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2024.05.25

評論「ラファ攻撃」 ◎世界を敵に回すのか 孤立深めるイスラエルに直言

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ南部ラファへの本格的な侵攻の構えを見せ、現地では緊張が高まっている。恐怖にかられたパレスチナ住民ら多数が退避したが、なお数十万人が残っていると見られており、大規模な攻撃が行われれば、被害が飛躍的に増えるのは必至の状況だ。

 しかし、イスラエルは攻撃を断念するよう求める国際社会の声を無視、あくまでも軍事作戦を遂行する構えだ。「世界を敵に回す」ような振る舞いには怒りすら覚える。国際司法裁判所はこのほどイスラエルに対し、ラファへの攻撃を即時停止するよう命じたが、ネタニヤフ政権はガザの人道危機を真摯に受け止め、攻撃を速やかに停止しなければならない。

 ▼たらい回しのパレスチナ住民

 イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は5月25日現在、開戦以来7カ月半を経過、ガザ側の死者は3万6千人に達しようとしている。犠牲者の中に子どもたちが1万4千人以上も含まれている。住民らは軍の命令で北部などから何度も追い立てられ、たらい回しされるようにガザ最南部のラファに避難してきた。ラファには一時約150万人が退避していたが、イスラエル軍はハマス指導者が同地の地下トンネルに潜伏しているとみて侵攻を開始、本格攻撃に向け住民の避難を命じた。既に「95万人が避難した」したとされるが、病人や高齢者を含め多くが移動できないのが現状だ

 ▼バイデンの足元みるネタニヤフ

 イスラエルに唯一影響力を持つ米国のバイデン大統領は停戦交渉を仲介する一方、ネタニヤフ首相に対し、大規模侵攻すれば攻撃兵器の供与を停止するとけん制したが、首相は「単独でも戦い続ける」と反発。首相に批判的だった閣僚らもこれに同調した。首相が強気なのは秋に大統領選挙を控えるバイデン氏がイスラエル支持の有権者を軽視できず、兵器供与の停止などできないと高をくくっているからだ。首相の読み通り、バイデン政権はその後もイスラエルへの大規模援助を決定した。「矛盾した政策」との批判が出るのは当然のことだろう。

 バイデン氏はイスラエル寄りの政策で米国内の大学生ら若者から強い反発を受け、選挙にも影響が出ることを恐れている。かといってイスラエルに強硬姿勢を取ろうとすると、ライバルの共和党のトランプ前大統領らから「同盟国イスラエルを切り捨てている」などと非難が殺到、ジレンマに追い込まれている。

 ▼独りでは生きてはいけない

 だが、イスラエルは自分たちが考える以上に国際社会から孤立していることを肝に銘じなければならない。国連総会が5月、パレスチナの国連加盟を支持する決議を143カ国の賛成で採択し、スペインなど欧州3カ国がパレスチナ国家承認を表明したのはその表れだ。南米のボリビアがイスラエルと断交し、トルコがイスラエルとの貿易停止を決めたのもイスラエルの無差別攻撃をいさめたものだ。国際刑事裁判所が戦争犯罪などの容疑で首相らの逮捕状を請求したが、それだけ世界の怒りが高まっているということだ。

 イスラエル戦時内閣のガンツ元国防相は戦後のガザ統治計画などについて首相が方針を明確にしなければ、6月8日までに政権を離脱すると最後通告した。政権崩壊の瀬戸際に立たされた格好の首相だが、「イスラエル独りでは世界の中で生きていけない」ことを思い知るべきだ。