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2025.01.26

評論「トランプ大統領就任」 ◎外国へのどう喝やめよ  少数派、弱者の切り捨てに懸念

執筆:佐々木 伸 教授(星槎大学大学院 教育学研究科)

 ドナルド・トランプ氏(78)が米大統領に就任し、第2次政権が発足した。同氏は就任演説で、「米国第一」主義を強調、厳しい不法移民対策や温暖化防止の環境政策からの大転換を発表した。隣国のカナダやメキシコに関税を課すことや領土の拡張にも意欲を示し、パナマ運河の返還やメキシコ湾の名前を「アメリカ湾」に改称すると一方的に宣言した。

 自らの要求を通すため、超大国の力を背景にしたこうした言動は世界を動揺させ、緊張させかねない。「どう喝外交」を直ちにやめるよう要求したい。しかも大統領は前政権が進めてきたDEI(多様性、公平性、包摂性)重視、少数派尊重の政策をやめることも明言、「実力主義の社会」を推進することで弱者が切り捨てられる懸念も高まっている。

▼復讐

 注目すべきは公約の一つである不法移民対策で「国家非常事態」を発動、メキシコ国境に連邦軍を派遣し、大統領令により不法移民の大量追放に着手したことだ。こうした移民らは建設現場などで米国経済を下支えする役割を担っており、国内が混乱するのは確実とみられている。米国ではたとえ不法移民の両親であっても、国内で生まれた子供に市民権を付与する決まりとなっていたが、同氏はこの制度を廃止する大統領令にも署名した。しかし、一部の連邦地裁はすでに、この決定を憲法違反とする判断を下した。

 トランプ氏の独裁色が強まるのも心配だ。同氏は事実上、行政、立法、司法の三権を掌握しており、野党民主党との対立が激化し、分断が深まるのは必至だろう。同氏は第1次政権で自分の意向に反抗した司法省や連邦捜査局、国防総省などに恨みを抱いており、これら省庁への復讐を開始、早くも千人を超える高官を解任した。

▼「予見不能性」に戦々恐々

 同氏は目的のためには同盟国に脅しも辞さない。就任早々、隣国のカナダとメキシコに米国に麻薬を流出させているとして、25%の関税を課す方針を明言し、中国にも関税を新たに課す方針。EUには防衛費を国内総生産(GDP)比5%にするよう要求した。同氏がこうした要求を発信しているのは、今後の交渉で「取引」を有利に運ぼうとしたもの、との見方が強い。しかし、同氏は「予見不能性」を看板にしており、実際にどのように出るのかは不透明で、各国の戦々恐々ぶりは高まるばかりだ。

 日本の石破首相は一日も早く訪米してトランプ大統領との首脳会談を模索しているが、なかなか決まらない。日本側を焦らし、その後で防衛費や貿易関係で過大な要求を突き付けてくる恐れがある。石破政権は右往左往することなく、政官財が一体となって対応しなければならない。いずれにせよ、大統領が実際に高関税を課せば、「世界貿易戦争」のリスクも現実味を帯びてくる。極めて危険だ。

 同氏は関税収入を減税の資金源に充て、最終的にはグローバル化で海外に流出した「何千もの工場を米国に戻す」というのが持論だ。だが、関税で輸入品の価格が高騰、かえって消費者にしわ寄せがいくという見方も強い。

▼共和党の奮起に期待

 トランプ大統領の環境問題に対する後ろ向きの姿勢も心配だ。温暖化防止の「パリ協定」から再離脱したのはその象徴だ。化石燃料の増産、電気自動車の普及義務化の撤廃を明言したが、世界各地で多発する異常気象に危機感を覚えないのだろうか。「世界保健機関」(WHO)から脱退する大統領令にも署名し、国連を軽視する姿勢は1期目と変わらない。

 大統領は先に、米国が建設したパナマ運河を取り戻すための軍事力行使を否定しなかった。デンマーク自治領のグリーンランドの米国領有も要求、デンマークが反対すれば、高関税を掛けると圧力を加えた。他国の主権を無視する手法はウクライナ侵略を正当化したロシアのプーチン大統領に通じるものがある。

 最大の問題は大統領の独善的な「暴走」をチェックし、歯止めをかける民主主義の機能が崩壊しつつある点だ。議会の上下両院は共和党が多数派となり、共和党自体が「トランプ党」に変身、イエスマンばかりの党になったことが大きい。ただ、ヘグセス国防長官の上院での承認審議で共和党から3人の反対者が出て、最終的には議長役のバンス副大統領が賛成し、ぎりぎり承認された。ヘグセス氏はトランプ氏に忠誠を尽くすだけで、国防長官にはふさわしくない人物と見られてきた。こうした中で共和党から大統領への造反者が出たことは党が良識を取り戻す一筋の光明だろう。共和党の奮起に期待したい。