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2024.02.09

「特別連載」◎コロナ禍後のいま〜アフリカ・コンゴ盆地の野生生物と先住民族 第5回 国際認証制度普及の重要性 

執筆:星槎大学教授 西原智昭

 森林消失そのものはマルミミゾウやヨウムなど野生動物の生存を危うくするだけでなく、気候変動の要因ともなるため、森林消失の最大要因である資源開発を減らしていく必要がある。そのためには先進国等における資源調達や生産・消費に至るまでライフスタイルのあり方を見直さなければならない。
 資源の源流である自然環境の保全だけでなく、当該地域における様々な人権配慮や社会貢献をも視野に入れる「エシカルライフ」を目指していくことが肝要なのだ。その一事例として、国際基準があり厳格な第三者監査の存在する国際認証制度に基づいた資源開発とその利用が提唱されている(木材伐採についてはFSC認証、アブラヤシ農園に関してはRSPO認証、鉱物資源開発についてはたとえば銅に関する“Copper Mark”認証)。ここではFSC認証*3について簡単に紹介したい。

 コンゴ共和国の林業事業者は多国籍企業であることが多いが、筆者が長年関わってきた国立公園に隣接する林業区にはFSC認証事業者がある。筆者自身、世界で初となる現地政府・林業事業者・国際NGOとの間で立ち上げた連携事業においてWCSスタッフとして野生生物保全などのアドバイザーを務めた経験がある。
 FSC認証取得の条件の大原則は「環境・社会・経済」への配慮にある。第一に、元来の森林生態系を最大限維持するための「計画伐採」が求められる。たとえば、1) 有用材として伐採する樹種を限定する;2) 伐採対象の樹木の最小直径を規定することで成長途中の小木は切らない;3) 林業区全体を分割し当該期間は一つの分割域のみを伐採区と規定、他の区域は伐採しない;4) 一つの伐採区において特定の線上にのみある有用材を伐採し線上外では伐採しないことで熱帯林生態系を広く守る;5) 伐採対象となった樹木の位置情報から樹種、直径、製材に至るまでデータベースがあり全過程の透明性が確保されていること、などである。

 こうした持続可能な林業だけでなくさらに重要な点は、事業者の責任で国家公務員である森林警察をサポートして林業区内での野生生物への違法行為を取り締まることである。たとえばマルミミゾウが保全されれば植林の難しい熱帯林において「種子散布」による森林自然再生も可能となる。もうひとつ忘れてはならないのは熱帯林に依拠してそこに居住してきた先住民族への社会的配慮である。
 先住民族専属の学校を作り最小限の学校教育を先住民の言葉で実施、季節ごとの狩猟採集生活ができるように事業者がサポートするなどといったことで、先住民族の言語や「伝統知」の継承をも可能にしている。このことで「先住民族が先住民族でなくなる」ことが回避され得る。
 FSC認証を取得していない他の林業区では仮に持続可能な林業を営んでいても、野生動物はまったく見られないばかりか、先住民族の生活や伝統は崩壊状態となっている。
 自然生態系や生物多様性保全、気候変動緩和対策、パンデミック抑制、野生動物と人との衝突回避、いまだ差別を受けている先住民族への真摯な社会的配慮などが喫緊の課題である現在、第一義的にこれ以上新たに森林環境を破壊しないことが最重要である。仮に最小限の資源開発を継続するにしてもFSC認証を始めとする国際認証制度のもとでの事業普及は必要不可欠と考える。とりわけ資源のない日本ではそうした国際認証制度への認知・理解力が低い現状、日本国内でのその普及と認証マーク入りの製品の消費拡大は喫緊の課題であろう。

(付記)
 2024年8月には短期間であるが、筆者が長年現地でお世話になってきたコンゴ共和国北東部在住の先住民族ピグミーの2人を、コンゴ人研究者1人とともに日本に招聘する予定である。ピグミー両者とも森の「伝統知」に熟知しているほぼ最後の世代の方々である。いずれも国立公園管理プロジェクトに雇われ、一人は車のメカ、もう一人はゴリラ追跡の研究アシスタントを務める。招聘最大の目的は、筆者など外国人や先住民族の外部人権団体などからではなく、彼ら自身のことばで彼らの従来のライフスタイル、いま直面している現状などについて話してもらい、多くの日本人と情報を共有することである。なぜ彼らの社会では物資や金銭、教育の機会などには恵まれていなくても格差のない対等社会であり、自殺やストレスのない生活を営んでいるのか、彼らの従来の依拠してきた場所である森林はどういう状況なのか、学校教育の普及は彼らの社会にどういう影響を及ぼしているのか、FSCなど国際認証事業に基づいた開発業による先住民配慮は具体的にどのようなものなのかなどなど。
 2つ目の目的は、同じ先住民族であるアイヌ民族との交流をすることで、同じ先住民族として立場や情報をシェアすることにある。計画が明らかになった暁には、クラウドファンディングへのサポートや彼らの滞在中のイベントに是非参加いただければと願う次第である。

*3 FSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は責任ある森林管理を世界に普及させることを目的とする、独立した非営利団体であり国際的な森林認証制度を運営している。環境保全の点から見ても適切で、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を理念とし、森林が急速に破壊されている状況を背景に、1994年、環境団体、林業者、林産物取引企業、先住民団体などが中心となって設立された。責任ある森林管理から生産される木材とその製品を識別し、それを消費者に届けることで、責任ある森林管理を消費者が支える仕組みを作っている。FSC認証は、多くの消費者、環境団体、企業などから支持を集め、世界で最も信頼度の高い森林認証制度として国際的に知られている。

(参考文献リスト)
1.Nishihara, T.(2012)”Demand for forest elephant ivory in Japan” Pachyderm, 52 July-December,
 pp.55-65.
2.ステファン・ブレイク(西原智昭による翻訳および一章書き下ろし)(2012)『知られざる森のゾ
  ウ〜コンゴ盆地に棲息するマルミミゾウ』. 現代図書.
3.Maisels, F. et al.(2013)”Devastating Decline of Forest Elephants in Central Africa” PLOS ONE
  March 2013.