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2024.04.17

評論「イラン報復攻撃」 ◎中東戦争に発展させるな 米国は緊張緩和に指導力発揮を

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 イランが自国の大使館爆撃への報復としてイスラエルを大規模攻撃したことで、広範な地域を巻き込んだ「中東戦争」への懸念が一気に高まった。イスラエルがやり返せば、報復の連鎖につながる恐れがあり、戦火が中東全体に拡大しかねない。半年が経過したパレスチナ自治区ガザの戦闘が波及したとも言え、石油価格の高騰など世界経済への影響は必至だ。

 これ以上戦火を拡大させてはなるまい。中東地域に巨大な軍事プレゼンスを展開し、イスラエルに唯一影響力を持つ米国の責任は重い。米国のバイデン政権は緊張緩和に向けて指導力を発揮し、直ちに調停工作に動かなければならない。

 ▼「影の戦争」から国家間の戦争に

 今回の事態はシリアのイラン大使館が4月初め空爆され、革命防衛隊の将官らが死亡した事件が引き金だ。イラン国民の怒りは激しく、最高指導者ハメネイ師はイスラエルの「犯罪」として報復を宣言した。両国はこれまでも敵意を増幅させ、イスラエルによる破壊工作や科学者暗殺、イランによる船舶拿捕など水面下で「影の戦争」を続けてきた。だが国と国とで直接戦火を交えたことはなく、初めて一線を大きく超えることになった。

 制裁下で経済が低迷するイランはイスラエルや米国との衝突は避けたいのが本音。しかし、ハメネイ師が報復を宣言した以上、国民の怒りを鎮め、ペルシャ民族のメンツを維持し、「いつでもイスラエルを攻撃できる」という軍事力を誇示する必要があった。だが一方で、本格的な開戦を回避するためイスラエルからの「反撃を招かない報復」という難しい決断も迫られていた。

 このためイランは発射した弾道ミサイルなどが目標に到達する前に攻撃開始の事実を発表し、イスラエル側に迎撃準備の十分な時間を与えた。さらに攻撃対象も砂漠地帯の基地など過疎地を中心にし、被害を最小限に抑えようとした。イラン側のこうした“配慮”によって、イスラエル軍は米英軍の協力も得て、飛来したミサイルや無人機の99%を撃墜した。人的被害は少女1人が負傷したにとどまった。報復後、イラン側は攻撃を続ける意図のないことを明らかにしており、「イスラエルを懲罰した」と世界にアピールすることで、幕引きを図りたい考えのようだ。

 ▼パレスチナ問題の解決が戦争抑止の近道

 しかし、イスラエルは反撃の対抗措置を取る考えを表明しており、中東は緊迫の度を増している。軍事大国同士の本格的な交戦になれば、「中東戦争」に発展しかねず、石油資源を中東に依存する日本や世界への影響は計り知れない。

 両国の対立が激化したのは、ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスによる戦闘が長期化し、中東全体が不安定化していることが要因だ。イスラエル軍の無差別攻撃で、パレスチナ側の犠牲者は3万3千人を超え、人口の半数が飢餓の恐れに直面するなど人道危機が深刻化している。だが、イスラエルのネタニヤフ首相はあくまでもハマス壊滅まで戦闘を続ける構えで、米国の停戦要求も拒否している。

 しかし、イスラエルに圧力を掛けられるのは年30億ドルもの軍事援助をしている米国以外にない。バイデン大統領はイランへの反撃を自制するようネタニヤフ首相を強く説得するとともに、パレスチナ問題の解決に最優先で取り組むべきだ。それが「中東戦争」を食い止める近道でもある。