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大学院での研究で得られた知見を日々の授業に活かすことが何よりの喜びです

岡桂子 さん

2023年9月教育学研究科修士課程修了生/特別支援学校教員/東京都

インタビュー5 – 大学院での研究で得られた知見を日々の授業に活かすことが何よりの喜びです – 岡桂子さん

私は、日本手話を第一言語とする「ろう者」です。私たちの間では日本手話を第一言語とする耳の聞こえない人を「ろう者(児)」と呼んでいます。みなさんは、「日本手話」という言語を知っていますか?日本手話は日本語とは異なる独自の自然言語です。私は、2008年に設立された私立ろう学校「明晴学園」の教師として小学部や中学部で手話科を教えてきました。全国には100校近いろう学校がありますが、「手話」という教科があるのは明晴学園だけで、他のろう学校は音声を中心にコミュニケーション手段として手話の単語が使われる程度です。一方、明晴学園は日本手話を教育言語として「日本手話を第一言語、書記日本語を第二言語のバイリンガル・バイカルチュラルろう教育」を行っています。しかし、日本手話の先行研究は大変少なく、日々の授業は同僚のろう者教員に相談しながら独自に勉強して教えています。そこで、児童生徒の第一言語を伸ばすことを目的に、教育科学の面から「学習言語としての日本手話」を研究しようと考え、星槎大学大学院に入学しました。

私は、ろう児の「学習言語としての日本手話を育てる」方法を知ることを目的に本研究を行いました。大学院に入ってまず学んだことは研究方法です。具体的には、言語分析や授業分析でしたが、初めてのことも多く慣れるまではかなり苦労しました。しかし、自分の第一言語でもある日本手話を分析することは楽しいことでもあり、また、研究結果が児童生徒たちの学習に活かせるという期待が、ろう学校の教師であり、二人のろう児の母親でもある私の大学院生活の支えになりました。研究する中で少し驚いたのは、研究対象者が一人でも問題ないという点でした。それまで私は、複数のデータが必要とばかり思いこんでいたからです。研究そのものだけでなく、月1回のレポート提出は相手に伝わる文章を書くことのトレーニングになり、児童生徒へのフィードバックにも役立ちました。また、先行研究の論文を読みながら、私自身も「学習言語としての日本手話」が大いに役に立っていることに気づきました。私にとって第二言語である日本語の論文も、「学習言語としての日本手話」を使うとスムーズに読めることがわかったのです。なぜなら、先行研究の検討で大切なことは批判的リテラシーであり、それは第一言語かつ学習言語レベルで行わなくてはならないからです。

そして、「学習言語としての日本手話」の研究から、「学習言語としての日本手話」を身につけることで教科学習の理解の深化を促進するという教育的効果について考察することができました。つまり、ろう児には「学習言語としての日本手話」が必要であることを再認識できたということです。このことによって、「ろう児にとって、日本手話で生きることとは」という哲学的な問いにつながると感じました。この問いが生まれたことも研究の大きな収穫でした。更に、教育心理学や教育のユニバーサルデザインなど、児童生徒に寄り添った授業のあり方についても考えさせられた2年間でした。


大学院で教えてもらうことの楽しさと心地よさを実感

大学院を卒業して最も感じたことは、以前に比べて手話科の教師として自信をもって児童生徒と向き合えるようになったことです。これは、研究によるものだけでなく、大学院でお世話になった先生方のご指導を経験したからではないかと思います。教師になって17年が経ちましたが、あらためて教えてもらうことの楽しさと心地よさを実感しました。そして、大学院での研究で得られた知見が、明晴学園における日々の授業に活かすことができているのが何よりの喜びです。研究によって「学習言語としての日本手話」がもたらす教育的効果が示され、手話科だけでなく、全ての教科で「学習言語としての日本手話」を教育言語とすることの重要性を確かめることができました。また、特別支援教育の講義が授業作りに役立っています。