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2023.06.21

評論「トランプ氏再び起訴」◎あらためて信頼度問え    超大国の指導者として適格か

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 トランプ前米大統領が国家機密の公文書を私邸に違法に保持したなどとして連邦大陪審に起訴された。同氏は「不倫口止め疑惑」で訴追されており、今回が2度目の起訴だ。

 保持していた中には、米国や同盟国の弱点など重大な安全保障関連の文書が含まれており、日本としても看過できない。

 同氏はバイデン政権による「魔女狩り」と反発、起訴を逆手に次期大統領選挙戦を有利に運ぼうとしているが、本当に信頼に足る人物なのか。米国民はあらためて自ら問い掛ける必要がある。

 起訴状によると、同氏はスパイ防止法違反や司法妨害などに問われ、37件の個別事案で起訴された。文書には米国や外国の核兵器情報や特定国への軍事作戦などが含まれており、単に内政問題として片づけられない。

 文書はフロリダ州の私邸マールアラーゴの宴会場やシャワー室、トイレなどに保管されていたが、そのずさんな危機管理ぶりには驚きを禁じ得ない。

 深刻なのは機密であることを認識しながら、一部を自慢げに閲覧権限のない外部の人間に見せたり、連邦捜査局(FBI)にうそをついて文書を隠ぺいするなどしたりした点だ。文書の返還を進言した弁護士の提案も拒否したという。大統領就任時に法の順守を誓約した人物とは思えない極めて悪質な行為だ。

 同氏は連邦裁判所での罪状認否で、起訴事実を否定し、無罪を主張。支持者への演説で「邪悪な権力の乱用」「司法制度の武器化」などとバイデン大統領を非難し、自分が大統領に復帰すれば、バイデン氏とその家族を捜査すると報復にまで踏み込んだ。社会の分断をさらに助長する言動だ。

 トランプ氏の元側近の一部は「深刻な疑惑で弁護できない」(ペンス前副大統領)「言い訳できない」(バー前司法長官)などと批判的だ。しかし、共和党支持者の81%が起訴を「政治的」と見なすなど岩盤支持層のトランプ人気に揺らぎはない。来年の選挙に向け、党の大統領候補を決める指名争いでも他の候補に大差を付けてトップを独走しており、影響力は健在だ。

 同氏の求心力が衰えないのはグローバリズムから取り残され、「既存の支配層」への不満を募らせる人々の心をつかんでいるからだ。彼らから見れば、「既存の支配層」とはオバマ元大統領やヒラリー・クリントン元国務長官らに代表される民主党のリベラル勢力である。トランプ氏はオバマ氏らを「影の政府」(ディープ・ステイト)と呼び、「影の政府」による米国支配の陰謀を阻止しようと訴えている。

 トランプ氏は大統領在任中、暴言を繰り返し、メディアによると、3万回を超えるうそや誇張を重ねたが、支持者にとって真偽は二の次で、同氏の言うことこそが真実なのだ。2016年のトランプ氏が当選した大統領選を契機にフェイクニュースが急増したが、そこには「ポストトルース・ポリティックス」ともいうべきこうした背景がある。

 だが、今回の起訴事実で浮き彫りになったのは同氏が民主主義の根幹である「法の支配」を軽視する姿だ。そもそも同氏は前回選挙の敗北を「不正選挙」としていまだに認めていない。このような人物が大国の指導者としてふさわしいのか。国民は今こそ自問自答すべきだ。