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2024.11.17

専門職学位課程 就職 / 実績 / 活躍

専門職学位課程修了生の松山綾子さんが環境福祉学会2024 第20回年次大会にて口頭発表を行いました

専門職学位課程修了生の松山綾子さんが環境福祉学会の環境福祉学会2024 第20回年次大会にて口頭発表を行いました。

タイトル: タイ・バンコクにおける幼保小一体型施設訪問に関する一散見

概要:
2024年7月に開催された第76回OMEP(世界幼児教育・保育機構)世界大会は、本年はタイ国(以下、タイと略)のバンコクにて開催された。世界大会では”Right from the Start for ECCE : Step Beyond All Together”と、初心に返り「世界中の幼児が必要とするすべて、つまり子どもたちが持つ権利だけでなく、保護や教育も得られるようにしたい」との思いからの初心に返る、とのことであった。そのようなテーマの下、バンコク郊外にある幼保小一体型教育施設Siamsaamtri Schoolの訪問を行った。その施設および教育内容について報告する。

本報告は日本とタイの幼児教育との違いを、幼保小一体型教育施設Siamsaamtri Schoolの訪問を通して、日本の幼児教育が今後、どのようにあるべきかを考えることである。日本とほぼ同等の教育制度を敷くタイでは、貧富の差がそのまま学力の差につながっている。しかし一方でタイでは子どもは「国の宝」として非常に大切にされている。このことから、タイで行われている幼児教育の実態をSiamsaamtri Schoolの訪問を通して、タイで行われている一施設の教育を参考に、日本の幼保小連携を比較検討することにより今後の日本の幼保小連携についての指標づくりに役立てることが可能である。

今回の幼保小一体型施設の見学訪問は2024年7月17日に行われた。朝8時にチュラロンコン大学からバスにて出発・移動した。また参加者が多数であったため、いくつかの園に分かれた。今回、報告する園はタイ・バンコク郊外にあるSiamsaamtei Schoolである。同校は保育所・幼稚園・小学校の複合私立教育施設であり、同校の校長曰く、標準的なタイの私立教育施設とのことである。また、同校の在籍者は2歳児から12歳までである。

【日本とタイの教育制度】
日本の幼児教育のスタートは保育所または幼稚園となっている。保育所に入所対象の子どもは0歳から入学前の子どもである。一方、幼稚園は満3歳児より入園が可能である。各々の卒所・卒園後は、義務教育として小学校(6〜12歳)・中学校(12〜15歳)を経て、高等学校(15〜18歳)に進学する。文部科学省「学校基本統計」によると、高等学校への進学率は全日制、通信制を合算すると令和2年度には98.8%の進学率である。さらに高等教育機関(大学、高等専門学校在籍者含む)への進学率は84%であり、うち大学・短期大学進学者は61.1%である。今回、訪問したタイは日本と同様の学校制度を敷いているが、学年歴は5月から翌年2月までとなっている。就学前教育は3~5歳児を対象としており、幼稚園や初等学校付設就学前学級、保育学校などで行われている。義務教育である初等学校(6年)・前期中等学校(3年)を卒業後、後期中等学校(日本の高等学校相当)または後期中等職業学校にて3年間学び、その後、大学またはcollegeに進学に進学し、2年、4年、6年と学ぶところは、ほぼ日本と同様の学校制度と言える。

【Siamsaamtei Schoolの教育実践方法】
Siamsaamtei Schoolでは幼児教育時期には、個性と子どもの特性に合わせた教育を行うことにより、個人の資質を伸ばすことを重点とした教育方法を行う。例えば日本ではハンカチ落としと言う遊びがある。ハンカチが小さいことや乳幼児ではハンカチを感じにくいことから、同校では「ぬいぐるみ」を使用し、子どもが自分の後ろにあるモノ(この場合、ぬいぐるみ)に気づきやすいようにと言う配慮がなされていた。また園庭での遊びでは、同校舎内にある砂場での遊びを行う際には校舎に砂を持ち込まないように、子どもたちが椅子(プラスチックステップ)を各自で下駄箱から持ち運び、砂が臀部につくことが無いようにと配慮がなされていた。また、同一校舎である利点を生かし、異年齢交流を行っていた。

少人数である場合、多数とのコミュニケーション不足が教育上の弱点となる。しかし他年齢との学年との交流を行うことにより、コミュニケーション不足を防止することともに、異年齢の子どもに対する接し方への教育も同時に行うことが出来る。日本においては、保育所、幼稚園と小学校との連携を取ることは別機関であるため非常に難しい。しかしSiamsaamtei Schoolでは少人数制で同一校舎であることから、時間を合わせて見学や交流を図ることは容易い。さらに幼児は初等部の子どもの様子を間近に見ることが生活の中ですぐにできるため、近い将来の自分の姿や理想像を描くことが容易い。園舎内には展示物なども常に掲示や展示されているため子どもたちはより一層、自分のこれからの育ちを想像できていたようであった。

「ほほえみの国」と言われるタイは、9割以上が仏教徒である。そのため教育には仏教色が非常に強く、学内学習および寺院での宿泊修行などが初等教育のプログラムの一部として義務付けられている。Siamsaamtei Schoolでは初等教育時に初めて寺院での宿泊研修を行うのではなく、幼児期に日本でいうところの「お泊り保育」として、泊りがけのキャンプを教育プログラムに取り入れることによりスムーズな母子分離および宿泊教育に対する対策をおこなっていた。

1970年代より始まった急速な近代化による経済発展とともに始まった少子高齢化により、日本同様タイでも子どもの教育に強い関心が高まっている(大田2022)。そのため子どもを取り巻く環境の急変や子どもへの教育支援環境の整備をどのようにするか、と言う問題がある。貧富の格差が非常に大きいタイでは、スラム・中流階級・上流階級(外交官、帰属などを含む富裕層)では、大きな生活格差のためか教育に大きな影響が見える(PISA/国際学習到達度調査2022)。今回、school Visitでは中流階級層の学校を訪問したが、今後、研究を進めることにより教育格差をどのようにして埋めるべきかの指標づくりをする必要がある。それを行うことにより、子どもたちの教育環境整備と他国の教育の利点を明らかにし、取り入れることにより、教育の質を上げるだけでなく、子どもが過ごしやすい社会を作ることが出来るのである。