オンラインでもキャンパスでも学べる
教育系大学院(学校教育・特別支援教育・看護教育)
専修免許状
専修免許状
資料請求 / お問い合わせ
資料請求 / お問い合わせ

2024.01.20

評論 ◎政策論争で勝負せよ 開幕した米大統領選挙

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 4年に1度の米大統領選挙に向けた野党共和党の候補者選びの初戦、中西部アイオワ州の党員集会が開催され、事前の予想通り、トランプ前大統領(77)が圧勝した。米国は今後、11月5日の本選挙まで選挙一色に染まるが、その行方は内政だけではなく、日本など世界の政治経済や安全保障に大きな影響を与えよう。

 憂慮されるのは米社会を覆う「分断と対立」が選挙によって一段と増幅される可能性が高いことだ。互いに相手を非難する中傷合戦に陥らず、政策論争で真正面から勝負するよう求めたい。

 ▼復権に好スタート

 近年、同州の党員集会は2大政党である民主、共和両党の候補者選びの初戦となってきたが、今回は与党民主党が郵便投票に切り替えたため、共和党のみの集会となった。結果はトランプ前大統領が圧倒的な底力を見せ、他の候補に30ポイント以上もの差を付けて勝利、復権に向け好スタートを切った。2位にはデサンティス・フロリダ州知事が付け、追い上げに望みをつないだ。3位に僅差で女性のヘイリー元国連大使が続いた。

 ヤマ場はカリフォルニアやテキサスなど14州の予備選挙が集中する3月5日のスーパーチューズデー(決戦の火曜日)だ。この結果で指名争いの方向性が定まろう。トランプ氏が独走し、本選は民主党の候補者となることが確実なバイデン大統領(81)との高齢者同士の対決となる公算が大きい。

 ▼メディアを巧みに利用

 懸念されるのは選挙戦が重要な政策論議そっちのけの非難の応酬に流れかねないことだ。その発火点はトランプ氏だ。すでにバイデン氏を「史上最低の大統領」「ペテン師」などと罵倒。これにバイデン氏もトランプ氏を「民主主義の最大の脅威」とやり返すなど過熱気味だ。

 トランプ氏は議会襲撃など4つの事件で起訴され、憲法の規定上、そもそも出馬資格があるかを問われているが、被告人の立場を逆手に取って劇場型の選挙戦を展開し、支持を広げてきた。起訴されるたびにバイデン政権から「政治的迫害」や「魔女狩り」を受けているとアピール、メディアを巧みに利用して注目を引き付けてきた。

 その主張は「米国を再び偉大に」「米国第一主義」などと大衆受けし、分かりやすい。一方のバイデン氏は高齢からか活舌が悪く、失業率改善などの実績をうまく伝え切れていない。

 ▼それでもトランプとの一騎打ち望むバイデン

 トランプ氏は今なお、前回大統領選の敗北を認めておらず、民主主義の根幹である選挙結果を否定している人物だ。しかも「独裁者になりたい」とか、自分を裏切った元の側近らに「報復する」などと物騒な発言を繰り返し、およそ民主主義の旗頭である超大国の指導者としてはふさわしくない。選挙期間中の同氏の言動で党派対立が一段と激化する恐れが強い。

 著名な国際政治上の危機分析の米調査会社「ユーラシア・グループ」が今年のリスク第1位として「米国の政治的分断」を挙げたのはこうした状況の深刻さを示すものだろう。

 だが、バイデン陣営はそれでもなお、トランプ氏が共和党の候補者選びの勝者になることを望んでいるように思われる。バイデン大統領の支持率は現在のところトランプ氏に数ポイントの後れをとっている。だが、トランプ氏との直接対決になれば、最終的に大統領の「適格性」の観点から競り勝てると読んでいるようだ。相手がトランプ氏ではなく、ヘイリー元国連大使のような若手だと完敗するかもしれないと恐れている。

 いずれにせよ10カ月に及ぶ長丁場の選挙戦だ。何が起こるか分からないが、非難合戦に終始せず、各候補が政策論議を交わす存在として競争相手を認め、分断解消に向けて少しでも尽力するよう求めたい。