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2024.01.10

「特別連載」◎コロナ禍後のいま〜アフリカ・コンゴ盆地の野生生物と先住民族 第1回 気候変動は実在するのか

執筆:星槎大学教授 西原智昭

「いや、ここ20年くらいデータを取っているが特に気候上の大きな変化はないですよ。そりゃたまには雨が多く降ったり、川が氾濫したり、猛暑が続いたり…でも巨視的に見れば気候は安定している。その証拠に熱帯林の中の果実生産に大きな変動はないし、だから野生動物への影響も見られないです」と、2023年8月にコロナ禍を経て久々に訪れた、コンゴ共和国北東部ヌアバレ・ンドキ国立公園の管理基地にいる20年来の知己であるWCS *1 スタッフのコンゴ人研究者から聞いた。世間では「地球は沸騰」などと騒がれているのとは対象的だ。

周囲を見ればそこには原生の熱帯林が広く残されている。国立公園だけではなく、周辺の林業事業者がFSC認証(後述)という国際認証制度に基づいた開発をしていることで森林も野生生物もよい状況で保全されている。ここには「地球温暖化」の犯人とされる二酸化炭素を吸収する自然が残っているのだ。人が住む周辺部にはアスファルトもコンクリートもないので、都会に見られる「照り返し」由来のヒートアイランド現象もない。

「いや、それでも赤道直下の熱帯だから暑くてしょうがないでしょう。熱帯夜でエアコンも必要不可欠じゃないの?」と必ず訊かれる。確かに開けた場所で日中直射日光を浴びると暑い。しかし熱帯林の中にいれば、特に原生林では樹冠の大きな樹木が多いのでそういうこともない。実際最高気温は25度程度で非常に心地よい。朝晩は最低気温が10度くらいまで冷えるときがある。熱帯なのに「熱帯夜」がない(そもそもそれは自然のない都会に住む人間が「熱帯は暑い」という先入観に基づいた造語に違いない)。だからエアコンは不要で、その吹き出しによる熱風もない。電気もほとんどない生活では大きな電力を使用するエアコンはまず使わないのだ。

われわれ文明社会、特に都会には自然はほとんどない。したがって二酸化炭素吸収源がほとんどない。ヒートアイランド現象が起きるのも当然の環境である。確かに地球全体をならして見ると昨今の急激な温度上昇やそれに伴う気候変動の頻度は高いのかもしれない。しかしこうした原生の自然が残っている場所ではそうした気候変動が起こっていないというミクロの視点からわれわれが気候変動に対してあらためて考える必要もあると思われる。 それは第一義的に「生態系や生物多様性を含む自然を保全すること」「これ以上そうした自然には手を付けない」「可能であればそうした自然の回復や野生動物の野生復帰なども心がける」など。気候変動対策にEV(電気自動車)や再生可能エネルギーも一案ではあるが、その製造に必須の希少金属の調達開発のために世界中の熱帯林が乱開発され、従来の住民である先住民族の土地・人権侵害が起きている現状では本末転倒ともいえる。周りの情報に踊らされず、まずは現場を知ってほしい。(続く)

(脚注)

*1 WCS(Wildlife Conservation Society、野生生物保全協会)アメリカ、ニューヨーク・ブロンクス動物園に本部を置く非営利国際NGOで、地球上の生物多様性保全に貢献(1898年設立)。現在のプロジェクト数は、60カ国以上に、合計500以上の帆前方ロジェクトを実施している。WCSの使命は、世界中の野生生物と野生の地を保全することにある。われわれのとっている手法は、科学研究であり、グローバルな観点からの保全であり、教育普及および野生の保護区や国立公園システムのマネージメントである。すべてブロンクス動物園のサポートによって成り立っている。これらの活動とともに、自然界への人間のとるべき態度を変えていき、また野生生物と人間とが調和共存していく道を探っていく手助けをする。WCSがこの使命に携わっているのは、地球上のかけがえのない生命にとって本質的に重要な課題であるからである。