ーー星槎ジャーナルとはーー
 星槎ジャーナルでは、世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマに、星槎の理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし広く発信していきます。


ーー「星槎ジャーナル」のスタートについてーー
 このたび、大学大学院のホームページに「ジャーナル」を立ち上げ、スタートさせていただくことになりました。
 世の中の出来事や入り組んだ国際問題、複雑な人間模様など政治、経済、社会、教育、文化、科学、環境、スポーツなど森羅万象をテーマにの理念やジャーナリズムの視点から解きほぐし、学内外に発信していこうという試みです。

 過日、「ジャーナル編集委員会」(編集長佐々木)の第1回会合を開催し、取りあえず走り出すことにしました。走りながら考えるのか、という叱責をいただきそうですが、グループの広報の一助になればとも思っております。
 ジャーナル第1号は「わが身を見つめ直す時に転換しようコロナ禍、デマに惑わされるな」(佐々木執筆)を掲載しました。ちょっと長めですが、コロナ禍の中で、デマやフェイクニュースにどう対応したらいいのか、というのがテーマです。
 星槎グループ教職員の投稿を歓迎します。掲載に当たっては編集委員会の内規に従って決めさせていただきます。また編集委員会から執筆をお願いすることもあろうかと思いますので、前向きにご検討ください。

 「ジャーナル」に掲載する原稿につきましては、テーマを問いませんが、結果として、内容がの3つの約束などの理念につながったり、想起させたりするものであれば、一層歓迎したく思います。ジャンルはシリアスなものでも、エッセイでも、国際交流記や旅行ルポでもなんでもござれです。楽しく、ためになり、タイムリーという3つの「T」が原稿の1つの目安です。

 原稿の長さは400字詰め原稿用紙換算で1枚から10枚程度までと考えていますが、厳格には規定しておりません。掲載の頻度については不定期としてスタートします。

ジャーナル編集長 佐々木 伸
 

星槎ジャーナルー記事一覧

星槎ジャーナル[根記事一覧]
12345

事務局(小林)2022/06/22 14:00:30

中国との共生―ロシアのウクライナ侵攻から考える-その④(最終回)

2022年6月20日/執筆者:大嶋 英一 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース) 

4. 中国との共生―日本の役割

我々に突きつけられた命題
 矛盾した対応をとる中国と共生していくために日本はどうしたらよいのであろうか?日中関係をマネージしていくためには、少なくとも以下の五つの前提の下で対策を練る必要がある。
前提一:現行国際秩序に挑戦するような中国の動きの増大(軍備の大幅拡張、尖閣諸島、東シナ海、南シナ海などでの行動、台湾への武力威嚇、香港民主化弾圧、新疆ウイグルでの重大な人権侵害等)
前提二:日本は米国に安全保障を依存しており、中国との関係では最前線に位置
前提三:米国は中国を『最も重要な戦略的競争相手』と認定
前提四:日中間の経済的相互依存関係は深化しており、しかも日本の対中依存度は中国の対日依存度よりもずっと大きい
前提五:両国民の相手国へのイメージが非常に悪い

抑止力と対話
 以上のような前提条件の下で中国と共生していくためには、抑止力と対話を共に強化することが必要である。具体的には5月の日米首脳会談やクアッド(日米豪印)でも表明されたように、日本の防衛力強化、米国のコミットメントの再確認、経済安全保障上の連携を図るとともに、力による秩序変更には明確に反対することなどが必要である。防衛力強化は前提一に、米国のコミットメント確認は前提二に関連している。経済安全保障の強化は前提四に関連しているが、これは中国との経済関係を絶つこと、いわゆるデカップリングではない。2019年の日本の全貿易量に占める中国の割合は21.3%もあり、仮にデカップリングを行えば日本経済は堪え難い打撃を受け、我々の生活にも大きな影響が及ぶことになる。重要なことは戦略的物資を中国に大きく依存しないようにすることである。
 また、中国に対する抑止力は高める必要があるが、それは中国と戦争をするためのものではなく中国と戦わないために増強するということ、つまり中国に対する交渉力を高める目的で抑止力を強めるとの視点が不可欠である。実際相互信頼の欠如した状況で軍事力増強を行うと軍拡競争になってしまい却って安全が脅かされるという安全保障のジレンマと呼ばれる現象が生じる。そのような観点からは、相互信頼感を醸成するために中国との対話・意思疎通が抑止力と共に非常に重要になってくることを忘れてはならない。

中国との意思疎通=対話
 米国は中国と厳しく対立しているにもかかわらず、首脳レベルにおいても閣僚レベルにおいても日本よりはるかに緊密に対話を行っている。日中間の対話を妨げている原因は日本側にも中国側にもある。日本側の原因としては、中国はけしからんことをやっているのだから対話すべきではないという意見が政治家を含めて強いことにある。中国側の要因としては、どうせ日本は米国の言いなりだから日本と対話を行っても意味がないとの考えが強いことにある。
 中国と対話するとして何を話すのか?もちろん日本が感じている中国の言動に対する懸念を伝達することは必要であるが、喧嘩ばかりしていたのでは対話は続かない。まず双方のパーセプションギャップを埋めることが必要であろう。中国は日本も欧州も米国の言いなりとのパーセプションを有しているが、各国それぞれの立場があることを説明することや、中国は自身が他国に与えている脅威を十分認識していないのでこれを丁寧に指摘することが重要である。同時に被害者意識の強い中国の話にも耳を傾け中国がどのような考え方をしているかを知ることも重要である。次に、国際関係に関する日中間の共通点から話を進めることが適当であろう。中国が国連憲章の目的や原則を擁護すると主張していることは、同じく国連憲章を遵守している日本にとっても国際社会にとっても歓迎すべきことである。しかし、中国はロシアのウクライナ侵攻に関しては明確な国連憲章違反にも関わらずロシアを非難するどころか米国を非難している。また、習近平が打ち出した人類運命共同体の理念は「共生的な世界」の構築を目指したものであるが、そのような理念から考えてロシアのウクライナ侵攻をどう捉えるのか?これらの部分を突いて中国の言行一致を求めることは有効だろう。第三に、以上を踏まえてグローバルな課題などについて中国と協働できるものについて議論する。北朝鮮の核・ミサイル問題、気候変動、国際経済、サイバーセキュリティーなど中国と協働できる課題は多々あるはずである。

米国との調整
 米国は同盟国であるが、日本と全てにおいて利害が一致するわけではない。万が一にも米中が軍事衝突した場合に一番の被害者は日本になるし、日本にとって重大なことでも米国にとってはさほどではないということもあり得る。過去において米国が日本の頭越しに中国と取引をしたことがあったし、トランプ大統領のようにアメリカ・ファーストの政策をとり、アジアの平和と安定における米国の役割を軽視するようなこともあった。したがって日米間の意思疎通も大変重要である。この点でバイデン政権はトランプ政権と異なり日本との意思疎通に積極的であり評価できる。他方で、バイデン政権は昨年12月に民主主義サミットを行なったように、中ロを念頭に民主主義国家と権威主義国家を色分けするような動きも示している。このような色分けは妥協の余地が小さく中国を排除することになり、米中間の緊張を一層高める結果をもたらす。その上民主主義国家の少ないアジアにおいては広い支持も得られないから、日本としては米国があまり性急にことを運ばないように働きかけるべきであろう。
 今後の米中関係および日中関係で最も困難な問題はおそらく台湾をめぐる問題であろう。強い中国を目指す習近平は元々民族主義的傾向の強い指導者であり、自身の目の黒いうちに台湾を統一したいとの願望を有していることは間違いない。このままでは衝突は不可避と思われるかもしれない。しかし、台湾問題は50年前の米中接近や日中国交正常化の際も最大の難関であったことを忘れてはならない。当時の指導者はそれを乗り越えて国交正常化を実現したのである。日本としてはあらゆる可能性を想定して対策を講じなくてはならないが、同時に英知を結集して台湾海峡で武力衝突が起きないよう米中台それぞれに働きかけをしていくことが必要であろう。
 なお、当然のことながら日本が対中国において米国の先兵のような活動をすべきではない。米国に将来再びトランプのような指導者が現れる可能性もあることを考えればなおさらである。

結論:中国との共生
 以上をまとめれば、中国との共生を実現するためには、抑止力を強化するとともに対話を拡大強化し、最低限の信頼関係を築くことである。抑止と対話は車の両輪であり、一方だけでは逆効果になるので、必ず両方を並行して行う必要がある。抑止力の強化は戦争に備えるためではなく戦争を防ぐためのものであり交渉力を高めるためのものである。現在の日本では抑止力の強化ばかりが強調され、対話の重要性が軽視される傾向があるので是正しなければならない。中国との対話では、中国の懸念すべき言動の指摘のみならず、互いのパーセプションギャップの解消、共生的世界の構築、およびグローバルな課題に関する協働の可能性などについて話し合うことが重要である。

事務局(小林)2022/06/22 13:38:19

中国との共生―ロシアのウクライナ侵攻から考える-その③

2022年6月20日/執筆者:大嶋 英一 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

3. ロシアのウクライナ侵攻―中国の矛盾に満ちた対応

中国の公式立場
 ロシアのウクライナ侵攻後中国はロシアを非難しなかった。ロシアの侵攻を非難する国連総会決議にも中国は棄権した。
 習近平は、3月8日に行われた独仏首脳とのオンライン会談で、ロシアのウクライナ侵攻に関し次の通り中国の立場を表明した。
(1) 主権と領土保全は尊重されるべし
(2) 国連憲章の目的と原則は遵守されるべし
(3) 各国の安全保障上の合理的懸念は重視されるべし
(4) 危機の平和的解決に役立つあらゆる努力は支持されるべし

 ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの主権と領土に対する重大な侵害であり、国際の平和と安全および武力不行使を定めた国連憲章に明白に反する行為であるので、(1)と(2)は中国がロシアを支持しないことを示している。これに対し(3)の趣旨は、ロシアの安全保障上の懸念(NATOの東方拡大など)は重視されるべきであるということなのでロシアへの配慮を示している。(4)の和平努力への支持については、中国はウクライナから再三要請されているにも関わらず表立って仲介の労を取ろうとしていない。
 以上総じて言えば、ロシアのウクライナ侵略という原則違反に対し中国の対応は著しく弱いものと言えよう。しかし、以下に見るように中国の本音はさらに驚くべきものである。

中国の教員研修用資料
 ロシアのウクライナ侵攻を中国の学校ではどのように教えているのだろうか?この問題に関する中国の教員研修用の資料が3月末の香港紙に掲載された。「なぜロシアはウクライナに出兵したのか」と題する資料には、次のようなことが書かれている。
(1) ウクライナの政治は腐敗し、党派が乱立し、経済は疲弊し、民族は分裂しており、過去8年間に政府軍やナチス分子は東部で1万4千人のロシア人を殺害、2014年の後も一連の非理性的対外政策をとり、ロシアを恨み、大量破壊兵器の製造に着手し、NATOに加入しようとした。
(2) NATOの5回の東方拡大が、ロシアの戦略的空間を狭め、ロシアを追い詰めた。
(3) 米国はロシア・ウクライナの悲劇の仕掛け人である。ウクライナに27億ドルの軍事支援を行い、ロシアとウクライナの対立をあおり、矛盾を激化させた。米国はロシアを挑発して戦争を起こさせ、…、欧州とロシアを離間させ、欧州を支配して、漁夫の利を得ている。(以下略)

 (1)のウクライナに関する記述は、ロシアの主張そのものである。(2)は、NATO(北大西洋条約機構)の拡大がロシアを追い詰めたのだとしてロシアに同情的である。(3)は、米国がこの戦争の仕掛け人で最大の責任者だとしている。米国はロシアが侵攻する3ヶ月ほど前からウクライナ周辺に展開するロシア軍の情報などを中国に提供して、ロシアがウクライナに侵攻しないよう中国からも説得するように働きかけたという。それにもかかわらず、全面侵攻した張本人であるロシアの責任については不問に付し米国に責任を押し付ける中国の論理には驚きを禁じ得ない。中国国内でこのような教育が行われていることに対し背筋の凍る思いがする。

プーチンの行動を「尊重」した習近平
 ロシアがウクライナに侵攻した翌日の2月25日に習近平はプーチン大統領と電話で協議を行った。北京にあるロシア大使館のウェブサイトによれば、この電話協議で習近平は「ロシアの指導者(つまりプーチン)が現在の危機的状況でとった行動を尊重する」と述べたとしている。尊重するというのは支持するとまでは言えないとしても、少なくとも反対はしないという意味である。この習近平の発言がその後の中国の対応の手足を縛ったと言えるだろう。また、主権や領土保全の尊重や国連憲章の原則の遵守といった中国の主張がいかに空疎なものであるかを最高指導者自らが示してしまったという点で深刻である。

中国がロシアを擁護する理由
 中国はなぜ原理原則に反してまでロシアを擁護するのだろうか?そこには外交上の問題だけではなく内政問題も含め以下のような要因が絡んでいると思われる。
 第一に、中国にとりロシアは大国の中で唯一の友好国であり、ロシアを敵に回したくないこと
 第二に、仮に中国がロシアを非難しても、米国が中国を「唯一の競争者」として対抗する構図に変化はなく、中国は米ロ双方を敵に回すことになること
 第三に、ロシアのウクライナ侵攻で米国が欧州に釘付けになれば、中国への圧力が軽減され中国にとりプラスになること
 第四に、習近平はロシアとの協調を軸として米国主導の国際秩序を変えようとしてきたが、ロシアを非難すればその目論見が水泡に帰すのみならず、外交政策の失敗を追及される恐れがあること(内政上の要因)

 以上いずれの要因も、対米関係に関わりがある。要するに中国にとってはウクライナの主権や領土保全といった原則問題よりも、中国の対米関係に有利かどうかが判断基準となっているとみられるのである。

その④に続く・・
事務局(小林)2022/06/20 09:45:21

中国との共生―ロシアのウクライナ侵攻から考える-その②

2022年6月20日/執筆者:大嶋 英一 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

2. 中国の目指す国際社会―人類運命共同体
  その1でウクライナ戦争後の国際秩序は中国の動向に大きく左右されるのではないかと述べたが、それでは中国が目指す国際社会とはどのようなものなのであろうか?

中国が気に入らない現行国際秩序
 中国は様々な機会に、現在の国際秩序に異を唱えている。覇権主義、同盟による対立・冷戦思考、小グループ(=西側先進国)のルールの強制、保護主義や例外主義、ダブルスタンダード、イデオロギーによる線引き、一方的制裁などに対する批判である。要するに米国主導の現在の国際秩序に反発しているのである。中国には、米国は中国の発展を邪魔しようとしているとの被害者意識が強くあり、そのような視点から国際情勢を見る傾向が顕著である。

中国は国際秩序の擁護者?
 中国は従来「国際秩序と国際システムをより公正で理にかなった方向に発展するよう推進していく」と主張してきたが、習近平国家主席は2015年の国連演説で「中国は国際秩序の擁護者である」と述べ、その後も同様の発言を繰り返している。中国は従来の立場を変えたのであろうか?どうもそうではないようである。中国の元外交官で論客の傅瑩氏は、中国が擁護する国際秩序と米国が主導する「世界秩序」とは異なるのだと述べている。彼女によれば、米国が主導する世界秩序は、西側の価値観・米国中心の軍事同盟・国連を含む国際機関という三つの要素から成り立っているが、中国が擁護するのは三つ目の国連を含む国際機関のところだけで、西側の価値観や軍事同盟ではないと述べている。

実際習近平も国連で、中国が擁護する国際秩序とは、
 (1) 国連を核心とする国際システム
 (2) 国際法を基礎とする国際秩序
 (3) 国連憲章の目的と原則を核心とする国際関係の基本準則
と国連中心主義とも言える発言をしている。要するに中国が擁護する国際秩序とは、米国が事実上主導している現行の国際秩序そのものではないのである。

人類運命共同体
 習近平は、国際社会のあるべき姿として以下のような人類運命共同体の構築を提案している。
(1) 政治面では、対話と協議を重視して恒久平和の世界を築く
(2) 安全保障面では、各国が協働することで、普遍的に安全な世界を構築する
(3) 経済面では、ウィンウィンの協力を重視し、共に繁栄する世界を建設する
(4) 文化面では、交流を深め開放的で包容力のある世界を建設する
(5) 環境面では、グリーン・低炭素を重視し、クリーンで美しい世界を建設する
 要するに、政治・安保・経済・文化・環境の各方面において、共生的な世界を築こうということである。

グローバルガバナンスの改革
 それでは中国は人類運命共同体の構築のために実際にどのようなことをやっているだろうか?中国は主として以下の二つに力を入れている。
 第一に、中国は軍事同盟にかわってパートナーシップという敵味方を分けない国家間の緩やかな連携を提唱している。実際中ロ間では「全面戦略協作パートナーシップ」という連携が結ばれており、日中間でも「戦略的互恵関係」とよばれる パートナーシップ関係が2008年に樹立されている。 
 第二に、中国はグローバルガバナンスの改革を推進している。グローバルガバナンスとは、一国だけでは解決できない国際間の共通課題、例えば気候変動、国際金融、感染症などの問題に多国間で取り組むことを言う。国連などの国際機関はそのために作られたものであり、中国がまずやっていることは国際機関のトップに中国人を送り込むことである。また、世界経済に関しては、従来のG7にかわって、中国やロシアなどの新興経済国も入ったG20を中心に政策協調をすべきであると主張している。さらに、一帯一路構想のような中国主導の新たな枠組みの提唱や、中国とロシアが主導している国際機関であるBRICS(ブラジル・露・印・中・南ア)や上海協力機構(中・露・中央アジア諸国・印・パキスタン)などの強化拡大を図って、米国主導の国際秩序を変えようとしている。その際中国が重視しているのがロシアとの協調である。

その③に続く・・

事務局(小林)2022/06/20 09:42:44

中国との共生―ロシアのウクライナ侵攻から考える-その①

2022年6月20日/執筆者:大嶋 英一 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

はじめに
 ロシアによるウクライナへの全面侵攻は、世界を震撼させた。第二次世界大戦後大国がここまであからさまな形で他国に侵略した例はないからだ。本稿では、この問題が国際関係に及ぼす影響について、特に中国との共生に焦点を当てて4回に分けて論じてみたい。

1. ポスト冷戦期の国際秩序に転機―ロシアのウクライナ侵攻
 2月24日に始まったロシアのウクライナへの全面侵攻は、ポスト冷戦期の国際秩序の終焉を意味すると言われているが、これはどういう意味なのだろうか?第二次世界大戦後の国際秩序を簡単に振り返りながらこの問題を考えてみよう。
 第二次世界大戦は1945年8月に日本が降伏して終了し、同年10月には国連が発足した。国連は世界大戦の悲劇を二度と繰り返さないために国際の平和と安全を維持することを主目的として設立された。しかし、戦後すぐに米ソの冷戦が始まり、国連の安全保障面での機能は麻痺し、世界は米国を主とする自由主義陣営とソ連を中心とする社会主義陣営とに分かれて政治的・軍事的に厳しく対立し、経済面でも世界は分断された。
 冷戦が1989年に終了し緊張が著しく緩和されると、世界は政治安全保障面では米国の一極支配が、経済面では世界が一つになったことによりヒト・モノ・カネ・情報が国境を超えて容易に移動するグローバリゼーションが進展した。そのような中で中国が高度成長を遂げ米国に迫る超大国になった。これがポスト冷戦時代の国際秩序の特徴である。
 ロシアのウクライナ侵攻は、このようなポスト冷戦期の国際秩序を一変させた。まず安全保障面では、ロシアの脅威を身近に感じた欧州諸国は米国を中心に団結し、冷戦時代ですら中立を保っていたフィンランドとスウェーデンはNATO(北大西洋条約機構)に加盟申請を行った。ロシアの隣国であり中国の軍備増強と海洋進出などに強い懸念を抱いている日本も防衛力増強と日米関係の強化に動いた。また、政治面では、米欧日のような民主主義国家とロシアや中国のような権威主義国家の違いが強調される傾向にある。国際経済面ではさらに深刻な分断が生じている。欧米日を中心にロシアに対する厳しい経済制裁が実施され、グローバリゼーションに急ブレーキがかかったのである。もともと新型コロナのパンデミックでサプライチェーンが分断されたことから中国に過度に依存することへの警戒心が生まれていたが、ロシアのウクライナ侵攻で特に先進国で経済安全保障の考えが一気に強まった。このため、冷戦終了後続いてきたグローバリゼーションは転機を迎え今後は逆行する可能性もある。
 以上の通り、冷戦の終了により平和の配当を受け取り、グローバリゼーションにより世界経済が同時に発展するというポスト冷戦期の国際秩序は、ロシアのウクライナ侵攻によって終結したと考えられる。今後どのような国際秩序が現れるのかについては、ウクライナ戦争の帰趨やロシアの国内情勢、そして何よりも中国の出方に大きく依存する。そのため現時点で明確な見通しを立てることは困難であるが、ポスト冷戦期よりも分断された世界になる可能性が強い。

その②へ続く・・

事務局(小林)2022/06/08 14:13:19

「苦情」が「花束」に変わる!~失敗からの誠意をもった行動で世界は変わる~

2022年6月3日/執筆者:浦部 了太(星槎大学 学校臨床講師)

 星槎国際高等学校では毎年、全国の校舎で文化祭が行われるが、その校舎の特徴や教育内容の特色、取り巻く地域性などが反映された取り組みになっている。筆者が、高校教員時代に勤務していた校舎では、バンド活動が盛んで毎年ステージイベントのメインとして最後にバンドゼミの演奏が行われていた。
 その年も例年同様、イベント前日の夕方にステージ企画のリハーサルを行っていた。バンドのリハーサルは時間がかかるので、いつも順番は最後に行っている。すると、最近隣に引っ越して来られた方が、「うるさい!この騒音はいつまで続くんだ!」と怒鳴り込まれた。

 これまで、近隣の方々には、この前日リハーサルと当日の二日間、学校に人が集まり、音が出ることを地域の回覧板やポスティングでお知らせをしていた。しかし、この年は主担当が変わったことや地域への認知度も浸透してきた(と私たちが勝手に思っていた)こともあり、この告知を怠っていた。
 苦情の内容は、「夜勤明けで疲れて帰ってきて寝たいのに、この騒音はいつまで続くんだ」ということだ。その言い分はごもっともで、私たちはひたすら謝るしかなかった。
 興奮された状況も落ち着いてきたところで、私たちは謝罪しつつ、終わりの時間をお伝えすることで、その場はなんとか収まった。だが、その場はなんとか収まったものの、今後もその方とはご近所様としてお付き合いしていかなければならない。これからもご迷惑をおかけすることがあるかもしれない。そこで、筆者は、「ここにどんな生徒が集まり何を目的に活動しているか」ということを伝えるために、学校の資料とお詫びの品を持ってそのお宅に説明に伺った。
 苦情を言ってこられた方のお宅のチャイムを押してみると、その方も先ほどとは別人のように落ち着かれていて、資料をお渡しして活動について話そうとすると、インターネットで私たちの学校やどんな生徒が通っているか、ここでの活動について先に調べてくださっており、すでに私たちの活動への理解をしてくださっていた。

 今回の苦情の原因は「いつの時間帯に騒音が出る可能性がある」ということを私たちが地域の方に事前にお伝えしていなかったことだった。
 その後、私たちは地域の自治会代表の方へ開催についての案内や挨拶、地域へのポスティングでのお知らせを早急に行い、文化祭当日は地域からも多くの方に足を運んでいただき、無事に文化祭を終えることができた。
 数ヶ月が経ち、3年生が卒業の時期を迎えた頃に、学校に一つの大きな花束が届いた。この花束はなんと、文化祭リハーサルの際に苦情を言ってこられた方から、卒業を迎える生徒たちへ向けての贈り物だったのだ。この花束を贈り主が、そっと、ご自宅を二重窓の工事をされていたことを、私たちは、後で知ることになる。
 出会いの場面ではかなり険悪な状況だったが、失敗しても誠意をもって対応することで、結果的に、本学の活動に陰ながらのご支援、協力いただく状況が生まれた。感謝の気持ちでいっぱいになった。
 ここに集って来てくれる生徒たちを自分たちだけで、支えていっている気になっていたが、地域の方々に活動を知っていただき、一緒に支えていただくことの大切さを改めて実感した。これを機に、地域へも何か還元できるような取り組みができないかと考え、生徒とともに地域のゴミ拾いを行うことや地域が主催する交流や防災などのイベントに参加するようになった。

 もし、何か失敗をしたきには、かなりへこむとは思うが、そこから何を改善するかが大切である。もし相手がいた場合には、その相手に対して誠意をもって動くことで、相手にその気持ちはきっと伝わる。
 この話を生徒の前などでするときは、いつも涙を堪えながらになってしまうが、これを書いているときもやはり泣きそうになってしまった。その時の喜びが思い出されるからだ。
 それだけ、今の筆者に影響を与えた出来事だったと感慨深く思い出される出来事だった。失敗したり、意図と違うことが伝わってしまったりすることがあっても「悪かったこと」を素直に認め、そこから「挽回していくこと」に心を燃やしたい。すると、きっと良い未来が見えて来る。
 人はこのような経験を繰り返しながら、心が豊かに育ち、身近なところから感動体験を共有し、共感し合い、共生社会は生まれていくのだと思う。


事務局(小林)2022/06/01 21:43:29

評論「米小学校乱射事件」
◎超党派で銃規制強化に取り組め−対立乗り越え米国の底力示す時

2022年6月1日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 悲劇はいつになったら終わるのか―。
 米テキサス州の小学校で起きた銃乱射事件のことだ。銃社会の米国では同種の事件が繰り返され、その都度対策の強化が叫ばれてきたが、一向になくならない。 
 だが、バイデン米大統領が「もう、うんざりだ。行動に移す時だ」と怒りをあらわにしたように、児童を巻き込む銃犯罪の防止は待ったなしだ。
 新たな犠牲者を出さないため、法制化の権限を持つ連邦議会は銃規制強化に超党派で速やかに取り組まなければならない。
 今回の事件は18歳の容疑者が小学校に侵入し、合法的に購入したライフを乱射、児童19人ら21人を殺害した。小学校での銃撃事件としては2012年にコネチカット州の小学校で児童20人が殺害された乱射事件以来の惨事となった。
 銃規制推進派団体によると、過去10年に教育施設内で起きた銃撃事件は約950件にも上る。米紙によると、国内の銃撃事件は1日平均321件で、毎日111人が死亡。ことしも4月には、ワシントンの学校で男が200発以上乱射する事件や、5月にはバファローのスーパーで10人が殺害されるヘイト銃撃事件が発生したばかりだ。
こうした事件が続発する大きな要因は銃を容易に購入でき、人口よりも多い約4億丁の銃が国内に出回っているという実態がある。
 過去には殺傷力の高いライフル銃を禁止する時限立法もあったが、現在はほとんど規制なしで銃の購入が可能だ。バイデン大統領は法の失効以降、大量銃撃が3倍に増えたと指摘しているが、銃拡散への歯止めは喫緊の課題だ。
 なぜ銃規制が進まないのか。その背景には「武装して自衛する権利」を認める憲法と、政治献金を使って規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の存在がある。
 米国には保守派を中心に「規制は犯罪者だけに銃所持を許す」との認識が強い。規制を求める声が高まると、逆に銃の購入者が増えるのはこうした懸念を反映するものだろう。漠然とした将来の不安も銃の武装を促進する。コロナ禍で先行きが全く見えなかった一昨年2月だけで200万丁もの銃が購入された。
 NRAから巨額の献金を受けるトランプ前大統領は乱射事件直後、同団体の年次総会に出席。「悪魔がいるからと言って善良な市民から銃所持の権利を奪うことにはならない」「規制は銃犯罪の抑止に役立たない」などと規制に反対する立場をあらためて鮮明にし、教師の武装化など学校の警備強化を提案、喝采を浴びた。
 同氏は秋の中間選挙を意識してか、与党民主党批判に終始したが、銃規制問題を政争の具にするような姿勢は残念だ。会場周辺では規制派が抗議のデモを繰り広げ、米社会の分断と対立が一段と浮き彫りになった。
 だが、人の命が危険にさらされる現実を放置してはなるまい。特に議会は今回の悲劇を機に、再発防止に有効な法案を通さなければならない。上院では「銃購入者の身元調査の厳格化」など民主党主導の法案協議が始まったが、共和党の大勢は反対で、難航は必至だ。しかし、何としても双方の歩み寄りが必要だ。
 両党には、主張の違いを乗り越え、自由と民主主義、法の支配を掲げる米国の底力を示してほしい。

事務局(小林)2022/03/30 16:40:26

「ウクライナ戦争」
◎核のボタンを押させるな-対ロ外交に中国を巻き込め

2022年1月21日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 ロシア軍のウクライナ侵略から1カ月余りが経過した。戦況が膠着化の様相を深める中、ウクライナ市民の犠牲者は増え続けており、なによりも停戦が必要だ。トルコで行われた直近の停戦協議では、「ウクライナの中立化」で進展があったと伝えられているが、これが速やかな停戦につながるかは予断を許さない。
 今回のウクライナ戦争は欧州においては、第2次世界大戦以来最大の衝突だ。ウクライナ国民の4分の1に当たる約1千万人が難民化して路頭に迷う生活を強いられおり、国際社会の支援が不可欠なのは言うまでもない。
 星槎大学大学院教育セミナーは2月26日と3月27日の2回にわたりYouTubeで緊急シンポジウム「ウクライナ戦争の行方」を開催した。大嶋英一教授、杉田弘毅客員教授にはパネラーとしてお世話になったが、シンポジウムでの討論は危機の深層を理解する上で役立ったのではないかと考えている。今後も節目節目にシンポジウムを開くことを検討している。
 セミナーを開催してあらためて思いを強くしたのはロシアのプーチン大統領に「核のボタンを押させてはならない」ということだ。戦争で唯一の被爆国となった日本は核兵器の使用に反対し、この観点から国際社会をリードしていく責任と義務がある。私たち国民も他人事とせずに、あらゆる機会、あらゆる手段を行使して声を上げていかなければならない。
 国連安保理常任理事国のロシアにとって、今回の侵略は戦略的かつ致命的なミスだと思う。プーチン氏がなぜ今、こうした行動に走ったのかは所説言われているが、本当のところは分からない。同氏の決断の背景には、ロシアの安全保障やウクライナのロシア系住民を守るためといった理由もあっただろう。だが、結局のところ、ウクライナが親欧米路線に傾斜して民主化を進めれば、隣国のロシアにも民主主義が浸透し、「独裁的な手法を強めるプーチン氏とその取り巻きの権力と利権が侵されかねない、だからそうなる前につぶす」という身勝手な動機からではなかったか。“甘い汁”を吸い続けたいという強欲のなせる業だったのではないか。
 プーチン氏はいとも容易にウクライナを制圧できると考えていたフシがある。首都キエフに向け侵攻していたロシア軍には「国家親衛隊」の部隊も含まれていたことが分かっている。親衛隊は人民を取り締まるための役割を担っており、「数日でキエフを占領」した後、親衛隊が占領軍として市を統治・管理しようと考えていたということだ。こうしたロシア側の思惑はウクライナ軍の頑強な抵抗で大きく外れた。ロシア軍は「作戦の第一段階の目的が達成された」として、戦力を東部に集中させると発表したが、実際のところ侵攻作戦が失敗したためキエフ戦線などから撤退を余儀なくされたというのが本当のところだろう。
 問題は追い込まれたプーチン氏がウクライナ軍を一気にせん滅するため生物化学兵器や小型の戦術核を使うのではないかとの懸念が高まっていることだ。自由主義陣営の旗頭であるバイデン米大統領がこのほど、自ら欧州に乗り込み、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、先進7カ国(G7)の首脳会合を主導したのはそうした危機感を反映したものであり、ロシアが大量破壊兵器の使用という「レッドライン(超えてはならない一線)」を超えた場合、どう対応するかが一連の会議の焦点だった。
 ロシアが一線を超えた時、NATOが戦争に直接的に介入するのかどうか。バイデン氏は長い政治歴の中でも最大の決断を迫られることになるだろう。同氏はこれまでロシアに対する厳しい経済制裁を主導するとともに、国際社会でのロシアの孤立化を図ってきた。国連総会のロシア非難の特別決議で141カ国が賛成したのはそうしたバイデン政権の外交努力が実ったものでもある。
 バイデン氏はプーチン氏を「戦争犯罪者」「人殺しの独裁者」「大統領の地位にとどまってはならない」などと指弾する一方で、核大国ロシアと軍事衝突しないよう戦争への直接的な介入を回避。ウクライナの要望する飛行禁止空域の設定、ポーランドからのロシア製戦闘機供与に反対した。
 バイデン大統領のこうした慎重な方針は「バイデン・ドクトリン」とも言うべき基本戦略だ。その骨格は第3次世界大戦を起こさないため「ウクライナに派兵はしないが、NATOは断固防衛する」というものだ。しかし、プーチン氏が核戦力を「特別警戒態勢」に格上げし、側近であるペスコフ大統領報道官やメドベージェフ前大統領らから「ロシアが実際的な脅威にさらされれば、核を使うことができる」といった発言が相次ぎ、米国やNATOの懸念は高まる一方だ。ロシアの大量破壊兵器の使用に対し、NATOが介入するようなことになれば、第3次世界大戦の恐れが現実味を帯びるだろう。
 プーチン氏に核のボタンを押させてはならない。バイデン氏や日本の岸田首相はロシアの後ろ盾である中国を調停に巻き込むなどあらゆる外交カードを駆使して危機を乗り切らなければならない。

事務局(小林)2022/01/21 19:34:45

評論「バイデン政権1年」
◎指導力の回復が急務だ “第二のカーター”になるな

2022年1月21日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

▼ワースト2位の支持率
 米国にバイデン政権が誕生して1年がたった。だが、バイデン大統領の支持率は歴代ワースト2位と低迷、トランプ大統領ら共和党勢力との分断は深まる一方で、「国家の団結」という公約はいまやむなしく響く。
 政権の足を引っ張っている最たる要因は新型コロナウイルス拡大や物価上昇だが、大統領の指導力不足も大きな理由だ。政権浮揚の切り札だった歳出法案などが与党民主党内の造反で成立が危ぶまれているのが象徴的だ。秋には中間選挙を控える同氏にとって指導力を回復し、強い大統領像を示すことが急務だ。
 同氏の支持率は就任当初は約57%だったが、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退の混乱を契機に急落し、年間の平均支持率は42%程度にまで落ち込んでいる。最近では30%台という世論調査もある。同時期としては、トランプ氏の37%に次ぐ低迷ぶりだ。
 バイデン大統領は実績として、失業率の大幅改善と1兆ドル(約114兆円)という巨額なインフラ投資法の成立をアピールしている。だが、オミクロン変異株のまん延でコロナ禍対策が不首尾の上、インフレが高進し、ガソリン価格の高騰など国民の生活を直撃していることが不人気の理由だ。
 政権はワクチン接種の拡充をウイルス封じ込めの柱としているが、野党共和党の支持者らが接種に反対、国民の2回以上の接種率は6割強でしかない。接種の是非が社会の分断要因になっていることが進まない理由だ。保守派が多い最高裁が最近、政権が企業に求めた「接種義務化」を退けたこともバイデン大統領には手痛い打撃だった。

▼身内の造反で弱いイメージが増幅
 79歳という高齢のこともあって大統領には当初から弱々しいイメージが付きまとってきた。しかしここにきて身内である民主党内の造反を抑えることができない指導力不足も露呈、その印象が広まっているのが現実だ。
 昨年末、政権の成長戦略の柱である大型の歳出法案が与野党拮抗の上院で、1人の民主党議員の反対で成立の見通しが立たず、採決が見送られた。下院で通過していた法案だっただけに大統領の与党統率のふがいなさが浮き彫りになった。 
 大統領はまた、非白人の投票権制限を狙った州法に対抗する連邦法の通過を議会に要求しているが、民主党議員がまたも上院で造反し、暗礁に乗り上げてしまった。
 投票権の制限は郵便投票などが導入された20年の大統領選挙でトランプ氏が敗北したことに対し、危機感を深めた共和党側が数の上で優位にある州議会で推し進めている政策。米メディアの報道によると、約20州で投票をしにくくする法案が成立した。例えば、南部ジョージア州では投票所の数が減らされたし、他の州では郵便投票の期間が短縮されたり、有権者の身分証明の厳格化が盛り込まれた。民主党支持の黒人ら非白人の投票をやりづらくすることが狙いだ。バイデン氏らは民主主義の侵害と反発している。

▼「内戦」も取り沙汰
 こうした中、大統領は昨年の議会襲撃事件の1周年の演説で、あらためて国の結束を訴える一方、これまで「フォーマー・ガイ(元のヤツ)」と無視し続けてきたトランプ氏について、名指しはしなかったものの「前大統領」と16回も言及、強く非難した。トランプ氏ら共和党側は「事件を党派攻撃に利用している」と猛反発、国家の融和どころか、逆に分断が強調される形になった。
 24年の次期大統領選にはトランプ氏が再出馬することが濃厚だが、ニューズウィーク誌は「次期大統領選の投票日前後に、武力抗争が起きる可能性は十分ある」として、トランプ氏支持者と民主党支持者の間で“内戦”もあり得るとの暗い見通しを示唆している。
 自由と民主主義のリーダーである米国で“内戦”が起きるとは信じがたい話だが、昨年1月6日の議会襲撃事件を想起すれば、にわかに現実味を帯びてくる。
 内政で窮地にあるバイデン大統領だが、外交でも指導力を発揮しているとは言い難い。対立が激化している対中関係、ロシア軍の侵攻が懸念されるウクライナ問題でも、進展を見いだせないでいる。
 こうした大統領に対し、早くも“第二のカーター”になるのではないかという憶測も出始めている。民主党のカーター元大統領はイランの米大使館人質事件で弱いイメージが定着し、再選を果たせなかった人物だ。11月8日の中間選挙は政権の「信任投票」の意味合いが強いが、上下両院とも共和党が過半数を取り、ホワイトハウスとの間でいわゆる“ねじれ”の状況が生まれるとの予測が多い。現実となれば、バイデン氏が政策を進めるのははるかに困難になるだろう。そうなる前に大統領は党内の指導力を回復し、強い大統領のイメージを打ち出せるのか。残された時間は限られている。

事務局(小林)2021/12/18 17:27:07

編集日記:WE NEED JUSTICE― 国際交流の道 ―

2021年12月17日/執筆者:坂田 映子  教授(星槎大学 共生科学部/大学院 教育学研究科)
 浄明寺のカラカラと落ちる茶色の葉や、地面を転げまわる紅葉の葉擦れの音が際立ち、音と色のコントラストが初冬を象る。SAABの日、ブータン留学生は、国の「ゴー」を身にまとい、エリトリア留学生は緑と黒のスポーツウェアで、ミャンマー留学生はロンジー姿で登場した。朱色の波文様はヤンゴン、緑色のストールはチン州のものだ。鮮やかな色合いは、浄明寺の風景に重なる。そばに「サウン・ガウ(竪琴)」を置く。触れれば竪琴は絹のように柔らかい音を醸し出すが、今、ミャンマーに轟く爆発音は、蛮行の音だ。

▼平和は再びミャンマーに訪れるか
 2012年NLDの大勝によって民主化されたミャンマーは、経済的にも教育的にも発展が約束されていた。人々は勤勉に働き、ヤンゴンは活気に溢れていた。タウンシップの学校は、ミャンマー国歌『我、ミャンマーを愛さん Gaba Ma Kyae Myanmar』を、毎朝、講堂や校庭で歌った。民主主義を日本の復刻版で教え、子どもたちはその中で伸びやかに成長した。そうした中、ミャンマー国軍は2021年2月クーデターを起こす。市民は「暗黒の軍政時代への逆戻りは絶対ノー」と国軍に怯むことなくCDM(Civil Disobedience Movement)運動を繰り広げた。その運動も困難になり、市民は生きるため仕事に復帰し、以前の生活に戻ろうとしたが、政変の混乱が続く中、欧米の輸出規制で歯磨き粉や石鹼の輸入が止まっていった。

 多民族国家のこの国は、協調することの困難さを抱えたままだ。140万人ともいわれるラカインムスリム(ロヒンギャ)の一部の人々は、ベンガル湾の島に送り込まれ、約100万人のムスリムはバングラデシュに難民として流れた。どこでも市民権を得られず、他の民族からも異教徒として排除されたままだ。キリスト教徒の多いカレン州の数万人の少数民族は、タイ側の国境近くに集まっているが、国際機関からの援助は削減され危機的状況にあるという。あれから10か月、大都会ヤンゴンの学生らは学校で勉強ができずにいる。“WE  NEED JUSTICE”の声は筆舌に尽くしがたく、未だ情勢は改善していない。

▼知繋プロジェクトでの出会い
 出演が危ぶまれたミャンマーから、「日本一日本語学校」で学ぶヤンゴン大学医学生、ダゴン私立高校の生徒ら7名が、SAABのオンライン・プログラムに参加できたことは幸運だった。悲壮な影一つ見せず未来への希望だけを抱えて登場した。日本でICTを勉強するためには何の勉強が必要か、物価は高いか、バイトはできるかなど次々に質問が飛んだ。会場にいるエリトリア、ブータン、ミャンマーの留学生、星槎高校の学生らは、自己の経験談を語った。ミャンマー側は、自ら学んできた日本語が日本人に通じたという喜びに湧いた。「チーズーバー(ありがとう、またね)」の後の学生たちは笑顔に包まれていた。
 エリトリアの学生は自国の国旗について、「緑は土地の肥沃さ、農業を表し、青は海であり紅海を表す。赤は自由への闘争で流された血。赤の部分が左から右にかけて細くなり、右辺で消えているのは、戦いの流血が将来無くなって欲しいという願いなのだ」と語った。エリトリア国民もまた、歴史上、他国の支配、内紛に翻弄され続けてきた痛みをもつ。
 佐々木伸教授による「平和と共生」の講話からは、世界のおよそ30ヵ国に渡る紛争と人権侵害の実態、戦争ジャーナリストとしての体験などが伝えられた。国際社会の中で若者が最も考えなければならない「平和と共生」について、「その解は君たちにある」の問いに、学生らは真剣に取り組んだ。同教授は、併せて、ネット誤情報から真実を見抜くため、情報リテラシーの向上が欠かせないことも強調した。

▼平和を妨げるもの
 国の分断やクーデターが世界に打撃を与え、平和の妨げとなっていることは、アフガニスタン、エチオピア、ミャンマー国などにより一目瞭然である。人権や自由が奪われる光景、何百万もの人々が空腹を抱えている姿、海に呑まれ兵士に抱きかかえられた小さな子どもの亡骸、暴力的な女性蔑視、難民や移民の脆弱な人々への標的化など、あまりに非道で、決して許されるものではない。既に起きている地球温暖化の被害と、それによって失われていく未来も重く受け止めなければならない。このほかにも、身の回りの地域社会で、人を排除しようとする動きはあちこちに存在する。権威主義に走る大人の愚かな行為などがむき出しの世の中で、若者たちは、良いものも悪いものも、大人が決めたことを引き継いでいく運命にある。
 最近の調査「英バース大などの国際研究チームが欧米やインドなど10カ国の16~25歳を対象に実施した調査2021年9月」では、10カ国の若者75%が、平和を妨げる地球の出来事に強い不安を持っており、未来に希望が持てずにいることを指摘している。

▼国際交流は、共感と共生の道
 コロナ禍によって、国際交流をオンラインでカバーしようする動きは世界的に広まった。今後、日常的になっていくという展望も生まれつつある。この新しい形の国際交流が最も追求されるべきは、絶え間ない分断に苦しむアフリカ、アジア、中東地域になるのではないだろうか。これまで培ってきた信頼関係を、裾野の広い市民レベルの相互理解と共感へと高め、それを基盤として、我々が共通に抱える課題を、チームを組み、話し合いながらともに解決に向け、協働していきたいと思いはめぐる。
 だが、懸念は、国際秩序が根底から揺り動かされている事実に対し、今、持っている学問やこれまでの情報では、既に役立たない流れの中にいることだ。日々世界情勢は激しく変化し続け、コロナ禍の収束も見えていない。不安をもつ若者の声を聞くとともに、若者の国際感覚豊かな人材育成のためにも、国際交流を推進し、真の「共感・共生」の意義を広く共有する必要が求められている。

事務局(小林)2022/01/10 20:19:45

評論「2022年の国際展望」
国家間の連携強化を急げ-共生意識を高め諸問題の解決を

2022年1月9日/執筆者:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科メディア・ジャーナリズム研究コース)

 新年の世界を展望するとき、「平和と安定」にはほど遠い「混沌と不安」に満ちているように見える。
 その最大の要因は新型コロナウイルスの地球規模の感染拡大にストップがかからないことだろう。紛争地などの飢餓の危機に対する人道支援問題や気候変動への対策も喫緊の課題だ。
 国際関係でも、新冷戦と呼ばれる米中対立やウクライナをめぐる緊張など懸念が山積している。
 こうした諸問題の解決には各国が協調や対話を重視し、国際的な連携強化を急ぐことが不可欠だ。
 コロナ禍はこの2年間、世界を揺るがし、私たちの生活のありようを一変させた。感染力の強いオミクロン変異株の出現で、各国はワクチン接種の義務化や外出制限などの対策に追われ、世界経済への深刻な影響が心配される事態になっている。わずか1週間前まで欧米の感染急拡大を傍観的に見ていた日本も感染爆発に直面しているのは周知の通りだ。
 こうした中で一段と懸念されるのは「ワクチン格差」問題だ。日本を含め富裕な先進国が3回目のワクチン接種を推進する一方で、アフリカなどの発展途上国では1回目の接種さえ遅れているのが実情だ。
 この格差が解消されない限り、コロナ禍の終息は実現しない。ワクチン公平供給に向けた国際枠組み「COVAX(コバックス)」への支援が必要だ。
 食料不足で飢餓の危機にあえぐ人々への人道支援も待ったなしの問題だ。米軍撤退後の混乱が収まらないアフガニスタンや、内戦の続くイエメンなどでは、国民の多くが1日約200円の国際貧困ライン以下の生活を強いられている。支配者らに搾取されないよう人々に直接届く援助を急がなければならない。
 国際関係では、米中対立の行方が最大の焦点だ。人権を重視するバイデン米政権の発足以来、両国の対決は「貿易戦争」から「理念戦争」へエスカレートした。バイデン大統領は習近平・中国国家主席と3度、オンラインなどで会談したが、対立は解消に向かうどころか、先鋭化の様相を呈している。
 米国内では中国の台湾侵攻論も取り沙汰されているが、支持率が低迷し、秋に中間選挙を控えるバイデン氏は対中強硬姿勢を示すため、北京冬季五輪の「外交ボイコット」に踏み切った。英国やカナダなどがこれに追随した。
 中国の習近平国家主席は今秋の共産党大会で異例の党総書記3期目を目指しているだけに、五輪はなんとしても成功させたいところだろう。
 バイデン氏、習近平氏とも歩み寄ることを難しくさせる国内事情をそれぞれ抱えているわけだが、スポーツの祭典である五輪が政治問題化したことは残念と言わざるをえない。
 ロシア軍の侵攻が懸念されるウクライナ情勢の緊張緩和も急務だ。北大西洋条約機構(NATO)はプーチン・ロシア大統領が軍をウクライナに侵攻させた場合、直ちにロシアに対する厳しい経済制裁に踏み切る方針で、制裁内容を既に策定したとされる。
 しかし、NATOはプーチン政権との対話を続け、戦争の芽を摘まなければならない。侵攻が高い代償を伴う愚策であることを説くと同時に、ロシアの安全保障の懸念を和らげる姿勢も示すべきだ。
 いずれの課題も各国が協調し、「共生意識」を高めなければ解決しない。世界は国連など国際機関の旗の下に結集し、共生社会実現に向け尽力しなければならない。

12345