、YESだ。

 レブロンのように、常に向上心を持ち、前進し続けることができれば、きっと神を超えることができるだろう。

  そして、キングや神を生み出した組織(NBA)にも焦点をあててみたい。

 二人以外にも素晴らしい心を持ち合わせた選手を生み出しているNBAもまた、社会貢献活動を行い、より良い社会になるように尽力している。

 2005年当時のコミッショナー、デビッドスターンが立ち上げた「NBA Cares」は、リーグ、チーム、選手が一体となって5年間で「世界規模で数百カ所の学び、遊び住まいの提供」、「数百万時間の奉仕活動」、「数千万ドルの寄付金」という目標を掲げスタートした。

 組織としてこのような社会貢献の精神があるからこそ、個人としても積極的に活動している選手が多くいるのだと思う。ただ人々を楽しませるだけではない、社会から尊敬される組織だ。

 

 さて、私が所属している星槎グループも社会に疑問を投げかけ、常に挑戦し続けてきた集団だ。社会に必要とされることを考え、誰も実行できなかったことを実現してきた。1972年に2人の生徒から始まった塾は、今や幼稚園から大学院まである大きな組織となったが、当時から目的は変わっていない。「子どもたちの未来のため」に活動を行っている。その中心が教育だっただけだ。現在は、子どもたちが通う、いわゆる「学校」だけでなく、NPO法人や公益財団法人を立ち上げるなど、さまざまな教育的環境を作り、支援している。

 公益財団法人「世界こども財団」では、日本の被災地への支援のほか、ブータン王国、ミャンマー、カンボジア、バングラデシュ、エリトリアなど、世界各国の教育、医療、スポーツなどの支援活動を行っている。

 これらの星槎の学校や団体は、すべて同じ考え、理念を根本に置いて活動している。その最たる例が、「人を認める」・「人を排除しない」・「仲間を作る」という3つの約束だ。

 これは、星槎がグループ全体で大切にしていることであり、保育園児からお年寄りまですぐに覚えられる約束だ。

 考えや思想が違っても相手を受け入れ、認める(人を認める)。
 また、違う考えだからといって排除しない(人を排除しない)。
 そして、そんな人たちも仲間に巻き込み、多様性を生み出す(仲間を作る)。

 この考えをもとに行動してきたから今の星槎があり、社会に認められたのだと思う。

 

 そして、この星槎を創った宮澤保夫は、日本では、そして世界では何が必要なのか、誰が困っているのか考え、行動し、現在も常に先頭に立って走り続けている。

 『必要なところに私は行く』(宮澤保夫,2018)

 これは、宮澤が執筆した本のタイトルであり、宮澤の思いだと思う。

 50年近く子どもたちのことを考え、子どもたちのために行動し、社会に訴えてきた。今度は、私たちの番ではないだろうか。宮澤と同じこと(実績)はできないかもしれない。だが、より良い社会を作りたいと思い、常に挑戦し続けることは誰にでもできる。宮澤の背中を追うだけではなく、自分たちで考え、行動で示していきたい。

 規模の大小は関係ない。私たちは、評論家ではなく、実行者であるべきなのだ。


事務局(小林)2021/09/22 10:01:24

生涯学び続ける教員を目指して

2021年9月20日/執筆者:西村 哲雄 教授(星槎大学大学院 教育実践研究科 教育実践専攻)

 令和3年1月26日「令和の日本型教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(中教審答申)において、教職員のあるべき姿が述べられています。それは、『学校教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて学び続け、子供一人一人の学びを最大限に引き出し、主体的な学びを支援する伴走者としての役割を果たしている』という理想的でハードルが高いと感じた先生も多いのではないでしょうか。このことを大学や大学院における自らの授業に置き換えてみたときに、自信をもって“できている”とは言い難い。

「理科を教える小学校教員の養成に関する調査報告書 平成 23 年」(JST)によれば、『もっと大学で(短大を含む)で学んでおいた方が良かったと思いますか』という問いに理科の学習内容についての知識・理解約84%、理科の指導法についての知識・技能約89%、理科の観察・実験についての知識・技能91%などいずれも高い%を示しています。このことを考えれば、当然のことながら、学部など理科の授業(例えば「初等教科教育法(理科)」)において、可能な限り観察、実験を主体とした授業構成を対面で行うことが重要であり、より実感を伴った理解が図れるものと考えます。
 しかしながら、昨年度より本学では急遽オンライン授業(Zoom)で行うことを余儀なくされました。観察、実験を伴う楽しい理科指導法をオンライン授業(Zoom)でどのように実現し、充実した達成感を学生に与えることができるのか?学生に対する質保証をどのように具現化していくのか?そのことの解決策は?

 小学生の月刊誌などでは、よく付録の工作などがついていることをヒントに、手間暇かけてちょっと大変ですが、受講生の各住所に「初等教科教育法(理科)」の授業で用いる「風やゴムの力の働き(3年生)」や「振り子の運動(5年生)」などの手作り製作キットを受講生一人一人に事前配布することにしました(【写真1】は教育実践研究科における「教材・授業研究Ⅱ(数理)」の製作キット等です)。事務局には宅急便で送っていただき感謝しています。なかには、コロナ禍のため、実家に帰っていて、手元に届いていないことを確認、急いで対応して授業に間に合わせていただきました。受講生は、宅急便が届き、「これ何だろう?」とドキドキワクワクしていたようです。各受講生が手元に実験で用いる具体物があることが肝要です。
 【写真2】は、「振り子の運動(5年生)」の実験の動画の一コマです。100円ショップで売っているスーパーボール、糸、画びょうで、簡易の振り子を作製し、実験をします。「皆さん、振り子の周期は何によって決まりますか?」この問いはある県の教員採用試験問題です。
 次の4択で答えてみましょう。①振り子の重さ②振り子の大きさ③振り子の振れ幅④振り子の糸の長さの4択です。
 小学校5年生では、「主体的・対話的で深い学び」の深い学びの部分で、条件制御という探究の過程を学びます。実際の理科室における実験とは精度が落ちたり、タイムラグ(受講生は北は北海道から沖縄まで、驚いたのはアメリカのアトランタから参加)が生じますが、、Zoomで何とかなったと思います。
そこで、何人かの学生の生の声を載せてみます。

 S1(振り子の運動の)実験を行ってみると、やはり時差がうまれたりして難しかったが、みなさんとコミュニケーションをとりながら行うことで、多少の誤差は生じるものの、実験を行うことができた。
 Zoomにてスクーリング(面接授業)を行う上で自己紹介を行い、集団で一つの授業を作っていこうとする西村先生の意図を感じた。一人一人の発言や出身地についても掘り下げる発言や発問があり、個を大事にしようとすることは授業をする上でも、生徒が自分のことを知ってもらえると思うことで、参加への意欲や安心感をもたせることにつなげていると思いました。

 S2 今回は対面ではなくZoomでの参加でしたが、実験や、体験活動を行うときに、対面のほうがいいなと感じました。座学の時は遠隔授業でも良いと思いましたが、今回の授業のように、実験がある場合は、対面のほうが他の人とすぐに話し合ったり、他の人の様子を観察できるので、やりやすいのではないかなと感じました。模擬授業に関しても、実際に対面でやったほうが実践的なものに近づくと感じました。しかし、今回の新型コロナウイルスを機に、遠隔授業が普及していって、当たり前になってくる可能性があるので、その点においては、遠隔授業だったらどう進めるか、どう工夫するかを考えて、実践することができたので良かったと思います。また、Zoom内で、グループディスカッションもできるので、そのような機能を活用することで、遠隔でも普段の対面と変わらないような授業ができると感じました。

 S3 私も学生時代は理科や科学の授業は苦痛であったし、今でもスクーリングの講義は苦手意識がある。しかし、今回のスクーリング、西村先生の講義はとても楽しく、夢中になって臨むことができた。子どもが授業の中でどんな時に楽しいと感じるかは、①夢中になれるとき、②未知と出会えるときだと私は思う。実際に西村先生の講義で同じことを感じた。①夢中になれるについては、理科の授業で言うと、何か物と比べたり、色々な方法を試したりする作業など主に観察や実験を行うときにみられる。(ペットボトルの風車、振り子など)これは例えると、サッカーやバスケットボールなどのゲームをやっているときの心理状態と似ており、何故楽しいかというと、そこには「目的」と「技術の上達」があるからである「やればやるほど上手くできる」、また「他の学生より上手くなりたい」という気持ちが子どもたちを夢中にさせ、さらに活動に夢中にさせる。私も紙コプターが飛んだ時に感動した。(本当にこんなふうに飛ぶとは思わなかった)また、①の夢中になれる楽しさがどちらかというと活動的な楽しさだったものに対して②未知と出会える楽しさは知的な楽しさに入ると考える。未知とは、新しい事実や、きまりの発見である。それを主体的になすときに楽しさは心から湧いてくる。(地層や地震など)賢くなりたいというのは、人間の根本的な欲求であり、この欲求がみたされるときの子どもは、やはり楽しいと感じると思う。私は地層の実験(動画)を見たときに、まったく違う予想をしていたので、驚きを感じた。以上のことにより、教師は、子どもが学ぶことの楽しさを感じることができる授業を行わなければならないと強く感じた。将来、教員になった時スクーリングで学んだことを生かしていきたいと思っている。追伸:西村先生スクーリングの資料や教材の準備ありがとうございました。職場でも子どもたちに教えてあげてみるつもりです。やはり、Zoomより対面での講義をしたかったです。

 S4 Zoomで理科の授業を行うことは、顕微鏡など身近に用意することができないので出来ることが限られてしまうと思ったけれど、今回の地層の映像を見たように画面共有をしてよりわかりやすく動画で実験を見ることができるのはZoomの良いところなのではないかと思いました。
 
 学生の充実感をスクーリングという短い時間で達成していくために、また、より良い授業を実践していくためには、まだまだ自らの指導方法の在り方を改善していくことが求められます。日常生活における自然事象に常に関心をもち、指導方法の工夫・改善に努めていきたいと思っています。オンライン授業(Zoom)での授業、更にはグーグルクラスルームでの資料のアップ、学生のやりとりなど、自らの授業実践をブラッシュアップしていくために、自己研鑽に励みたいと思います。

 
【写真1】:配布(宅送)した教材

【写真2】:振り子の運動のオンライン授業(Zoom)


事務局(小林)2021/09/14 18:14:48

「9・11から20年」忘れえぬ2つの出来事ーテロと憎悪の連鎖は止まらない

2021年9月13日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース) 

 ニューヨークのマンハッタンにそびえていた双子の世界貿易センタービルに旅客機2機が突っ込んだ「米中枢同時テロ9・11」から20年がたった。2977人の命を一瞬にして奪ったこの攻撃は国際テロ組織アルカイダによるテロだった。当時のブッシュ米政権は「善と悪の戦い」を叫び、アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの引き渡しを拒んだイスラム原理主義組織タリバン政権を打倒するためアフガニスタンに攻め込んだ。あれから20年―。米軍の撤退でタリバンは復権し、テロリストは世界各地に拡散、世界はより不安定になったように見える。歴史を画するテロ事件20周年という節目に、「9・11」にまつわる2つの出来事について語ってみたい。

▼「ビンラディンを知っているか?」
 ピラミッドとスフィンクスの国、エジプトの首都カイロ。1992年当時、通信社の特派員として当地に駐在していた私のオフィスは大河ナイルに近い一角にあった。そのオフィスで情報源の一人だったガワドが私に聞いた。「オサマ・ビンラディンを知っているか?」。私は寡聞にしてその名前を知らなかった。ビンラディンは当時、国際的にはまだ無名だったのである。
 その頃の国際情勢はソ連が10年間に及んだアフガニスタン侵攻から撤退し、同国の混乱が続いていた時だった。今思えば、19世紀の英国に続いてソ連、そして米国が敗走したアフガンはまさに「帝国の墓場」の異名にふさわしい地であると言えるだろう。それはともかく、ビンラディンは米中央情報局(CIA)とサウジアラビアの支援を受け、中東各地から敬虔なイスラム教徒を徴募し、ソ連軍との戦争の前線に送り込み、ソ連軍を追い出した“功労者”だった。
 ビンラディンが徴募したアラブ人の若者たちは最盛期には3万人に達し、戦場で武器や爆弾の扱いを習得した。この若者たちは「アフガン・アラブ」と呼ばれ、最終的にはビンラディンの下でテロリストとして育っていくことになるが、ビンラディンはソ連軍をアフガンから撤退させたことでその任務を終え、母国サウジアラビアに戻っていた。私が情報源からビンラディンのことを聞いた段階ではこうした背景があったのである。
 私は記者の直感として、「このネタはいける」と思った。すぐに取材と調べを進め、「イスラム過激派の黒幕ビンラディン」という記事を日本に送った。ビンラディンという存在が日本の読者に知られることになった最初の記事である。その後、彼はサウジやスーダンから危険人物として国外追放され、結局はアフガニスタンに戻る。そこでアルカイダを創設、9・11の計画に没頭していく。そのビンラディンも2011年パキスタンのアボタバードに潜伏していたところを米海軍特殊部隊シールズが急襲、暗殺された。この辺の話は映画「ゼロダーク・サーティ」に詳しい。こうした訳でビンラディンがたどった軌跡は私の中では忘れ得ぬ出来事の一つなのだ。
 
▼9・11と史上最悪の自爆テロ「米海兵隊司令部爆破事件」
 9・11に絡んでもう一つ忘れえぬ出来事がある。それは1983年10月23日早朝にレバノンの首都ベイルートで起きた米海兵隊司令部爆破事件だ。この事件は爆弾を積んだワゴン車がベイルート国際空港近くの海兵隊司令部の建物に突っ込み、約250人の米兵が死亡した。同じ時刻ころ、市内のフランス軍司令部にも爆弾車による自爆テロがあり、約70人が死亡した。両軍と英軍を加えた部隊は当時、国際平和維持軍としてベイルートに駐留していたが、この事件は自爆テロがいかに効率的に甚大は被害を与えることができるかを初めて大規模に実証した意味で歴史的だった。9・11もこのテロの延長線上にあったことは間違いないと思っている。
 「ボンッ」米海兵隊司令部が爆破された時、私は地中海にすぐ近いオフィス兼住居のベッドの上でその音を聞いた。飛び起きた私は電話で助手や情報源と話し、自分でニッサンを運転して急きょ、現場に向かった。そこで目にした光景はそれまで幾度か目撃したテロの現場のどれよりも凄まじいものだった。7階建ての司令部の建物はペシャンコにつぶれ、その上に生き残った海兵隊員が自動小銃を腰だめにしていつでも撃てるように構えている。
 殺気だった雰囲気で、近づいた私の方に銃口を向けた。撃たれるなと思った私は「日本の新聞記者だ」と英語で叫んだ。「テロリストではない」とも大声を出した。ベイルートには日本赤軍もおり、よく撃たれなかったと思う。現場の散乱したがれきの中には遺体の一部が飛び散り、踏まないようにするのが精いっぱいだった。
 この自爆テロは謎のシーア派テロ組織「イスラム聖戦機構」による犯行だったが、その背後にいるのがイランなのかシリアなのかはいまだ確かではない。言えることはこの事件以降、イスラム過激派はシーア派、スンニ派を問わず、自爆テロへの傾斜を強めていく。この事件は9・11に大きな影響を与えたのだ。

▼危険な米国の「地平線のかなたから」作戦
 バイデン米大統領は9・11に向けてのビデオメッセージで「米国は事件後、真に結束した」と述べた。だが、怒りの感情を優先させたアフガニスタン戦争が米国民を結束させたんはほんの短期間で、米社会の分断と亀裂を深めさせることになった。この20年間のテロとの戦いは失敗だったと思う。アフガン、イラクと進めたテロとの戦いは憎しみの連鎖となり、過激派組織「イスラム国」(IS)の残虐な殺りくを生んだ。米本土を狙うような大掛かりなテロは姿を潜めているものの、アルカイダ、ISとも世界各地に拡散、その拠点は30カ国以上に上っている。とりわけ、アフリカ西部で過激派の行動が活発化しているのが懸念される。
 しかし、アフガンやイラクで地上部隊を送り込んで多大な損害を受けた米国は中東やアフリカに配備していた軍事資源を競争相手の中国向けに回し、事実上テロとの戦いを放棄した感がある。バイデン大統領はすでに「国益に沿わない戦争はしない」ことを明言し、今後のテロと戦いは地上部隊の投入ではなく、ドローンなどによる空爆に特化する方針を示している。
 「地平線のかなたから」作戦と呼ばれるものだが、極めてリスキーな作戦だと指摘せざるを得ない。米国はオバマ政権時代から「標的殺害」というドローンによる過激派暗殺作戦をアフガニスタンやイエメンなど各地で展開してきた。だが、再三にわたって結婚式や葬式の車列をテロリストの移動と間違え、無実の民間人を殺害した。
 8月末、米軍撤退の混乱が続くカブールで米ドローン「死神」が爆弾を積載した車を空爆、“テロリスト”を殺害した。この際、子ども7人を含む民間人10人が巻き添えで犠牲になった。ここ数日の米メディアによると、この攻撃は誤爆だった可能性が強いという。「地平線のかなたから」作戦は危ういということだ。テロリストを特定するには地上の工作員やスパイによる秘密情報が不可欠だが、地上からの支援が薄いこの作戦は標的の情報の真偽に不安が残ってしまう。
 バイデン政権の方針は憎悪を助長し、忘れたころに「第二の9・11」を引き起こすことになるのではないか。国際社会は民族や宗教、思想信条の違いを乗り越えて共生社会に近づけるのか。共生社会とは幻想にすぎないのではないか。9・11を契機に私たちに向けられた問いは重い。

事務局(小林)2021/09/10 09:17:26

オンラインによるキャンパスライフの創出−星槎ラウンドテーブルの意味

2021年9月9日/執筆者:三輪建二 教授(星槎大学大学院 教育実践研究科・同大学院 教育学研究科 博士後期課程)

大学院での学修とオンライン
 大学院に限定することではないが、昨年度からのコロナ禍の中で、大学学部でも大学院でも、「オンライン授業か対面授業」かという論議が続いている。星槎大学大学院教育学研究科は修士課程も博士課程も、通信制から出発している。また教育実践研究科(専門職学位課程)も通学制とはいえ、通信制を加味したカリキュラムになっている。以上のこともあってか、対面授業の復活という要望は、大学院生からは強く出ているわけではないようである。とはいえ院生全員が、オンライン授業で満足しているとも言い切れない。
 私は、「オンラインか対面か」という枠組みそのものをもう一度とらえ直すことが大事ではないかと考えている。というのは、この議論は大学・大学院の「授業」をどのようにするかという点で、「授業」に発想を固定させていると考えられるからである。また、大学・大学院教育の本質的な役割は、「授業」「演習」を通して、専門的な知識・技術を提供することであるという発想にもとらわれているように思われるからである。
 たとえば、教育基本法に立ち戻ってみると、大学の理念は、「学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する」(教育基本法第7条)となっている。この条文によると、大学教育・大学院教育のゴールは、高い教養と専門的能力の育成にあることは当然とはいえ、それにとどまらず、「知見を創造し」「成果を広く社会に提供」し、「社会の発展に寄与する」ことにあることが分かる。
 以上のポイントをとらえた上で、増田聡は、「『大学の学び』とは何か」(内田樹編.『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』晶文社2020)の中で、既存の知の修得という意味では、「大学は勉強するところではない」場所であり、むしろ、「『まだ存在しない知』を生み出すことこそがその存在根拠」(p.113)であると主張している。「大学は勉強するところではない」とは、やや極端な意見である。とはいえこれは、授業をオンラインか対面かでとらえることでは見えてこない、貴重な論点の提示になっているのではないだろうか。私は、オンラインか対面かの問題を授業に限定せず、キャンパスライフを含めながら議論することで、院生目線に立った議論と教育ができるのではないかと考える。またそれにより、「知見の創造」「成果の社会への提供」が、実は授業後の学生同士のフランクなやり取り、食事やサークル活動での交流などのキャンパスライフで実現している可能性や、それをどのようにオンラインでも実現可能かを読み解くことができるように思われる。

院生主催の星槎ラウンドテーブル
 以上のような思いから私は、2020年度から、コロナ禍の中にある大学院生が主催する「星槎ラウンドテーブル」の立ち上げに、顧問としてかかわり続けている。星槎ラウンドテーブルは、できるだけ学年、学科、専門が異なる4人が1組になる、オンライン(Zoom)による語り合いの時間である。参加者同士で、守秘義務を確認した上で、語り手は1人15分程度、自分の仕事や研究上の悩みを含めて自由に物語る(コロナ禍では悩みが多く、多様であるようである)。聴き手はその物語りにじっくり耳を傾けた上で15分ほど、物語りの文脈にそっての問いかけを行う。この営みを4回くり返すのである。
 大学院教員が教える「授業」とは異なり、院生が発信者になり、多様な専門職同士での共通点の気づき、さらには、発想や考え方の違いを学び合う時間になっていて、疑似空間ながら、授業以外の「キャンパスライフ」の2時間余りの時間になっているのである。

 2021年3月21日に開催された第2回星槎ラウンドテーブルのアンケートでの自由記載欄を見ると、「多様な参加者から意見が聞けた」「研究科や実践の場の違いを超える良い機会になっていた」「ラウンドテーブルは卒業後も関わりを持てるという役割を担っている」「はじめての方もおりましたが、すぐに仲良くなれて仕事の話や研究の話で盛り上がることができました」などがみられる。また、ラウンドテーブルでの「仲間づくり」については8割ほどが肯定的であり、また、次回も参加したいという回答は9割以上になっている(参照:三輪建二、三好加奈子、吉尾美奈子、杉本美恵、石田智恵子(2021):「星槎ラウンドテーブルの企画・実施・振り返りー対人関係専門職間での『物語る』『聴く』の心の対話をとおして」.『星槎大学大学院紀要』 第2巻第2号、pp.92-110)。
 授業と、授業以外のキャンパスライフの両方において、対面ではなくオンラインを活用できる可能性があることになる。それは星槎大学・星槎大学大学院だからこそできることであり、その可能性を追究し、全国に発信することもできるのではないだろうか。

おわりに:第3回星槎ラウンドテーブル(9月26日)
 キャンパスライフに関しては、令和3年度共同研究助成研究プロジェクト(研究代表:今津孝次郎)を紹介しておきたい。この共同研究では、「多様な学生に『適応』する大学における『学びの深化』」がテーマであり、大学教育に学生を適応させるのではなく、多様な背景を持つ学生に、大学教育がどのように適応できるかという観点で、授業だけでなく、キャンパスライフについても、学生や大学関係者にアンケートとインタビューを実施する予定になっている。
 最後に、第3回星槎ラウンドテーブルは、9月26日(日)9時から3時間で開催の予定である。院生のほか、教職員の参加も募っているので、院生のキャンパスライフの実態、院生の本音を知りたいと思われる教職員のエントリーを歓迎したい。
 教育実践研究科の大野精一研究科長も、院生と同じ立場で一参加者として参加される予定である。私は、院生が先生を前に遠慮して本音が出せないことのないようなグループ編成とは何か、あるいは、院生と教員の双方にとってのキャンパスライフとは何かという観点で、顧問として実施準備にかかわっている。

参加の問い合わせ先
小嶋  希(kojima.nozomi.p05@gred.seisa.ac.jp 教育実践研究科 2 年) 
三輪建二(k-miwa@gred.seisa.ac.jp ラウンドテーブル顧問)

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