2025.08.31
評論「ウクライナ和平協議」ロシアは早期の首脳会談に応じよ ウクライナの意思を無視した領土割譲に反対
ウクライナの和平協議の先行きが不透明になってきた。先のアラスカでの米
ロ首脳会談後、ロシアとウクライナの首脳会談が「2週間以内に開催される」
との期待が高まったが、ロシアが条件を付け実現は難しくなった。
ロシアのプーチン大統領が容認したとされる終戦後の「安全の保証」につい
ても、同氏が実際に認めたのかどうかさえ怪しくなっている。だが、和平の流
れを止めてはならない。ロシアはウクライナとの早期の首脳会談に応じるべき
だ。プーチン氏は逃げずにウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクラ
イナを侵略した理由などについて説明したらどうか。
▼米ロ会談はプーチンの外交的勝利
8月15日に米アラスカ州で行われた米ロ首脳会談はプーチン氏の外交的勝
利だった。取り沙汰されていた米国の追加制裁を回避し、「停戦よりも和平合
意」とロシアの思惑通りにトランプ氏を転換させたからだ。
プーチン氏はトランプ氏を持ち上げ、自尊心を巧みにくすぐった。トランプ
氏が大統領選挙期間中から「自分が大統領だったら戦争は起きなかった」と繰
り返してきたことについて、プーチン大統領は「私もそう思う」とトランプ氏
に花を持たせた。
しかもプーチン氏は「危機の根本原因の除去」という強硬姿勢を維持、北大
西洋条約機構(NATO)の東方拡大やウクライナの親欧米政権の排除が先決と
の主張を変えなかった。同氏はウクライナの東部ドンバス地域からのウクライ
ナ軍撤退と全域割譲を要求した。これを受けたトランプ氏がロシア側の要求を
呑むようウクライナに迫ったと報じられている。トランプ氏はプーチン氏が描
いたシナリオのまま動いたことになり、「プーチンに操られるトランプ」とい
う構図が一段と鮮明になった。
しかし、ロシアとウクライナの首脳会談の機運は一時的に高まったものの、
ロシア側が「会談は予定されていない」と否定し、急速に萎んだ。会談の開催
地についても、当初はハンガリーのブダペストが有力視されたが、同国のオル
バン首相がプーチン氏に近いこともあってゼレンスキー氏が難色を示し、現在
はジュネーブ、ウイーン、イスタンブールなどが候補に挙がっている。
▼日本も積極的に役割果たせ
「領土の交換」の協議について、トランプ氏はかつての列強の植民地政策のように、米ロだけで決定することを望んでいるようだが、ウクライナ国民の意思を無視した考えには賛同できない。ウクライナのゼレンスキー大統領は被占領地の割譲を拒否する一方「一部の暫定的な実効支配は容認せざるを得ない」という現実的な立場を取っており、こうした意見に耳を傾けるべきだろう。
心配なのは終戦後、ロシアが二度と侵攻しないための「安全の保証」問題だ。トランプ氏はプーチン氏がアラスカ会談の中で、米国が関与した「安全の保証」を容認したと示唆しているが、本当にそうなのか。プーチン氏はロシア側の要求がすべて通った後、という条件付きで認めたのではないか。トランプ氏が都合よく解釈した懸念は消えない。
ただし、仮に「安全の保証」をどう提供するのかとなった場合、日本は積極的に関与すべきだ。NATOは日本やオーストラリアなど約30カ国が平和の維持に関与する方向で調整しており、日本にとっては国際貢献の好機となるだろう。