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2023.02.11

評論「米大統領の一般教書演説」◎対中関係の改善を急げ

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

▼遠ざかる国民融和の目標

バイデン米大統領による2月7日の一般教書演説は、来年の大統領選挙や野党共和党が議会下院で多数派となった現実を反映して内政を重視、国際的な諸問題に取り組まなければならない指導者としてはやや物足りない内容となった。

日本にとっても重大な懸案である中国関係について、大統領は「対中競争に勝つ」ための国民の結束を訴え、偵察気球撃墜を念頭に「主権侵害」を座視しないとの強い決意を示した。しかし米中二大国が緊張状態にあるのは世界の平和と安定にとってマイナスだ。大統領は早急に対中関係の改善を目指すべきだ。

▼偵察気球撃墜で対話ムードに水

大統領は就任以来、「唯一の競争国」などと中国への対決姿勢を鮮明にし、日本を含めた同盟国との連携による中国包囲網を形成してきた。昨年秋、インドネシアのバリ島で開かれたG20首脳会議の際、習近平・中国国家主席と会談して対話ムードが芽生え、ブリンケン国務長官が2月初めに訪中する予定となっていた。だが、中国の偵察気球が米本土上空に飛来する事件が発生して訪中は急きょ延期となった。気球は大統領命令により大西洋上空で撃墜されたが、中国が猛反発、関係は再び悪化した。大統領は演説で中国の主権侵害には強硬方針で臨むことを強調する一方、これ以上の険悪化は望まないとの意向もにじませた。

大統領が撃墜という手段に踏み切ったのは、与野党から対中強硬論が噴出する中、「弱腰」批判を避けたかったからだ。だが、「偶発的な出来事」を衝突に発展させないためにも、危機管理の信頼を醸成することが重要だ。中国との対立緩和を模索してほしい。

▼懸念される戦争への関与

バイデン大統領はウクライナ戦争については、プーチン・ロシア大統領の侵略に対し欧州を結束させて世界的な連合をつくり上げたと成果を誇示した。確かにバイデン氏の指導力がなければ欧州の意思を統一して支援体制をまとめられなかったのは事実であり、この点がバイデン政権の最大の外交的成果でもある。

気掛かりなのは、世論調査で共和党支持者の半数が「これ以上の支援に反対」としているように、国民の間に援助疲れが出ていることだ。より懸念されるのは米国が実際にはウクライナ戦争に相当深く関与し、ロシアとの直接対決の道に踏み出しつつあることだろう。米ワシントン・ポストによると、ウクライナ軍は長距離砲を使用する際には、まず米軍がロシア軍の位置を特定し、それに従って発射しているという。想定される3月のロシア軍の春季攻勢にはこうした米軍の関与はより強まると見られている。

▼分断を浮き彫り

バイデン大統領が演説で大半の時間を割いたのは内政問題だ。特に失業率の大幅改善や雇用の創出などの実績を強調するとともに、共和党に政策実現のための協力を呼びかけた。しかし、移民や社会保障、健康保険問題では共和党議員から「嘘つき」などと激しいやじが飛び、与党民主党との分断の現実が浮き彫りになった。一般教書演説の最中に、元首である大統領を罵倒するのは極めて異例。やじった共和党議員の多くは大統領の政敵であるトランプ前大統領の支持議員だった。「国民の融和を実現する」というバイデン氏の大統領就任時の目標が遠ざかっているのは残念だ。

今回の演説の水面下で注目されていたのは80歳という高齢の大統領がうまく話せるかだった。大統領には元々、発音に不安があり、演説に向け側近らを前に猛練習したという。大統領は近く再選出馬を宣言すると伝えられている。24年11月の大統領選時には82歳となり、歴代大統領の中で無論最高齢だ。秋から本格化する予備選挙では、この年齢問題が大きな焦点になるだろう。