ーー星槎ジャーナルとはーー
 星槎ジャーナルでは、世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマに、星槎の理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし広く発信していきます。


ーー「星槎ジャーナル」のスタートについてーー
 このたび、大学大学院のホームページに「ジャーナル」を立ち上げ、スタートさせていただくことになりました。
 世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマにの理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし、学内外に発信していこうという試みです。

 過日、「ジャーナル編集委員会」(編集長佐々木)の第1回会合を開催し、取りあえず走り出すことにしました。走りながら考えるのか、という叱責をいただきそうですが、グループの広報の一助になればとも思っております。
 ジャーナル第1号は「わが身を見つめ直す時に転換しようコロナ禍、デマに惑わされるな」(佐々木執筆)を掲載しました。ちょっと長めですが、コロナ禍の中で、デマやフェイクニュースにどう対応したらいいのか、というのがテーマです。
 星槎グループ教職員の投稿を歓迎します。掲載に当たっては編集委員会の内規に従って決めさせていただきます。また編集委員会から執筆をお願いすることもあろうかと思いますので、前向きにご検討ください。

 「ジャーナル」に掲載する原稿につきましては、テーマを問いませんが、結果として、内容がの3つの約束などの理念につながったり、想起させたりするものであれば、一層歓迎したく思います。ジャンルはシリアスなものでも、エッセイでも、国際交流記や旅行ルポでもなんでもござれです。楽しく、ためになり、タイムリーという3つの「T」が原稿の1つの目安です。

 原稿の長さは400字詰め原稿用紙換算で1枚から10枚程度までと考えていますが、厳格には規定しておりません。掲載の頻度については不定期としてスタートします。

ジャーナル編集長 佐々木 伸
 

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事務局(小林)2020/10/07 09:27:07

コロナに打ち勝った指導者“演出”−トランプ氏、退院強行の舞台裏

2020年10月6日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)
    
 新型コロナウイルスに感染して入院していたトランプ米大統領は10月5日、首都ワシントン近郊の軍医療センターから退院を強行し、3日ぶりにホワイトハウスに戻った。大統領は「ウイルスを恐れるな」などとコロナに打ち勝った強い指導者を“演出”し、選挙戦へ復帰しようとしているが、「国民に危険なメッセージを送るもの」と強い批判が出ている。

▼週末をスパで過ごしたような言い回し
 大統領はホワイトハウスに戻った直後、バルコニーに姿を現してわざわざマスクを外し、顕在ぶりを誇示して見せた。だが、メディアは階段を上る途中で大統領が「息切れ」していたとも伝えており、相当無理していることがうかがえる。ホワイトハウスの医師団は「完全に回復しているわけではない」としており、退院を強行したと見られている。

 大統領がPCR検査で陰性を示し、コロナから完全回復したことを確認するには1週間から10日程度必要とされており、それまでは高齢で肥満の大統領には重症化のリスクもある。ホワイトハウスの居住区の一角は高度の医療機器が設置された病室になっており、退院したと言っても実質的には“転院”のようなものだ。順調にいっても12日前後までは警戒が必要だという。

 医師団は当初、大統領の病状が軽いことを強調し、懸念される時期があったことを暴露したメドウズ首席補佐官の発言と相反する情報が飛び交った。しかし、その後、主治医であるコンリー海軍少佐が2日と3日の2度、大統領の血中酸素濃度が95%以下に低下し、酸素吸入を受けたことを公表し、病状が不安な状態であったことが明らかになった。

 バイデン前副大統領に後れを取るトランプ陣営にとって10月の今の時期は「追い上げ、差を詰める」期間という戦略を描いていた。だからこそ大統領は治療中の4日に入院中の医療センターを車で抜け出し、支持者らに元気な姿を見せ、3日間という短い期間で退院を強行せざるを得なかった。

 ニューヨーク・タイムズによると、陣営の一部は大統領が2日に酸素吸入を受けて苦しんでいる時でさえ、感染した大統領がすぐに退院できれば、選挙運動をリセットし、ウイルスに打ち勝った指導者という新たなイメージを売り込む機会になると冷徹に分析していたという。大統領はホワイトハウスに戻った後、「ウイルスを恐れるな。コロナに支配されるな。打ち勝つんだ」とツイート、「選挙戦に間もなく復帰する」と発信した。

 トランプ陣営は前回の2016年10月7日、トランプ氏の女性を性的に蔑視した「アクセス・ハリウッド」の録音テープが明るみに出て、一時は万事休すと思われた時も「沈没せず蘇った」として、このシナリオの再来を思い描いている。今後は「隠れトランプ」の掘り起こしに全力を投入する計画だ。

 大統領は退院前、トランプ政権下での新薬やワクチン開発の推進をアピール。「20年前よりも体調が良いくらいだ」とも主張し、提供された最高レベルの医療で回復したと自慢した。だが、米紙はこのツイートを「週末をスパで過ごした後のような言い回し」とし「復帰すれば、ウイルスについてさらに誤った発言を長々としゃべるだろう」と批判的に指摘している。

▼大統領と同じ医療が受けられるのか
 大統領の「ウイルスを恐れるな」といった一連の発言は、国民の間に“ウイルスの危険性を軽んじてもいい”という誤ったメッセージを与えかねず、著しく不穏当だと言えるだろう。ペンシルベニア大学の専門家は「狂気の沙汰」(米紙)と批判している。

 しかも、大統領が受けたような最高レベルの治療を一般国民が受けることができるわけがない。大統領は未承認の抗ウイルス薬も投与されたが、治療を受けられずに亡くなった家族の反発は激しい。フロリダを遊説中のバイデン氏は大統領の発言に対し、「科学者の意見に耳を傾け、連邦政府ビルの中でのマスク着用を指示すべきだ」と要求した。

 バイデン氏はトランプ大統領が選挙戦から不在の間、支持率を伸ばしている。世論調査によると、国民の65%は大統領がもっとウイルスに気を付けていれば、感染しなかっただろうと考えており、大統領のコロナ軽視に厳しい。大統領感染後のNBCとウォールストリート・ジャーナル紙の共同調査では、53%対39%で、バイデン氏が支持率の差を14ポイントまで拡大した。

 こうした中、マスクをしてこなかった大統領の側近や友人らの感染は増える一方。5日にはマクナニー大統領報道官や副報道官らの感染が新たに確認され、ホワイトハウス詰めの記者団の間にも動揺が広がっている。ホワイトハウスが中心となった感染者は大統領夫妻ら17人になった。

 感染源は先月26日にホワイトハウスで行われたバレット最高裁判事の指名式典の場だったことが濃厚。17人のうちの11人がマスクをせずに式典に参加していた。だが、ホワイトハウスは感染源の調査はしない方針で、専門家は「完全な責任放棄。公衆衛生上の大きな脅威だ」と厳しく批判している。

 トランプ大統領は退院前の4日のビデオメッセージで「新型コロナウイルスについて多くのことを学んだ。学んだことを伝えていこうと思う」と語った。だが、6日早朝のツイッターでは「インフルエンザでロックダウンになるか?」などと述べ、再びコロナウイルスを軽視するような姿勢を示した。何を学んだのか、大統領に聞きたいところだ。


事務局(小林)2020/10/07 09:19:43

「米大統領選1カ月」-選挙結果を受け入れよ

2020年10月6日/執筆者
:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 11月3日の米大統領選挙まで1カ月を切る中、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染、バイデン前副大統領に対する支持率の後れがさらに広がった。

 ここにきて憂慮されるのは大統領が敗れた場合、急増が予想される郵便投票に不正があるとして選挙結果を受け入れず、政権交代に応じないことを示唆している点だ。

 こうした大統領の姿勢は米国の民主政治のルールを崩しかねない。結果を率直に受け入れるよう要求したい。
 大統領の再選戦略はコロナ禍の下、激戦州などを積極的に遊説し、支持者に直接的に訴え、その熱狂と勢いを支持拡大につなげようとするものだ。同時にバイデン氏が治安対策に弱腰であることに争点を移し、初動対応を非難されているコロナ危機から国民の目を逸らす狙いが込められていた。

 大統領の遊説先の集会は自身も含め、マスクを着用する支持者はおらず、クラスターの発生源になると懸念されていた。大統領は先月末のバイデン氏とのテレビ討論で「同氏は人的距離が相当あっても見たこともない巨大なマスクをしている」と嘲笑した。

 だが、大統領は今回、ウイルスを軽視した果てに感染し、その危険性を自ら証明、思惑とは裏腹にコロナ問題に国民の目を集めてしまった。

 大統領の再選戦略は破綻し、根本から立て直さざるを得ない。マスクの着用一つにしても、陣営にとってはマスクをしないことが「強さ」の象徴だっただけに、深刻なジレンマになるだろう。

 両氏のテレビ討論は「醜悪な闘い」(米紙)と酷評されたように、政策論議そっちのけの前代未聞の罵倒合戦となった。しかし、そうした下劣な応酬にした責任の多くはバイデン氏の発言に割込みや妨害を続けた大統領にある。

 大統領は討論の中で、白人至上主義者擁護など問題発言を繰り返した。最も看過できないのは選挙で負けた場合、「平和的な政権交代」に応じることを確約しなかった点だ。

 大統領は選挙情勢が好転しない中、バイデン氏に有利となる郵便投票を「不正の温床」とおとしめる作戦を展開。討論でも「何カ月も結果が判明しないかもしれない」と脅し、敗北しても政権移譲しない可能性を示唆、選挙当日が大混乱に陥ることが懸念されている。

 大統領は選挙結果が最高裁にまで持ち込まれる際の布石として、空席に保守派の判事を据えることを急いでいるが、郵便投票に不正がない限り、審判を受け止める潔さを示さなければならない。

事務局(小林)2020/10/05 13:09:09

これこそ“オクトーバー・サプライズ”ートランプ氏感染、選挙の行方は病状次第

2020年10月4日/執筆者:
佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)
                  
 トランプ大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染した。10月2日未明、大統領自らツイッターで明らかにしたが、11月の大統領選挙まで32日に迫る中での驚がくの出来事はまさに“オクトーバー・サプライズ”(元米政府高官)。トランプ陣営には深刻な打撃で、選挙戦略を根底から見直すことを余儀なくされるのは必至。選挙の行方は大統領の病状の重さに大きく掛かっている。

▼遊説やディベートは中止に
 ニューヨーク・タイムズなど米メディアによると、大統領の現時点での病状は「良好で、執務には支障がない」(ホワイトハウスの主治医)とされ、当面は居住区での隔離治療となる見通し。大統領の声が「濁っていた」との報道もあるが、感染のせいかどうかは明らかではない。

 トランプ大統領は9月29日、中西部オハイオ州クリーブランドで民主党の大統領候補バイデン前副大統領と激しいディベート(討論会)を行った後、30日にはミネソタ州で遊説、10月1日は東部ニュージャージー州の自身のゴルフ場で資金集めの会合に出席するなど精力的に動き回った。

 大統領は連日のようにウイルス感染の有無を調べるPCR検査を受けているが、今回とりわけ検査に積極的だったのは側近中の側近といわれるホープ・ヒックス大統領顧問の感染が直前に判明していたからだ。ヒックス氏はほとんど、大統領のそば近くに控えているが、30日のミネソタ州の遊説中に体調が悪化。ワシントンに戻る大統領専用機中では隔離状態のまま、到着後も大統領らとは別に後部ドアから降りた。

 翌10月1日の夜、大統領はお気に入りのフォックス・ニュースの「ショーン・ハニティ・ショー」に電話出演し、ヒックス氏のウイルス感染を確認、自らも検査結果を待っていると話した。大統領がツイッターで、メラニア夫人とともに感染していることを明らかにしたのはこの数時間後のことだ。

 大統領がウイルスに感染したことによってトランプ陣営の再選戦略が根底から覆り、全面的な見直しを迫られるのは必至だ。大統領は年初から、全米レベルでバイデン氏に平均支持率で6~7ポイント前後の後れを取り続けている。このため陣営は、コロナ禍をものともしないように遊説を積極的に行って、遊説に慎重なバイデン氏との勢いの違いを見せつける一方、ディベートでは同氏を攻撃し続けて圧倒、無党派層を取り込んで逆転するシナリオを描いていた。

 しかし、ウイルスの感染でこの再選戦略は瓦解した。トランプ氏は2日に南部フロリダ、3日に中西部ウィスコンシン、5日に西部アリゾナという激戦州を遊説する予定だったが、すべてキャンセルせざるを得ない。またディベートは後2回、15日と22日に計画されているが、これも中止か延期になる可能性が大きい。第1回のディベートは大統領の再三の妨害で前代未聞の中傷合戦になり、中止すべきだとの声も上がっていた。

▼軽視の果ての帰結
 しかし、大統領の感染には、科学者や医療専門家らの助言に耳を傾けようとせず、ウイルスを軽視し続けてきた帰結だという声が強い。大統領は「(ウイルスは)暖かくなれば、奇跡的に消え去る」「感染は完全にコントロールされている」などと楽観論を繰り返し、ウイルス対策の初動が大きく遅れることになった。その結果、米国は感染者700万人という世界最悪の感染国となり、死者は20万7千人を超えた。

 しかも、この楽観論はワシントン・ポストの著名記者ウッドワード氏によると、大統領は実際にはウイルスが「致死的」であることを知っていて、国民にウソをつき続けたのだという。大統領は国民をパニックに陥れたくなかったと弁明しているが、選挙を左右する頼みの経済に悪影響を与えないためだった、という疑念が残る。

 大統領はマスクについても「着用するつもりはない」と公言し、感染の拡大で7月になってやっとマスク着用の必要性を認めたものの、積極的にマスクを着ける姿勢は見せなかった。8月の共和党大会の最終日にはホワイトハウスの南庭に約千人の支持者を招待したが、参加者のほとんどはマスクを着用していなかった。遊説先の集会でも大統領を含め、マスクを着ける人は見かけない。

 この大統領の態度が鮮明に出たのはディベート時のやり取りだ。トランプ氏は「必要な時にはマスクを着ける」としながら、「私はバイデン氏のようにマスクはしない。彼は60メートルも対人距離があるのにマスクをしている。見たこともないでかいマスクをだ」と嘲笑して見せた。

 だが、こうした大統領のウイルスの危険性を軽視する姿勢は国民をリスクにさらした懸念がある。大統領はヒックス顧問が発症した翌日の10月1日にニュージャージー州の資金集めの会合に出たが、CNNは「大統領がその時既に、ヒックス氏の感染を知っていたのではないか」と報じており、ヒックス氏から自らも感染した可能性を知りながら、会合に顔を出し、参加者らを感染の危険にさらした疑いがもたれている。

▼回復すれば、支持率急上昇も
 選挙の行方は大統領の病状いかんに掛かっており、長引けばそれだけ影響が深刻になる。執務できるような状態であれば、当面はホワイトハウスからオンラインで支持者らに訴えることになるだろう。しかし、すでに期日前投票や郵便投票が進んでおり、「大統領の無謀さが招いた大失態で、ほとんど勝負は決まった」(専門家)という指摘もある。

 ホワイトハウスの主治医は大統領の健康状態について、昨年の健康診断で「大変良好」と発表したが、大統領は11月に突然、軍の病院で診察を受け、様々な憶測を呼んだ。その際、ホワイトハウスは単なる定期健診と主張した。しかし、大統領は体重が110キロもあり、コレステロール値が高いと伝えられている。
ウイルス感染による米国人の死者の10人に8人は65歳以上で、既往症があれば、74歳の大統領には重症化のリスクすらある。

 だが、一方で早期に回復し、ウイルスに負けない強さを見せつけることができれば、支持率が急上昇し、本当の意味で大統領の逆転を可能にする“オクトーバー・サプライズ”になるかもしれない。3月に感染した英国のジョンソン首相や7月に感染したブラジルのボルソナロ大統領は回復後、支持率を大きく伸ばした。崖っぷちのトランプ大統領にとって最後のチャンスがあるのだろうか。


事務局(小林)2020/10/01 12:21:18

「音・音楽と森林が繋がったとき〜人類の本来の生き方を目指して」

2020年9月30日/執筆者:西原智昭(星槎大学 共生科学部 特任教授)

 なぜこんなに心地よいのだろう?そう感じたのは、20代半ばではじめて一人で異国の地を歩いた京都大学4年生のときであった。場所はインドネシア・スマトラ島北部の森林地帯。野生復帰を目指す保護されたオランウータンを見学するために毎朝熱帯の森の入口に入るやいないや、すぐさまその心地よさを全身で感じた。

 「これだよな…」なにか実態にないものにぼく自身は妙な直感を抱いていた。少なくとも、森の彼方からはテナガザルの遠吠えや多種多様な野鳥の声、そして数え切れないくらいの種類と数を誇る虫の音…その総体としての音を耳にしていたのは確かだった。スマトラ島をあとにしたぼくは、ジャワ島とバリ島も訪れた。単に好奇心でそこでガムランの演奏やケチャの踊りを見に行った。ジョグジャカルタの下町の小さな舞台に集まって、影絵とともに奏でられたガムランの音色。男性陣の奏でる音声と軽快なリズムが彩るバリ島でのケチャ。予備知識も何もなかったぼくにまた何度でも接したいような未知の衝動を禁じ得なかった。

 それまで自然界にどっぷり浸かるような経験は皆無であった。民族音楽にも接したこともなかった。小さい頃、せいぜいぼくがそうした音、というより音楽の中で好きだったのは行進曲風のメロディだったかなといま振り返って思い出す。家の横を通るブラスバンドの音楽には嬉々たる歓喜を感じていた。楽器は何一つ満足にできないのに、おそらく学校で習ったベートヴェンの『トルコ行進曲』はなぜかお風呂を入る前にその曲がいつも頭を巡っていたことが、行進曲風の音楽への興味の起点だったのかもしれない。そして一本指でなら最初の出だしくらいは下手くそながらピアノで弾けるくらい、中学ではビゼー作曲の『アルルの女』が気に入った。高校に入ってからは「クラシック・ベスト曲集」といったようなカセットテープ一式を手に入れて、特にドヴォルザーク『新世界より』などに惹かれていった。その一方で、子どもの頃から有名な歌謡曲や人気アニメの主題歌などを歌うのも、将来歌手になってもいいと思ったくらい好きだった少年時代であった。シンセサイザーによる曲にも手を伸ばした。

 大学に入って一人での下宿生活を始めてからは、ちょうどLPからCDへの切り替え時期であったこともあって、狭い下宿にも収納しやすいCDを買い集めるようになった。各種コンチェルトやブラームス、ブルックナー、マーラーなどの交響曲などなどクラシック音楽のレパートリーが枚挙にいとまがないくらい広がっていった。ある日「民族音楽にはクラシック以上に何かが潜んでいるんだ」と諭してくれた人がいた。家族・親戚の中でも唯一堅気の人生を歩んでいない、漆塗り芸術家で型破りの叔父であった。ちょうど人類学に強い関心を示し始めていたころ、その叔父の家を尋ねては泊まらせてもらった部屋に幾枚も貯蔵されていた民族音楽のLPジャケットに見入っていたのを思い起こす。

 こうした「音・音楽視聴経験」を通じて得た「感動」、すなわちスマトラの森で得た「森林環境音」の「心地よさ」、そしてガムランとケチャといった民族音楽から得た「未知の衝動」に、ぼくの根源的な感性に訴えるなにか得体も知れぬ「つながり」のようなものだけは感じていた。

 留年ののち大学院に入り、インドネシアでオランウータンの研究を始めるという話も出たが、偶然の経緯でコンゴ盆地の熱帯林の中で野生ゴリラの研究に着手する機会を得た。アフリカに対する特別なこだわりがあったわけではないが、それまでほとんど知られていなかった野生ニシゴリラの生態を研究するためだ。それは専攻していた人類学に新たな知見をもたらすと期待されていたからだ。しかし一方でなぜゴリラを対象に選んだのか、それには学術的な成果とはつながらない、ゴリラの音声に個人的な強い興味があったためである。というのも先行研究の記述の中に、マウンテンゴリラには「鼻歌」とも聞こえる音声があると報告されていて、ぼくは先験的にそれこそ人類の音楽の萌芽と関わるものに違いないと思ったのである。それまで個人的にそしてあくまで感覚的レベルではあるが自然環境音と人類の音楽とに潜む「得体のしれない」なにかを知る上で、きっとなにかヒントを与えてくれるのではないか。人類に最も近い現生動物のうち、チンパンジーでもボノボでもなくゴリラにそうした「鼻歌」が記録されていたのである。それをマウンテンゴリラでなくニシゴリラで探るためだ。

 わくわくした気持ちで分け入ったはじめてのアフリカの大地、はじめての熱帯の密林、はじめての海外長期滞在、なにもかもがはじめて尽くしの生活が始まった。ゴリラの生態学的研究をしつつ、ゴリラの「鼻歌」が聞けないか来る日も来る日も森の中を歩き続けた。そんな中、このコンゴ盆地での熱帯林でもスマトラの熱帯林とまったく同じ「心地よさ」を感じるのを禁じ得なかった。まさにその場で大地にひれ伏したい強烈な衝動にかられる。さらに、森のガイドを頼んだ森を熟知する先住民族ピグミーとの出会いにより、ぼくは圧倒的な衝撃を受けた。森に一緒にいる時になにげなく聞く彼らのさりげない会話。これが音楽が波を打つように流れ、心を震わす。彼らの集落に行ってピグミーの伝統的な歌と踊りを見て聴いたときの、そのまま文字通り舞い上がってしまいそうな陶酔感。森林環境音と民族音楽には強い連関性があると、根拠はないがぼくは揺るぎない思いを馳せた。

 しかしそれが「なんなのか」を知るにはまだ長い年月を要した。その不思議さを探りたい気持ちはずっと続いていた。気付いたらアフリカのコンゴ盆地に長期滞在する月日が25年経とうとしていた。そんなある日、ピグミーに興味があるという知り合いの日本人がぼくの滞在していたコンゴ共和国の現地を訪問、参考図書にと図書館で借りてわざわざコンゴまで持ってきた書籍を何冊か見せてもらった。『ピグミーの脳、西洋人の脳』(大橋力著、朝日新聞社1992年)を手にとったときの衝撃とその奇跡。長い間抱いてきた疑問に、以前より取り組んでいた研究者がいたのだ。ぼくは早速その著者あてにメールを送り、次の帰国時に是非お会いしたい旨を伝えた。先方もピグミーと長年仕事をしてきたぼくに関心を持ってくれて「会いましょう」との即答を得た。

 念願の大橋力氏との実際の出会いは2016年であった。音楽家・作曲家であり、音響学者、民族音楽研究者でもありながら、生理学者や脳科学にも精通している超分野研究・異分野連携を実践してきた達人であった。氏が極めた研究の成果はすでに世界に広く認められたものだったのだ。氏がこれまで収録してきた森林の環境音や世界中の民族音楽を分析すると、そこには可聴域の周波数だけでなくそれを超える超高周波が含まれる。その超高周波が脳の深部に作用し、ストレスフリーの「心地よさ」を感じさせるのだという。またそれは身体の諸機能をつかさどる様々な代謝を健全なものに保つ効果があるという。総じてそれは「ハイパーソニック・エフェクト」と呼ばれていた。

 ぼくよりもはるか以前の時代にピグミーのもとを訪れた氏は、特に人類発祥の地で何万年も生きてきた先住民族ピグミーこそ人類の原型であり、その歌と音楽には信じられない様々な要素が含まれていることを発見。もちろんそこに楽譜などはない。無論、それは複雑な生態系を持つコンゴ盆地の熱帯林という環境があってこそなのだろう。そしてそうした自然の中に生きてきたからこそ、彼らの社会には大きなストレスがないのはぼくも25年以上に渡り見てきた事実だ。実際驚くべきことだが、彼らにいまだ自殺が見られていない。

 いま、生物多様性保全や気候危機に対して、森林保全の重要性が謳われている。しかしそれはアフリカの熱帯林に依拠してきたピグミーのような先住民族の存続にも関わることにもつながり、人類が「ハイパーソニック・エフェクト」により心身ともに健全でまっとうな「本来」の生き方を継続していく上でも必要不可欠な存在なのである。COVID-19のような新型ウイルスも自然界の急激な消失を関連しているだろうと言われているが、その点からも人類の存続には森林の存在は必須と言える。

 ぼく自身は、大学院とポスドク時代を経たのち、日本で大学等に就職するという通常の研究者の道を歩むことなく、特に将来設計もないまま長期滞在していた現地での流れで、コンゴ盆地・熱帯林地域にて活動していた国際組織に属することになった。それ以降は、人類学や生態学としての純粋な研究以上に熱帯森林の保全に関わる実務に関わってきた。そこでの経験とネットワークを通して、資源に乏しい日本がコンゴ盆地の地域から熱帯材や地下鉱物資源などを輸入し、結果的にその熱帯林の消失の一員を担っている事実をより多くの日本人にも知らせる役割をも担ってきた。

 とくにコンゴ盆地・熱帯林において、種子散布という生態学的役割によって森林の自然再生に大きく寄与する礎石種として重要なマルミミゾウが絶滅に頻している状況で、アジアゾウでもなくサバンナゾウでもないそのマルミミゾウ由来の象牙を長年に渡って重宝してきたのが世界の中で日本の象牙業界であったことを突き止めた。残念ながら日本のそうした強い需要がマルミミゾウを絶滅に追いやることに寄与してきたのだ。日本人として、コンゴ盆地の熱帯林保全と日本の伝統文化との間に大きな問題が横たわっているかその追及にも着手せざるを得なかった。その象牙は印章ほか三味線の撥や箏の爪・琴柱など日本の伝統邦楽器の一部に使われてきた。とりわけ印章よりもはるかに長い歴史 〜数100年以上に渡って使われてきた和楽器においては、象牙はよりよい音を出すために必須の素材であったのだ。そこで、日本の伝統的な和楽器のプロ奏者からの理解も得て、コンゴ盆地の熱帯林保全のためにマルミミゾウの絶滅を防ぐのを目指して、素材科学の研究者の協力のもと象牙に変わる同質の新素材開発を現在進めている。尺八や琵琶を含めたこうした日本の伝統楽器による音楽にも「ハイパーソニック・エフェクト」が存在すると考えられているため、森林を守りかつ「ハイパーソニック・エフェクト」を人類社会に「本来」通り維持するには科学的知見に基づいた新規素材の発明が欠かせない作業だといえる。

 山城祥二こと大橋力氏が1974年から活動している芸能山城組にぼくも2017年から参加するようになった。「ハイパーソニック・エフェクト」を有するガムラン演奏やケチャの歌と踊り、ジョージア・ブルガリア合唱、日本のじゃんがら念仏踊りなどの実演を自ら行っている芸能集団に入ることで、より多くの日本人にその存在と重要性を知ってもらうためだ。まさか30年以上前にインドネシアの島々で接したガムランやケチャとここに来て再会するとは奇遇としか言いようがない。そしてさらにミラクルは重なった。2019年前半からは個人的な事情もあり、アフリカ・ベースの暮らしから日本を拠点としてアフリカに出向くという生活パターンに変えてきた。そうした折り、その年の8月に大橋力氏の伝手で星槎大学を紹介いただいた。奇しくも星槎グループの宮澤保夫会長は、ブータンの仏教唱名を研究するため大橋氏とともにブータンを渡航した古き仲である。また芸能山城組は大磯校舎にてケチャの手ほどきまでしたと聞いている。ぼくも昨年11月から星槎大学に奉職させていただき現在に至っている。

事務局(小林)2020/10/01 11:39:15

NYタイムズがトランプ氏に“宣戦布告”−脱税疑惑を特ダネ報道、選挙に影響必至

2020年9月28日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)
          
 米最有力紙ニューヨーク・タイムズは9月27日、トランプ大統領の脱税疑惑を特ダネ報道、富裕な大統領が就任前の18年のうち11年間も所得税を納めず、2016年、17年の納税がわずか760ドル(8万円弱)だったことを暴露した。大統領は緊急会見で「フェイクニュース」と反論したが、この報道は同紙の“宣戦布告”に等しく、11月の選挙に重大な影響を与えるのは必至。

▼事業の破綻状況も明らかに
 同紙の調査チームはこれまでも大統領の脱税疑惑について報じてきたが、今回は11月3日の大統領選挙まで6週間を切った段階での報道。選挙に影響を与えかねないことを考えれば、確かな証拠とトランプ氏と徹底対決するという政治的意思が必要だ。同紙は記事の掲載に当たって、バケット編集局長自ら筆を振るい、報道の正当性を強調した。

 暴露された「事実」は衝撃的な内容だった。以下、ポイントを列挙してみよう。
 ・トランプ氏は億万長者の贅沢な生活をしてきたが、同紙が調べた18年間のうち、11年間は所得税を納めていない。大統領に当選した2016年と就任1年目の17年に支払った納税額はわずか760ドルだった。

 ・同氏が収めた税金は18年間で総額9500万ドルだが、2010年から還付金として利子を含め7290万ドルを受け取った。内国歳入庁(IRS)は現在、この還付金支払いが適正だったか、脱税はなかったかを調査中で、仮に不当だったと判断されれば、同氏は1億ドル以上を支払わなければならない。

 ・トランプ氏が税金の支払いを免れてきたのは同氏の所有するトランプ・オーガニゼーションの傘下企業が巨額の赤字を出していることが理由だ。特に南部フロリダ州のゴルフリゾートが12年から18年の間に1億6千万ドルの損失を出すなど経営するゴルフ場で3億ドルを超える赤字を計上した。

 ・トランプ氏の利益相反行動も問題だ。同氏が好んで使うフロリダ州のマール・ア・ラーゴの別荘は大統領就任以来、新規会員権販売などで年間500万ドルも売り上げが増えた。マイアミのゴルフリゾートは屋根ふき業界が150万ドルも使ったが、その時期は、業界がホワイトハウスに事業に関する規制を緩和するよう求めていた時と一致する。

 ・同氏には、今後4年間のうちに返済期限の来る借入金が3億ドル以上ある。
 ・事業の経営悪化を申告して税金逃れをする一方、豪華な邸宅や自家用機など贅沢な暮らしを続け、テレビ出演用のヘアスタイルのため7万ドルも支出した。
 ・外国や利害関係者らから知られていた以上の献金を受け取っていた。テレビのリアリティ番組出演で4億2700万ドルの現金を受け取り、ゴルフ場やリゾートの買収資金に充てていた。

▼「税金はいっぱい払ってきた」とトランプ氏
 トランプ大統領は同紙が報道した直後に急きょ会見を開き、否定に追われた。大統領は「フェイクニュース」と報道を非難する一方、「所得税をいっぱい払ってきた」と強調。IRSの監査が完了したら、申告書を公表すると述べた。だが、大統領はこれまでもこの約束を繰り返してきたが、果たされてはいない。

 歴代大統領は利益相反などの疑惑を払拭するため、納税申告書を開示することが慣例となってきた。しかし、トランプ氏だけが開示を拒否し、これに訴えが起こされてきた。最高裁は今年7月、大統領の免責特権を盾にして開示を拒否したトランプ氏の主張を退けて下級審に差し戻したが、同氏は開示を拒否する新たな裁判を起こし、知られたくない事実があるとの疑惑を生んでいた。

 民主党下院議員の1人はトランプ大統領のビジネスが巨額損失を出してうまくいっていないとの報道について、大統領の成功した実業家という物語とは全く逆で、「トランプはだましと不正をする世界最悪のビジネスマンである」ことを証明している、と指摘した。別の民主党議員は大統領がIRSに圧力を掛けることを懸念していると語っている。

▼修正憲法第1条に従って報道
 同紙が選挙まで1カ月強となった段階で、トランプ氏に決定的に不利に働く脱税疑惑をあえて報じた意味は何か。そこには「大統領として信頼に堪えない人物の再選は許さない」(アナリスト)という同紙の政治的決意が込められているように思う。米国の公正な民主主義を守り、権力の不正を監視する「第4の権力」としての役割を担ってきた自負と言ってもいいだろう。こうした点を考えると、今回の報道はトランプ大統領に対する“宣戦布告”に等しい。

 バケット編集局長は自らの特別記事の中で、報道した理由について「市民は指導者の資産や財務状況、経験などをできる限り知る必要がある」とし、トランプ大統領が公の場で主張している財務状況と、IRSなどに明らかにしている内容と著しく異なる、と厳しく指摘した。

 また大統領が歴代大統領の慣例に反し、申告書の開示を拒んでいる点について、開示するという約束を果たさないばかりか、隠ぺいすることに躍起になっていると断じた。

 その上で、大統領の個人的な納税情報を公表することに疑問を感じる向きがあるかもしれないことに言及しながら、最高裁は「修正憲法第1条が報道に値する情報を報じることを再三にわたって認めている」点を強調、憲法に定められたその力強い原則が今回も適用される、と記した。

 編集局長は同紙の報道がほぼ4年間、大統領の納税問題に取り組んできた調査チームによって行われたと明らかにし、フィッシュレダー調査報道編集長、パーディ副編集局長の監督の下で調査、執筆されたことを明らかにした。編集活動の手の内をきちんと公表することで、報道の公正さをアピールしたものと見られる

 同紙の報道にはワシントン・ポストが1面で後追いするなど全米のマスコミも追及する構えを見せており、大統領が「フェイクニュース」と批判してきた伝統的な有力メディアとの対決が一段と先鋭化する状況となった。29日には、トランプ氏とバイデン前副大統領によるディベート(大統領討論会)が行われる予定で、トランプ氏にとっては追及される材料が増えることになった。

事務局(小林)2020/10/01 11:35:11

トランプ氏、選挙後の“居座り”に布石ー最高裁判事に保守派バレット氏を指名

2020年9月28日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 トランプ米大統領は9月26日、今月死去したリベラル派のギンズバーグ最高裁判事の後任に、保守派の女性連邦高裁判事エイミー・バレット氏(48)を指名すると発表した。最高裁判事の構成は圧倒的に保守色が強まることになる。大統領は11月の選挙で敗れても、法廷闘争に持ち込んで政権の座に居座ることをチラつかせており、今回の人事はその布石との見方が出ている。

▼法廷の判断なければ、開票は“ホラー・ショー”に 
 バレット氏は7人の子供(2人は養子)がいる敬虔なカトリック教徒。カトリック系の名門、中西部インディアナ州のノートルダム大法科大学院を修了した後、保守派の最高裁判事の調査官や同大学院の教授などを歴任した。高裁判事就任もトランプ大統領の指名による。人工中絶の反対論者として知られ、リベラル派は人工中絶の合法化判決が覆されるかもしれないと懸念している。

 最高裁の判断は人工中絶や銃規制、死刑の有無など米社会を二分する問題の行方に重大な影響をもたらすだけに国民の関心が高く、政治利用されやすい。バレット氏が承認されれば、定員9人の最高裁判事の構成は保守派6人、リベラル派3人となり、保守派優位となる。トランプ氏はこれまで最高裁に2人の判事を送りこんでおり、今回が3人目だ。

 民主党は大統領選直前になっての最高裁判事の指名は例がないとして反対。指名は新しい大統領に委ねるべきだと主張しているが、承認審議が行われる上院は共和党が多数派で、阻止は不可能。共和党内の「反トランプ」の急先鋒であるロムニー上院議員もバレット氏の指名に反対しないと明言しており、10月後半にも承認される見通しだ。世論調査では、国民の過半数は選挙前の指名に反対だ。

 上院共和党は2016年、オバマ前大統領の指名した最高裁判事を「大統領選が迫っており、新しい大統領に人事を委ねるべきだ」として審議を拒否したいきさつがあり、承認を急ぐ理由に説得性がない。しかも拒否した時は、大統領選まで237日もあり、今回のように差し迫ってはいなかった。

 問題は「選挙前に是が非でも決める」というトランプ大統領の姿勢である。コロナ禍で郵便投票が増えることに危機感をむき出しにする大統領はかねてより「郵便投票は不正の温床だ」と批判。「選挙に負けるとすれば、不正が起きた場合だ」などと根拠を何ら示さないまま、郵便投票を容認しないとする発言を繰り返してきた。

 大統領は先週の会見で「(選挙に負けた場合)平和的な政権交代に応じるのか」と聞かれ、「何が起きるか見てみる必要がある」と明確に言及することを避け、選挙結果を尊重しないこともあり得ることを示唆した。その上で、選挙管理当局が郵便投票分を無効にすれば「政権は継続する」と述べた。

 大統領は最高裁判事の空席を急いで埋めなければならない理由として、最高裁が選挙の勝者を決めることになるかもしれないと指摘し、選挙の結果が法廷闘争に持ち込まれる可能性を示唆。大統領はフォックス・ラジオでも「最高裁がバイデン勝利を判断すれば従うが、法廷の決定なしでは、開票が“ホラー・ショー”(ホラーの出し物)になってしまうだろう」と語った。

▼前代未聞の大混乱に
 大統領が郵便投票をこうまで恐れるのは、郵便投票では自分が圧倒的に不利になってしまいかねないからだ。前回の郵便投票は全体の投票の25%程度だったが、世論調査によると、今回は54%が利用する見通し。有権者がコロナウイルス感染を恐れているためだ。トランプ支持者の半分以上が選挙当日に投票すると答えたのに対し、バイデン支持の過半数は郵便投票と回答している。
 
 郵便投票の開票は大幅に遅れる州が予想されているため、トランプ大統領が郵便投票の開票を待たずに11月3日の選挙当夜に勝利を発表。バイデン氏がこれに異を唱え、郵便投票の大勢が判明した後、逆に勝利を宣言する可能性も現実味を帯びている。いずれにしても大統領の“居座り”姿勢が続けば、選挙後に前代未聞の大混乱が起きるのは必至だろう。

 選挙結果を尊重しないような大統領の姿勢には共和党からも深刻な懸念の声が上がっている。上院の指導者マコネル院内総務は声明で、米国が培ってきた伝統通り、選挙の勝者が来年1月20日に大統領として就任し、秩序だった政権交代が行われると発表し、トランプ大統領にくぎを刺した。

 米紙によると、上院ナンバー2のスーン議員も、選挙後に大統領がホワイトハウスを去ることを拒否した場合、共和党の議員たちは阻止するために立ち上がるのかと聞かれ、「そうすると信じている」と述べ、共和党が憲法と法の支配を重んじる党であることを強調した。

 対立候補である民主党のバイデン前副大統領は「私たちはどこの国にいるんだ?言うべき言葉がない」と大統領の“居座り”姿勢を一蹴したが、懸念しているのは明らか。同氏は6月の時点で早くも、「トランプが選挙を盗もうとしている。これが唯一最大の心配事だ」と警戒を露わにしていた。

 大統領はバレット氏指名を発表したローズガーデンでの式典で、同氏のこれまでの業績を称え、上院に速やかに承認するよう要求した。式典には同氏の夫や7人の子供たちも出席し、和やかムードが演出されたが、大統領の胸中はバイデン氏に後れを取る選挙のことでいっぱいだっただろう。次の節目は選挙の行方を決定的に左右する29日のディベート(討論会)だ。

事務局(小林)2020/10/01 11:29:14

「国連創設75周年」-対立を捨て協調行動を

2020年9月28日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

◎国際協調に尽力を-菅首相のイニシアチブに期待
 国連創設75周年という節目の国連総会はコロナ禍の下、一般演説がオンラインによるものとなったが、米中首脳の対立が鮮明となり、目指すべき国際協調や結束から掛け離れた姿を露呈した。
 国連や国際機関が弱体化したのは米第一主義を掲げるトランプ米大統領の存在によるところが大きく、極めて残念だ。
こうした中、菅新首相が各国に連携を呼び掛け、ウイルスの感染を克服するため国際社会に貢献する考えを示したのは心強い。首相には国連強化と国際協調に向け、尽力してほしい。
 コロナ危機を収束させるには、ウイルスの正体を突き止め、治療薬やワクチンを速やかに開発、世界中に供給することが必要であり、情報共有など各国が一丸となって対処することが不可欠だ。国連創設時の「協調と連携」の精神を尊重することが今ほど求められている時はないだろう。
 だが、現実の国際関係は対立と分断を色濃く反映する厳しい状況だ。特に米中の2大国は「新冷戦」と称されるほど角を突き合わせている。
 両国は貿易、経済分野だけではなく、香港問題、台湾関係、南シナ海の安保情勢まで広く対立を深めており、世界の懸念の的だ。
今回の国連演説でも、トランプ氏はコロナ禍について「疫病を世界に拡散させた」と中国を名指し非難、中国の習近平国家主席が「汚名を着せるな」と反発した。
トランプ氏が中国への攻撃姿勢を強めているのは11月3日に迫った大統領選を意識しているからだ。同氏は感染拡大防止の初動に失敗したと批判されおり、中国をやり玉に挙げることで、自らの責任を回避しようと図っているように見える。 
 最近発売された著名なジャーナリストによる著書は、トランプ氏がウイルスの「致死性」を知りながら、楽観論を繰り返したことを暴露した。
 同氏は国民のパニックを避けたかったと弁明したが、大統領選の対立候補であるバイデン前副大統領は「国民にうそをついたのはほぼ犯罪」と断じている。
 国連総会の前、グテレス国連事務総長がコロナ禍を機に、紛争地の停戦を提案したが、米国と中ロの対立でなかなか決まらず、国連の機能低下があらためて浮き彫りになった。こんな事態が繰り返されては国連の存在が問われよう。
 菅総理は演説で、途上国へのワクチン供給を支援していく考えを示した。コロナ禍は国連が連携を取り戻す機会でもある。菅首相のイニシアチブに期待したい。


事務局(小林)2020/09/15 15:52:02

9月を拾う~白秋に浸ろう~ 

2020年9月14日/執筆者:坂田 映子 教授(星槎大学 共生科学部)

 根岸森林公園の夕暮れは、空が低く低迷し、まるでセザンヌの絵の中にいるようだ。しばし、空を眺めていると、時々、垂れこめた雲の狭間から黄金の光が放たれる。ひと月もすれば、黄金色の秋がやってきそうだが、今年は、夏から一気に冬になると誰かがいった言葉を思い出す。秋はどこへいくのか。 

▼家族の肖像
 小雨をよけて、銀座の画廊に入るとすぐ、黄金色の背景に包まれた二人の夫婦が描かれている壁画が飛び込んできた。夫は優しい顔で妻を見ている。妻は出産間近のお腹をいとおしみながら唇を左に寄せてお腹を眺めている。まるで、楽園のような絵だ。妻のお腹には、青い臍の緒が透き通って浮かんで見え、生命の鼓動が伝わってくるようだ。
 作家は、篠原磨理子氏。「この絵、姉夫婦なの。遠い昔の光景をね、思い出して描いたの。」「隣の絵はね。亡くなった祖母なの。忘れられないのよね。とっても優しかったから。」テーマは、「家族」。他の4点の絵も磨理子の家族だった。不思議に、家族の顔がみな磨理子そのもののように見える。
 絵には、幸福の中にも「死生観」が流れている。人の一生で見ると、遥か昔の姉のお腹に青春と朱夏が、祖母の重ねた手に白秋と玄冬という生と死が見え隠れした。家族の軌跡をありったけの愛で絵に残したかったのだという。
 いつの間にかどのように人生を終わろうかと、マスクを外し、コロナを忘れて話し込んだ。2人とも人生の選択がこれで良かったかどうか漠然とした不安はもったままだったが、今、人生の白秋にいることを痛感していた。別れがたかったが、冷めたコーヒーを一気に飲み干し、画廊を後にした。(スルガ台画廊 それぞれの人物像展、2020.9.7~12)
 
▼デーケンの死生学
 「死生観」で思い出されるのは、かつて教員研修で受講したデーケン教授の“death education”だ。デーケン教授(注)は、末期医療の改善やホスピス運動の発展に尽くした人であり、「死生学」を日本に広めた人であった。冒頭、次のように話されたことが記憶に残っている。
 「日本人は教育熱心な国民であり、学校教育の水準の高さも世界に誇れる。進学や就職の前には、必ず準備をするのに人生最大の試練である死に対してだけは準備教育がなされていない。そのまま、心構えもなく死に臨んでいる。これはどう考えても不思議である。」
 もう少し、紹介しよう。
 「― ―“death education”は決して暗いことでなく、いかに人間らしく死を迎えるか、これは同時に、いかに最後まで人間らしく生きられるかという教育である。日本語では“死”は、肉体的な死を意味するが、最後まで精一杯人間らしく、楽しく、創造的に生きる。そのためには、心のいやしが必要である。― ―。英語の“quality of life”は、“生命や生活の質”と翻訳する。音楽療法・読書療法・芸術療法・作業療法・アロマ セラピー・ペット療法などは、心のいやし、あるいは生命や生活の質を改善するために大切な新しいアプローチだ。理想とするところは、生命の延命と同時に心理的・社会的・文化的生命の延命をあわせて総体的生命の延命である。― ― 」(成田日赤新棟完成記念講演録2013年より、筆者要約)
 誰もが、苦しまずコロリと死にたい。よしんば癌で予後が分からないと診断されたにしても、よりよく生き、よりよく死にたいものだと思うがどうであろうか。

 9月13日星槎ジャーナルの投稿記事、「寝かせきりと介護離職、そして介護疲れからの虐待の恐れすら懸念されている。」(山口道弘教授2020.9.14)という一節に目を奪われた。デーケン教授の“death education”が重なる。政府の施策もさることながら、介護にあたる保護者や医療従事者が、どのような接し方をし、どのように見取っていくかの課題は大きい。
 医療従事者が人間のいのちや死の問題について考えるとき、人間の心の奥底までうかがい知らなければ解決策が見つからないということを、最近、医師から聴く機会があった。「今日は、見取りの日」の医師は、冷静な判断力が求められ、感情のコントロールを余儀なくされる。見取りをこなすことによって慣れていき、いやしの必要性は感じないという。だが、看護師は、患者側に立ち、親身になって丁寧な対応が求められるため、ストレスは医師より大きいという。このような対応が一般的であり、虐待が起きている現場をどう思うかには、困惑を隠せない。これらの問題は、医療従事者、宗教者のような専門的な見地からだけで捉えるのではなく、人間の心の機微まで教えている人間学や教育学、心理学、 幅広い市民感覚の視点で見ていく必要があろう。

 長い人生の中で一番辛い、難しい試練は、愛する人の死を体験することや動けなくなった自身の死に直面することだ。そのための教育が行われていないということが、今日の日本の社会保障に係る悲劇を生んでいるように思えてならない。小さい時から生涯を通した“death education”が行われていれば、もっと違う共生の姿が現れていたかもしれない。高齢者を施設に預けっぱなしにしたり、障がいのある人を差別したりするなどの行為は、激減していたのではないかと考えられる。慈悲にも繋がる心の問題は大きい。
 デーケン教授はいう。実際に海外(独)の介護施設やホスピスを訪れると、多くの日本人は驚く。介護や医療に当たる人々がユーモアにあふれ、患者と交わす会話が温かい笑いに満ちていると。日本にそのような風土が根付く日はいつになるだろう。

▼旅立ち
 9月6日デーケン教授が天国に召された。死をユーモアたっぷりに話し、歌を歌い勇気を与えて下さった日のことが鮮明に思い出される。「ドイツ人ですが、心は日本人です。」といった言葉が印象的だった。良き死を迎えられたかどうかを問うまでもない人であった。
 これから、白秋に身を置き、純白さに浸ろうとつぶやいてみる。 

(注)
独:Alfons Deeken, 1932年8月3日-2020年9月6日、ドイツ・オルデンブルク生まれ、イエズス会司祭、哲学者。上智大学名誉教授、専門は死生学。

事務局(小林)2020/09/14 09:47:20

メディア時評 ー「コロナ」と「寝かせきり」と「過労死」と

2020年9月10日/執筆者:
山口道宏 教授(星槎大学 共生科学部)

 「-----お年寄りは3日間寝込んだだけでも、寝たきり、認知症の予備軍になりかねない」とはリハビリを担う専門職の常識。だからこそ「寝たきり」の防止に「動け」「動け」と、ベッドのひとへは「床ずれ防止」(「褥瘡予防」)に、こまめな体位変換がなされる。
 「介護施設が危ない」「院内感染が怖い」「デイケアが休みに」。さらに多くの介護施設では家族らの「面会は不可」にも。なかで「寝かせきり」はないか??「認知(症)」は進まないか?? 介護職員の確保はさらに厳しい。
 高齢者と家族にとってはいよいよ死活問題だ。そうでなくても老人(世帯)はイザというとき「助けて」「SOS」は難しい。介護度が高ければ「在宅」も修羅場といっていい。家族の「介護離職」もますます増える気配で、こうした「負の連鎖」は介護悲劇を誘う。既に毎年10万人の介護離職者が生まれているのが、この国だ。なんのための公的介護保険制度(「介護保険」) かと現場が溜息をついた。
 ある80代の介護夫は、こう呟く。
 「待機児童のママだけじゃない。こちらも、ニッポン死ねといいたいよ」
 拡がる「寝かせきり」と「介護離職」、そして介護疲れからの「虐待」の恐れすら懸念されている。

 「ヘルパーさんも来れないって。どうしよう」
 20年前(2000年)に始まった「介護保険」の導入とともに、国策は、高齢者は「在宅へ」「在宅へ」を進めてきた。「ハード面(施設建設等)は金がかかる」が国の本音だが、高齢者本人のいう「うちにいたい」を利用した、ねじれ施策だ。
 しかし、前者では依然として30万人(全国)の「特養入居待機」が、後者では「介護離職」や「虐待」が社会問題となって久しい。制度開始当初には「家族負担の軽減」と謳ったがいまや絵空事。一方で、増え続ける「老老介護」や「ひとり暮らし」にとっては、サービスの中止や縮小からの影響から「孤独死」 が心配だ。皆保険の国で「孤独死」か!! 安心安全の皆保険の国はどこへ行ったのか!?
 「在宅」部門のひとつに「デイサービス」(通所介護)があり、そこでは自宅で困難な入浴も食事も可能だ。対象の高齢者が出掛けることで、家族も一時的に介護から離れ「仕事」(休息)ができるからと導入され、町では幼稚園より「高齢者送迎中」のクルマの方が多い時代だ。それは訪問サービス (ヘルパー派遣や訪問看護など) と並ぶ「在宅」サービスのひとつで、重度化しないための予防策とされてきた。
 「医療崩壊」「介護崩壊」は決して収まっていない。災いの「出口」も大事だが、いまだ「入口」そのものが危ない。「自粛解除」というが「検査」と「隔離」はどこに行ったのか?? 「検査」も受けられずにひとは死んでいった。また感染防止を理由に、葬送の儀すらないまま、ひとは永遠の別れに涙している。

 それにしても「医師が足りない」「看護師が足りない」「介護士が足りない」「保育士が足りない」—-、なぜ、こうもニッポンは 生命(いのち)の現場 が人手不足なのか!?
 医療も介護も保育もライフラインのはずが、国に依る社会保障費の削減(「減反」)、それが永年に亘る国策だった。我が国農家の多くがやむなく離農した「減反」とは農政ばかりではなかった。それら一連の施策と今回の現場のコロナ対応は決して無縁ではない。
 現場は「コロナ」の前からとっくに疲弊していた。
 たとえば、医療部門はどうか。現在、日本の医師数はOECD (経済協力機構) の平均より13万人も少なく勤務医4割の8万人が「過労死ライン」(年960時間月80時間以上)で、うち2万人は年1.980時間の残業という。さらに「減反」政策は「ベッドがあるからヒト (医療職) が要る」と <ベッド減らし> も仕掛けると (2025年に向けて135万床から119万床へ。「地域医療構想」)、国はいまも全国424の公立公的病院の再編、統合を促している。むろんこれには「なにが地方創生か」「なにが持続可能性か」と地方住民の怒りの声は大きいが「地方交付税」の増減がすうっと自治体首長の脳裏を駆けめぐる。

 新聞に、こんな川柳があった。
 「コロナ費用 予備費じゃなくて防衛費」(神戸 意固爺)
 「米びつの減りに驚く家ごもり」(熊本 ピロリ金太)
 政府は「コロナ」で臨時休校になった子どものために会社を休んだ保護者には「賃金補償」とか。金額も条件も揺れ動いていた。なによりそれ自体が企業経由というから「確かに受け取れるかどうか」の新たな心配も。一方、同じく「コロナ」でサービスの中止や縮小にあえぐなか、要介護者のケアのため会社を休まなくてはならなくなった家族の場合はどうか。国は、名ばかりの「介護休暇」を引き合いに知らんぷりか!? 
 ひとの生命を守るために「扶養」も「介護」も一緒だ。
ここにも、事態が「正常化」するまで、対象者に対しては、しっかりと経済支援を、休業補償を、いそぎ用意することが施政者の使命だ。

 「コロナ対策」のかたわらで社会保障削減という国策のDNAは変わっていない。
 メディアは途方に暮れていてはならない。黙りこくっていてはいけない。
 国民のすすり泣き、慟哭、頼りなさ、やるせなさを知るとき、ひるむな、二の足を踏むな。いつまでも記者クラブ発表、さしずめ官邸広報の「別動隊」なのか、じれったい。
 そのときメディアは何をどう伝えるのか、ひとの 生命 がかかるだけに、いまこそ <真相> のあぶり出しに期待したい。

事務局(小林)2020/09/08 08:49:15

メディア時評 ー「命を守ってください」

2020年9月7日/執筆者:山口道宏 教授(星槎大学 共生科学部)

「命を守ってください」と、気象予報官が叫んだ。
 九州の豪雨災害が深刻だ。なかでも河川氾濫、土砂崩れなど熊本県では多数の住民が犠牲になった。7月4日早朝、記録的な豪雨は球磨川の12ケ所で氾濫、避難は間に合わなかった。この豪雨は、九州のみならず全国各地に及んでいる(九州4件で65人、静岡、愛媛で各1人が死亡している。7.11現在)。熊本・球磨村の特別養護老人ホーム千寿園では「14名が心肺停止」と早々報じられると、のちに14名全員が死亡と伝えられた。水に浸かりながらも、職員は必死に、体の不自由な高齢の入所者をオンブすると階上へ。車いすの高齢者は腰まで泥水につかるも動きが取れない。考えても現場は阿鼻叫喚の、地獄図だ。

 東日本大震災でも同様なことが起きていた。ひとたび自然災害が起きると、きまって災害弱者がうまれる。被害は社会的に、肉体的に、経済的に <弱いところ> へと集中している。
 高齢者施設は河川敷や山間部に多い。建設費用と土地の関係から「立地」はそうなる傾向にある。「川が望めて」「空気がおいしい」ではない。そこは「漂流」や「生き埋め」といった危険とも隣り合わせだ。高齢者施設には税金も投入されている。許認可に関わった国や自治体による日頃の予防策が不十分、となれば明らかな <人災> となって入居者にかえってくる。7月26日。その千寿園が「----事業再開を断念した」と報じられた。88人いる職員の9割が解雇という。高齢化率44%の、そこは球磨村唯一の特養ホームだった。
 今回の豪雨が、地震だったら!! 台風だったら!! どうか。
 だれもが背筋に冷たいものが走る。
 そのとき、避難所も、体育館も、山のうえも、まぎれもなく「3密」だ。
「コロナ」では感染の疑いがあっても、血痰が出ても、死者が出ても、検査すらさせない稀有の国ニッポンは、その事態すら想像できない。政府は、専門家会議は、
 「避難所へ行ってください」
 「家のほうが安全ですから」  
 行き場を失った被災者は、「コロナ」のなかで <漂流> するしかないのか !!
 地震も「コロナ」も「備えあれば憂いなし」が鉄則。だが、今般の一連の対策で露呈した我が国政権の「後手」「稚拙」は、海外の専門家も指摘のようにあまりに心許ない。
 「出口戦略」と称し、5月25日に政府は「コロナ」の「緊急事態」を解消した。といって危険が除去されたとは誰も思っていない。そして新たな患者数が「1日に2桁3桁」と一喜一憂を装う。「このままでは店はつぶれる」の店主に応えるかのようだが、自粛を解くことは「払うべき補償を払わなくて済む」が国の本音だ (「営業自粛で休業は597万人」総務省2020.4)。
 「ライフライン」という言葉がある。あれは10年前の東日本大震災のとき。電気、ガス、水道ばかりでない、「足がない」も深刻で「陸の孤島」ではヘリによる物資搬送を覚えている。医療も介護もライフラインだ。電気、ガス、水道と並んで人が生きていくための<命綱> だ。自然災害への対策も感染症の対策も一緒で、もはや「想定外」は許されない。

 コロナの「第二派」が心配されている。
 「第一派」で知った、我が国政治の <もろさ> への検証と対策が急がれる。
 補正予算の三分の一にも相当する「予備費(?)10兆円」を決めて、国会は6月で閉会すると、それ以降は開かれていない。
 10兆円はコロナに関する政府の <使い勝手による> といい、なんとリーマンショック時の2倍、東日本大震災の3倍の勘定というから驚きだ。
 「選挙資金にストック」と噂される。この機におよんでの所業か。とある国の軍隊の幹部が、戦火の中を逃げまどう自国の民を見捨て金目の物を持ち去るさまに似ていないか。
 さらに列島全体に感染やまぬこのさなかに、コロナ特需も噂される「GOTO キャンペーン」には1.7兆円を投入とか。これだって税金に他ならない。
 いまからでも遅くない。
 メディアは、徹底した<生活者目線>で、いのちの安心と安全を守る主張を!! こちらも「不用」「不救」と言われないように。
 現実に困っている医療や介護現場に、あらゆる事業の継続や雇用の維持に、すぐさま補正予算を、予備費を、直接に還元すればいいと。
 「命を守ってください」

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