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2023.02.28

評論「米大統領のキーウ訪問」◎支援と連携の輪を広げよ

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

支援と連携の輪を広げよ −「グローバルサウス」の支持獲得を−

バイデン米大統領はロシアのウクライナ侵攻から1年を前に首都キーウを電撃訪問、ウクライナ支援を今後も継続するという強い決意を示した。米軍のいない戦地に軍最高司令官でもある大統領が赴くのは異例で、自由主義陣営の指導者としての覚悟を内外に見せつけた意義は大きい。

しかし、その一方で米国が主導した対ロシア制裁は十分に機能していない。大統領は「ロシア包囲網」が効果を発揮するようウクライナ支援と連携の輪を広げる努力をするべきだ。

▼3つの狙い

大統領のキーウ訪問の狙いは3つあった。1つはウクライナ国民とゼレンスキー政権に「米国の支持に揺るぎがない」ことを示すこと、2つ目はロシアのプーチン大統領にウクライナ防衛で米国の不退転の姿勢を見せつけることだった。3つ目は米国内に向けたメッセージだ。そこには①再選を念頭に高齢をものともせぬ「強い大統領」であることを誇示すること②ウクライナ支援疲れの見える国内の引き締め―という意図が込められていた。

①について言うと、米国では弱々しく見える政治家は嫌われる。再選に失敗したカーター氏(民主党)はその典型例で、過去には涙を見せたために落選した政治家もいる。要は西部劇のジョン・ウエインのようなタフガイが好まれるのだ。現在80歳のバイデン氏も戦地などを恐れない「強い大統領」であることをアピールしたかったと受け止められている。

②については、最近の世論調査によると、軍事支援に対する賛成が48%と、昨年の5月の時点の60%と比べかなり減少しており、バイデン氏の危機感が高まり、国民の関心を引く訪問の機会をうかがっていたようだ。

▼対ロ制裁賛成はわずか33カ国

だが、戦争の長期化とともに、世界の分断がこれほど深まったのはバイデン氏にとって大きな誤算だったのではないか。

同氏はウクライナ戦争を「民主主義」対「専制主義」という「価値観の戦い」と位置付け、ばらばらになりがちな欧州をまとめ、対ロ制裁をリードしてきた。しかし実際には、制裁に賛同しているのは世界で33カ国しかない。日本と韓国を除けば、制裁に参加しているのは“白人諸国”であることをあらためて認識する必要があるだろう。

対立関係にある中国が加わらないのは織り込み済みとしても、友好国のインドやブラジル、イスラエルが入っていないのは痛い。インドは対ロ貿易を侵攻前から4倍にも増やし、ロシアから石油を買い続け、制裁の実行力を弱めている。2022年のロシアの国内総生産(GDP)がマイナス2%強にとどまり、市民らがさほど困ることなく侵攻前と同様の生活を享受しているのはこうした制裁の抜け道が横行しているからに他ならない。

▼背景に植民地主義やイラク戦争への不信感

特に「グローバルサウス」と呼ばれる中東、アフリカの発展途上国の大勢は制裁に反対で、地域大国である南アフリカは最近、中ロと海軍の軍事演習まで行った。こうした国々が米国の考えに同調しないのは、かつての欧州列強による植民地主義や偽情報に基づいてイラク戦争などに踏み切った米国の身勝手な行動に不信感を抱いていることが背景にある。

だが、国際社会が分断していてはロシアへの圧力が弱まるばかりで、ロシア軍をウクライナから撤退させるのは難しいだろう。先の国連総会はロシア軍の即時撤退要求を141カ国の賛成で決議した。武力による現状変更や国際秩序の破壊に対しては国連加盟国の7割以上が反対なのだ。バイデン大統領は対ロ制裁に加わっていない各国を説得し、ロシア包囲網への参加を促す努力に力を入れなければならない。