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2024.01.31

「特別連載」◎コロナ禍後のいま〜アフリカ・コンゴ盆地の野生生物と先住民族 第3回 ヨウムは保全され得るのか

執筆:星槎大学教授 西原智昭

 ヨウム(Psittacus erithacus erithacus)は、世界各地でペットとして高い人気がある。日本も例外ではない。かわいらしい風貌の上に人間の言葉を真似るのが上手であるからだ。しかしいまだヨウムの人工繁殖の成功例は多くないため、ペットとして飼われているヨウムはほとんどが野生由来であり、ペットとして売買が可能になっているオウムやインコなど他の鳥類とは大いに異なる点である。通常集団で過ごす社会性動物であるヨウムが一羽でペットとして飼われるのは尋常な状態でなく、ヨウムに高いストレスを与える要因にもなっている。

 2016年のワシントン条約締約国会議では、ペット需要のために急激にその数を減らしている野生ヨウムの輸出入を一切禁止する提案が提出され、それが圧倒的多数で可決された。 
 この決議に基づき、ヨウムの生息域であるアフリカ熱帯林現地でのヨウムの違法捕獲や輸出に対して検挙は容易になったが、違法行為がすぐに終焉するものではない。需要が継続しているためむしろヨウムの希少価値が上がり、違法捕獲と密輸がさらに助長されてきた。
 現地の末端価格はヨウム1羽あたり数ヶ月前より4〜5倍に高騰している。ワシントン条約での提案に反対した日本で以前は一羽20万円で売られていたのがいま50万円に跳ね上がっているのは、こうした現地価格の変動と関連があると考えられる。

 ヨウムの需要がありその売買が実施されている国々における各国内でのヨウムの管理システムを構築することが肝要であり、ペット事業者および消費者はそれに留意すべきだ。野生生物の保全教育を謳(うた)っている動物園でも、ヨウム保全に関する実りのある教育普及活動を進めることが求められる。

 またアフリカの現地ではヨウムの違法捕獲に対する監視体制の強化だけでなく、森林警察によって密猟者から保護されたヨウムのリハビリを行い、一層野生復帰を目指すことも重要である。
 2023年8月のコンゴ共和国渡航では、日本国内でNPO法人「アフリカ日本協議会」を母体として集められたヨウム保全のための寄付金を現地WCS(野生生物保全協会)にお届けした。現地で保護されたヨウムのリハビリや野生復帰に必要なヨウム舎や餌、薬など必要な物資の補完をするためだ。こうした作業によりヨウムの健全な野生復帰も可能となり個体数回復にも繋がるといえる。

 動物園などでヨウムの人工繁殖の研究を進めること自体に問題はないとしても、そこで繁殖した個体を一羽一羽野生復帰させるのはもともと集団で暮らす社会性動物ヨウムにとっては大きな問題がある。
 また人工繁殖による個体をペット業界に回すのは野生ヨウムの保全に一見解決策となるようにみえるが、ペット業界に人工繁殖の個体と野生由来の個体が混在する可能性もあるためその違法性を廃する厳格な仕組みを構築しなければならないという大きなハードルがある。したがって「人工繁殖=ヨウムの保全」というのはあまりにも短絡的な発想と言わざるを得ないことを喚起したい。