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2023.02.06

「ウクライナ戦争1年」◎外交的解決も模索せよ

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

▼米欧の戦車供与で新局面

ロシアがウクライナを侵略してから2月24日で1年が経過する。ロシアは占領している東部4州を併合したのに対し、ウクライナは領土の奪回まで戦うと明言し、戦況は膠着状態が続き、停戦の見通しは全くたっていない。

ロシアによる春季攻勢が懸念される中、米欧はこのほど、ウクライナに対し、攻撃的兵器である主力戦車の供与を決定した。ロシア側は「レッドライン(超えてはならない一線)を超えた」(ロ高官)と反発、「米欧がロシアとの直接衝突により近づいた」(ニューヨーク・タイムズ)との恐れが出ている。  

ロシアの侵略をはね返すにはウクライナへの軍事支援強化は不可欠だろう。だが一方で、戦争の出口に向けた外交的解決の道も並行して模索することを忘れてはならない。今後は水面下でプーチン・ロシア大統領にいかに効果的な圧力を掛けられるか、ウクライナのゼレンスキー大統領にどう働き掛けを行うかが焦点となるだろう。

▼米国とドイツのせめぎ合い

ゼレンスキー大統領はロシアのさらなる侵略を食い止め、占領された領土を奪回するためとして、戦車300両の供与を求めてきた。

ウクライナ側が最も望んだのは欧州各国に約2千両が配備されているドイツのレオパルト2だ。ロシア戦車の性能を上回り、「機敏で使い勝手が良い」ことからウクライナの戦場に適していると考えられるからだ。

ドイツは第2次世界大戦でのナチス侵略による歴史的反省から武器輸出を厳格に管理し、ショルツ政権も慎重な姿勢を貫いてきた。しかし、野党やポーランドなど国内外からのショルツ首相への戦車供与の圧力は強まった。追い込まれた首相が出した条件は「米国も供与に踏み切る」ことだった。ロシアの報復の脅威を避けるためには米国の後ろ盾が是非とも必要だったからだ。

だが、ロシアとの直接対決を嫌うバイデン米政権はプーチン氏を刺激しかねないとして供与を渋り、特に国防総省は米軍主力のエーブラムス戦車は「操作が複雑で、維持修理も難しい」との理由から強く反対だった。このため米欧の関係国会議は一時、供与をめぐり深刻な分裂の危機に直面した。だが、最終的には米独首脳の電話会談でギリギリの妥協が図られた。バイデン大統領がショルツ氏の主張を受け入れ、エーブラムス戦車を供与することに同意、歩調を合わせる形で発表を“演出”した。ウクライナ支援で「欧米の結束を示す」ことが優先されたのだ。

▼ナチズムを侵略のすり替えに利用するプーチン

ロシア側は表面上、平静を装っているが、西側戦車の供与には大きな脅威を感じているのは確かだろう。プーチン氏は2日、第2次世界大戦の激戦地ボルゴグラード(旧スターリングラード)で演説し、「ナチズムが現代的な形で出現した」などと、持論の「ウクライナ指導部ナチ説」を展開、非難した。

大戦では、ナチスドイツがソ連に侵攻し、ソ連軍が戦車戦でナチスを敗北させたが、プーチン氏はウクライナに供与されるドイツの戦車をこの「大祖国戦争」になぞらえ、ナチズムが再びロシアを侵略しようとしていると国民の危機感を煽りたかったようだ。しかし、今回、他国に侵略したのはロシアであり、この論理は全くのすり替えだ。

米欧が最終的に供与する戦車は百数十両になる見通しだが、これによって戦況がウクライナ側に劇的に優位に傾く、とする見方は少ない。むしろウクライナ側は戦車の次に戦闘爆撃機や長距離ミサイルの供与を求めており、戦闘拡大が一段と心配される事態になりそうだ。

▼出口を探せ

欧米はロシアが戦術核兵器を使用する可能性は小さくなったと見ているが、プーチン氏が追い詰められたと判断すれば、そのリスクは高まろう。実際、プーチン氏は2日の演説で「われわれは戦車を彼らの国境には送らないが、対抗する手段はある」と述べて、核兵器の使用をほのめかせた。

和平交渉の行方は戦況がどちらに有利なのかにかかっているが、今後最低2、3年は消耗戦が続くとの見方もあり、「プーチン氏の失脚や突然死がなければ、長期化は避けられない」という専門家の意見もある。

米欧は今後、プーチン氏との水面下での接触を強め、どこで矛を収めるかの感触を探るとともに、ゼレンスキー氏に対してもどこまで譲歩できるかの本音を本腰を入れて打診していかなければならない。こうした出口に向けた秘密交渉を誰が担うのか、かつてのキッシンジャー氏のような人物が出てくるのか、注視したい。