教育の観点から、「患者を急変させないシステム」を作る
池辺 諒 さん
2020年3月教育実践研究科修了生/看護師/大阪府
看護師として働き始めて8年後に、救急看護における認定看護師の資格を取りました。認定看護師になってからは救急看護に関するスペシャリストとして、指導や研修を病院から頻繁に依頼されるようになりました。とはいえ、認定看護師になるために研修を受ける期間は半年間だけで、せいぜい実践・指導・相談のコツが学べる程度です。自分が行う研修によって受講者は本当に学びを得られているのか、私の一方的な自己満足で終わっていないか、ということがとても不安でした。認定看護師という資格を持っていても自分がイメージしていたレベルには到底到達していないなという不全感を感じたのです。そのような中で、大学院への入学を考え始めました。研修の設計などのテクニックを学ぶことにとどまらず、より広い視野で「人が何かを学ぶとはどういったことか」「人の学びを促すとはどういったことか」というところを学びたいと思って、星槎に決めました。
今病院の中で、「院内迅速対応システム」といういわば「急変させないシステム作り」に取り組んでいます。一般的な病院では、危険な状態かどうかを各医師や看護師が判断して心肺蘇生チームを呼んでいるのですが、その判断が個人の力量や能力に委ねられてしまうことが問題でした。院内迅速対応システムでは、心肺停止に陥る可能性が高い基準をあらかじめ一覧で作成して、全職員に共有しています。例えば、3ヶ月未満の赤ちゃんが呼吸回数が60回以上ならこのPHSの番号に電話してくださいねといった感じで。実際に心肺停止になってから対応すると予後が悪くなることが多いので、心肺停止になる前に必ずチームが呼ばれて対応できるようなシステムになっています。
しかし、システムとして導入しただけでは不十分で教育的な介入が必要だとよく言われています。院内迅速対応システムのチームが呼ばれると、そのチームの指示のもと、その場にいる一般病棟の医師や看護師も協力して対応にあたることになります。ただ、ここでの指示が命令口調になってしまうと、一般病棟の医師や看護師が「せっかく呼んだのになんでそんなふうに言われなければいけないの?次から呼ぶのやめておこう」と思って関係性が悪くなってしまうことがあるのです。だからこそ院内迅速対応システムのチームのメンバーに求められる力のひとつとしてノンテクニカルスキルというのがあります。これは日本集中治療医学会と日本救急医学会が提示しているもので、教育学でいうところのソーシャルスキルのようなものです。このソーシャルスキルを身に着けるにはどういった取り組みや研修が必要かということを今のプロジェクト研究で取り組んでいます。看護学の知識だけだと到底今の医療には対応できないと思います。
社会人として仕事を続けながら学修できる
将来的には看護の専門家だけではなく教育の専門家になりたいと思っています。教育の専門家として、教育学的な背景を踏まえて設計・指導を行うということが絶対的に必要だと思うのです。「なんとなくこういう能力や研修が必要そうだね」で組み立てるのではなく、いわゆる逆向き設計のような形で、「到達する目標がこうあるから、こういう能力が必要、そのためにはこういう研修が必要だよね」というように。そのような取り組みを実践し続けることで教育の専門家といえるところまで高めたいなと思っています。そして自分自身が学び続けることも必要だと思うので、今後博士後期への進学も考えたいと思っています。
一般的には仕事を休んだり辞めたりして大学院に通うことが多いと思うのですが、星槎は通学制でありながら、社会人として仕事を続けることができます。つまり、学んだことをすぐに明日から実践できる職場があるということです。研究指導もインターネット回線を通じて、実際に大学院に行かずに受けることができます。その環境にとても感謝しています。