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2023.04.11

評論「トランプ氏起訴」◎分断排し冷静に対処を−大統領選に向け対立激化の懸念

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

トランプ前米大統領が不倫口止め疑惑をめぐりニューヨーク州大陪審に起訴された。大統領経験者が起訴されるのは史上初めてで、米国にとって「破壊的な政治的影響を伴う悲しい日」(米紙)となった。

同氏は罪状認否のため裁判所に出頭して罪状を全面否定し、民主党政権による「政治的迫害」と猛反発しており、社会の分断と対立がさらに深まる恐れがある。

だが、今回の起訴を政争の具にしたり、対立を助長する機会にしたりしてはならない。国民は司法手続きを粛々と見守り、冷静に対処するよう求めたい。

司法省には「現職の大統領は訴追されない」という内規があり、大統領経験者も同様の扱いを受けてきた。ウオーターゲート事件のニクソン氏や、ホワイトハウスの執務室で実習生と不倫したクリントン氏も議会の弾劾にはかけられたが、訴追はされなかった。今回、そうしたタブーが破られ、今後は退任した大統領の免責が保証されないことになる。

起訴は端的に言うと、米国の民主主義の強さを示すものであり、「誰しも法の上には立てないことを証明した」(識者)ということだろう。最高権力者の不正を正すという観点からその意味は大きい。

トランプ氏は自身の大統領復帰を阻止するため、与党民主党が検察を使って仕組んだ「陰謀」と反論。犯罪に対する訴追ではなく、「選挙妨害の犠牲者」だと印象付けようとしているようだ。バイデン大統領は静観しているが、野党共和党の有力者らが陰謀論に同調する発言をしているのは残念だ。

トランプ氏の狙いは起訴で脚光を浴び、来年の大統領選に向けた戦いを有利に運ぶことだろう。昨年の中間選挙では同氏が推した候補が軒並み落選するなど、その影響力に陰りが出ていたが、起訴後に支持率が大幅に上がったのは目論見通りだったのではないか。

同氏はこれまで数々の暴言や差別的発言を繰り返し、「敵」と「味方」を峻別(しゅんべつ)する手法で支持を集めてきた。外交でも同盟国を軽視した「米国第一主義」を振りかざし、世界を揺るがせてきたのは周知の通りである。

だが、同氏が最も問われるべきは民主主義の根幹である選挙を軽視したことだろう。敗北した前回の大統領選挙の結果を認めず、支持者を扇動して、連邦議会襲撃事件を引き起こした。国民の模範となるべき人物としては卑しむべき行動と言わざるを得ない。

同氏に対しては、今回の起訴の対象になった不倫疑惑以外にこの連邦議会襲撃事件やジョージア州の選挙結果を覆そうとした疑惑など、より重大な3件の捜査が続いており、次々に訴追される可能性もある。

米社会はトランプ氏の登場で分断が深まったが、国民の約半数が差別的発言を繰り返す同氏を支持している現実をどうとらえたらいいのか。起訴を契機に同氏の熱狂的な支持者と反トランプ派による“内戦”も取り沙汰されるなどおよそ民主主義のチャンピオン国家とは思えない風景も現実味を帯びている。

今こそ融和を掲げて当選したバイデン大統領の正念場だ。分断を暴力につなげてはなるまい。不測の事態が起きないよう目配りし、国民の結束を図るよう尽力しなければならない。