2026.08.16
【開催報告】星槎大学公開シンポジウム「学びの多様化学校から、これからの学びのかたち」
星槎大学公開シンポジウム「学びの多様化学校から、これからの学びのかたち」が2026年7月22日(水)に駒澤大学深沢キャンパス(東京都世田谷区)とオンラインで開催され、90名が参加しました。
シンポジウムには、東京都教育委員会教育長の坂本雅彦氏、星槎大学副学長の西永堅教授、星槎グループ本部長・学びの多様化マイスターの蓮田亮大氏が登壇。星槎大学大学院教育学研究科修士課程の石元悠生教授がファシリテーターを務めました。
【各登壇者による講話】
「行政の視点から見る新たな教育スタイルと不登校支援」
坂本教育長からは、東京都が取り組む施策を中心に3つのテーマでお話しいただきました。坂本氏は「デジタルの教育とリアルの教育のかけ合わせこそが、教育の本質」と語り、これを具体化する取り組みとして港区白金地区に開校予定の都立学校を紹介しました。同校では「自己デザイン」「創造」「協働」の3つを教育方針に掲げ、2・3年次には自由選択を中心とした創造的なカリキュラムを展開していく方針を示し、新たな教育モデルの確立に向けて強い意欲を示しました。
また、多様な背景を持つ生徒を包括する都立高校のあり方にも言及。「都立高校の魅力向上等にかかる懇談会」を立ち上げ、不登校経験者を支援するチャレンジスクールや学び直しを支えるエンカレッジスクール、昼夜間定時制・通信制高校などの既存制度を、時代の変化に合わせてどのように発展(トランスフォーメーション)させていくかを議論していると、行政としての後押しを積極的に進めている現状を報告しました。

「その子に最も適した学びを提供する「特別なニーズ教育」への転換こそが本来のインクルーシブ教育」
西永副学長からは、教育における「個別最適な学び」の本質についてお話しがありました。
身長や体重に個体差があるのと同様に言葉や運動、数や文字といった子どもの発達にも大きな個人差が存在すると指摘。それにもかかわらず、年齢一律で課題を課す従来の仕組みが、子どもに「できない」体験を重ねさせ、学習性無力感を引き起こしている実態を説明しました。
近年の不登校の要因として挙げられる「無気力」や「不安」にも言及。「子どもにとって適した難易度の学びが提供されないことが、意欲の低下や心が折れる状況につながっている」と指摘し、教育現場における概念のパラダイムシフト(概念の大きな転換)が必要であると訴えました。
また、「バリアフリー」から「ユニバーサルデザイン」へ、「ノーマライゼーション」から「インクルージョン」へ、そして「平等(Equality)」から一人ひとりに合わせた「公平(Equity)」へという意識の転換を提示。障害の有無にとどまらず、性別や経済環境といったさまざまなニーズの違いを認め、その子に最も適した学びを提供する特別なニーズ教育への転換こそが本来のインクルーシブ教育であると強調し、子ども一人ひとりの発達に寄り添う教育環境づくりの重要性を呼びかけました。

「現場の実践から紐解く子どもへの寄り添いと『変化値』」
蓮田氏は、5つの学びの多様化学校を運営する星槎グループの実践と子ども・保護者への必要なアプローチについて述べました。
蓮田氏はまず、不登校支援において「突如やる気が湧くことはない」と指摘。
支援の過程では、小さな成功体験「スモールステップ」の積み重ねや、リアルな協同学習を通じて「やれる気になる」状態をつくることが重要であると訴えました。
また、登校に至る前段階として「この先生や仲間なら安心できる」と思える「まんざらでもない学校」という心理的な安全と安心感を育む必要性を強調しました。
続いて、他者と比較する「偏差値」ではなく、個人内の成長を測る「変化値」という概念を提示。「昨日の自分より今日の自分がどれだけ前に進んだか」という変化を客観的に可視化して評価することが、子どもの自己肯定感の回復につながると説明。
併せて、子ども以上に傷ついている保護者に対しても、その「変化値」を丁寧に共有していく姿勢が欠かせないと述べました。
最後に「教員は子どもの成長に寄り添う伴走者であり、学びの場をデザインする空間のクリエーターである」と語り、教員自身も学び続け、変化に対応していく姿勢が不可欠であると締めくくりました。

【パネルディスカッション】
ファシリテーターの石元教授を中心に、登壇者同士および会場を交えた活発な議論が交わされました。
石元氏:不登校支援のゴールと「学校復帰」の考え方についてどのようにお考えですか。
蓮田氏: 学校復帰のみがゴールではありません。これからは、多様な選択肢の中から、本人が生き生きと学び続けら れる場所を選択できるようになります。通常学級にも多様な子どもたちがいて、一人一人の特徴を認める教育が大前提ですので、「通常学級に戻る」という選択肢も出てきます。子どもは主体的に学ぶ場所を選べるようになっていきます。
西永氏:普通の教育に戻すのでなく、「普通教育」の概念を拡大し、子どもが自己決定できる情報と選択肢を用意することが重要です。
石元氏:学校復帰率などで計れない変化をどう評価していくべきでしょうか。
坂本氏: 定量的な数値だけで評価することは非常に難しい。学校教育は社会の要請や人々の価値観と密接に結びついている。学校が提供する教育のフォーマットや評価のあり方について単なる数値目標ではなく、どのような学びを提供するのかという「定性的」な視点から根本的に捉え直し、議論を深めていく必要があると思います。
石元氏:子どもたちの学ぶ場所や選択肢が増えている中で、子ども自身が主体的に『自己決定』できるよう支援するには、どのような関わり方や支援者のあり方が求められるでしょうか。
西永氏: 支援者に求められるのは、行政や保護者が子どもの意志を置き去りにして進路を決めてしまうような「パターナリズム」を脱却することです。大人が勝手に決定するのではなく、子どもに必要な情報を届けて選択肢を提示し、その意思決定に寄り添う姿勢が重要になります。
石元氏;情報が得られるかどうかによって子どもの選択肢や未来が変わってきてしまいます。行政としては、この情報格差や選択肢のあり方にどう向き合い、何を保障していくべきでしょうか。
坂本氏:都立高校では選択肢の多様化が進んでいますが、義務教育である小中学校段階で多様化をどこまで進められるかは、制度的にも社会的にも大きな課題です。その中で行政が担うべき役割は、ご家庭の経済格差や情報格差によって、子どもの選択肢が狭まってしまう事態を防ぐことです。家庭環境の違いに左右されることなく、すべての子どもが多様な学びにアクセスできるよう、校内での環境整備や公的なサポートを確実に届けていく努力が必要だと考えています。また、学歴や偏差値至上主義といった社会側の意識が変わらなければ学校教育の変革も進みません。世論の形成を含めた教育のあり方が問われています。
石元氏:行政や支援の制度が存在していても、情報が行き届かず、そこへつながることができないご家庭も存在します。こうしたご家庭をすくい上げるには、どのような仕組みが必要でしょうか。
蓮田氏:課題の背景には「情報の分断」があります。例えば、家庭の経済環境が急変した際、子どもたちが学び続けられるように、教員が支援制度について、情報収集をしますが、所管省庁の違いによって情報が分断され、現場に必要な情報が届きにくい状況が生じています。こうした状況を解消するには、情報を一元化・共有する「情報プラットフォーム」や、行政と現場・家庭を橋渡しする「ブリッジ人材・専門部署」の構築が不可欠です。これらにより、困難を抱える家庭へ迅速に情報を届け、支援へつなげることが可能になると考えます。
石元氏:これからの学びの形を実現するため、変えなくてはいけないもの。大切にしないといけないものは。
坂本氏: 学びの多様化は学校の魅力向上につながります。画一的な学びと多様な学びとの間で生じる、葛藤や課題に向き合いながら、子どもたちにとっての最適解を追求し続けます。
西永氏: 「みんな違ってみんないい」。それぞれの発達段階とニーズを尊重する「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」を今後も学びの多様化を推進していきます。
蓮田氏: 子どもを既存の環境に無理に合わせる教育のあり方は、見直される時期を迎えています。一人一人を受け止め、多様な人々と協働して社会をつくる「寛容力」を育む教育こそが、今後の日本にとって必要だと思います。


参加者からの質疑応答では活発な意見交換が行われ、「教育行政や論理的背景、実践についてバランスが良かった」「行政と現場、研究の多様な考えを聞くことができた」「偏差値でなく『変化値』をみるという考え方に共感した」などの声が寄せられました。
最後に各登壇者から締めくくりのメッセージが述べられた後、シンポジウムを終了しました。
子どもたちの学びのかたちは、ひとつではありません。
不登校や多様な背景をもつ子どもたちにとっての新たな選択肢として「学びの多様化学校」が全国各地で開校されている昨今、行政、専門家、現場のそれぞれの視点からこれからの教育のあり方について考えました。
本シンポジウムが、学校と子どもの未来をともに考える契機となれば幸いです。
本シンポジウムの模様は八月八日付の産経新聞朝刊および産経ニュース、またYahooニュースでも紹介されました。
星槎大学では、不登校等の未然予防から対応・支援をすること、多様性を包摂していくために必要な能力の導入部分を体系的に学ぶ「学びの多様化支援士(履修証明プログラム)」を開講しています。詳しくはこちらをご覧ください。




