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2023.06.28

編集日記 深刻化する教員不足をめぐって ―子どもとともに成長する仕組みを―

執筆:坂田 映子 教授(星槎大学 共生科学部/大学院 教育学研究科)

 A小学校長から、「本校3年担任が6月末日から産休に入るのですが、教委に問い合わせたところ、代替臨任(常勤代替臨時的任用職員)の配置は不可能とのことでした、昨年度から書類も提出し依頼もかけていたのですが、人がいないとの回答です。現在、本校級外は児童支援専任と音楽専科だけです。さらにこれから水泳指導も始まります。先生がご存じの方、卒業された方などで、どなたかお勤めいただける方はいらっしゃいませんでしょうか。」という相談が寄せられた。これは今に始まったことではないが、今年は殊の外このような相談が多い。教育委員会の人材確保はどうなっているのか、なぜ教員不足が深刻化しているのか。

 教え子が、「同僚と結婚します」という。夫婦となって大阪に帰り、夫は大阪市教員採用試験を受けて教員を目指すものの、教え子はバーンアウトしたので転職したいと語る。小さい頃からの夢であった小学校教員になり入職時は喜びに溢れていた。3年が経ち、勤務先の評価も上々で6年生を卒業させたばかりだった。

 

▼教員不足と離職

 教員不足が公立学校の教育活動に与える影響は大きい。新卒早期離職者・産休者・病休(療休)者への常勤代替教員が配置されない場合、小学校では、専科教員(音楽・家庭科等)や児童指導専任をつぶして担任にすることがある。これは組織の機能不全を引き起こしかねない。児童指導専任が担ってきた「いじめ・不登校等問題」は、教務主任や副校長が代替し、学級経営のうまくいかない困難学級は校長が支援に入らざるを得ない。このような状況下、災害や事件事故が起きた場合、「いざというときにさっと動ける体制」が確保されない。2人以上の代替教員が必要な学校はかなり深刻だ。

 文部科学省(2021年度)によれば、大学卒業生の就職率は96%。これに対して厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」では、大卒者就職1年目の離職率は12.2%とおよそ8人に1人が会社等を辞めている。民間企業に比べれば学校教員はまだ離職率は低いが、公立学校では、1年目の新任教員が毎年1%前後で離職している。

 東京都は、2022年度に正規採用した公立の小中高校、特別支援学校などの新任教諭2429人のうち108人(全体の4・4%)が今年3月までに辞めており、割合は過去10年間で最高(朝日6/20)と発表した。この現象は、他の教育委員会でも同様の傾向があり、教員不足を加速させる要因の一つとなっている。

 教員採用1年目は、教員としての適性を見る条件付採用期間であり、この期間を終えると正式採用になるが、正式採用に至らなかった教員は、ほぼ自主退職になる。条件付き採用が認められない場合、教員としての適性がないと判断される。教員採用候補者選考に合格しても、教育実習とは違う入職先での仕事は思いのほか困難であり、その指導が適切であったかどうか、配置校も問われることになる。新任教員が1年を待たず、ゴールデンウィーク明けに出勤しなくなるケースも少なからずいることも付記しておく。

 

▼教員不足の実態とその要因

令和4年1月文部科学省調査では、教員不足の発生要因を次のように挙げている。

①産休・育休取得者数が増加、②特別支援学級数が増加、③病休者数が増加、 ④採用辞退者数の増加により必要な臨時的任用教員が増加、⑤児童生徒の転入等により学級数が増加、⑥再任用を希望する定年退職者数が減少、⑦退職者数が見込みより増加、⑧再任用の継続を希望する再任用者数が減少、⑨国の定数が見込みより増加、⑩教育委員会独自の施策(少人数学級等)により必要な教師数が増加、⑪新規採用者数(正規教員)の抑制、⑫採用倍率の低下により採用予定人数を確保できず必要な臨時的任用教員等が増加。

以上は、文部科学省の見込みを越え、いわゆる予測不可能な状況が多岐にわたり起きたところに問題の要因が発生している。特筆すべきは、③病休者数が増加は、うつ病などの精神疾患での休職を指しており、ここ10数年は、おおよそ5200人くらいで高止まりしている状況にあるということだ。精神的に病む教員が減少しない理由は何かを検証する必要がある。⑪新規採用者数(正規教員)の抑制も、教員不足を助長しているのではないだろうか。令和5年度の教員採用選考試験の応募定数は、各都道府県とも減少している。政令指定都市などの自治体によっては定数を増やしているところもあるが、いずれにしろ教員不足が出た場合は臨時的任用職員(以下臨任)で賄おうとしており、臨任不足もまた悩ましい問題になっている。

 臨任のなり手不足の要因は、①講師名簿登録者数の減少、②もともと臨時的任用教員として勤務していた者の正規採用が進んだこと、③臨任のなり手がすでに他の学校や民間企業等に就職済であること、④講師名簿登録者や退職教員が教員免許状を更新しておらず失効していたこと、更新がなされず採用できなかったこと、教師の勤務環境に対する風評による忌避などがあげられる。

▼教員不足解消の策 

 教員志望者が減少してきた理由について、「#教師のバトンプロジェクト」(2021年3月文部科学省設置)では、「教員の場合、労働環境の劣悪さがしばしば報じられており、これが忌避される要因になっている」という見方が根強い。加えて、これまで新任教員は、「ベテラン教員が指導する体制になっていたが、2019年頃から45歳以上のベテラン教員が激減、30歳から35歳が最多層になり、これが経験の浅い若手教員への負荷を大きくしている」とも述べる。「給特法により残業手当が出ないことも若手の不人気につながっている(日経6/20)」などの指摘もある。

 これらの教員不足解消に向けてできることの一つに、各自治体・隣接自治体に設置された大学と連携し、インターンシップ事業や教師養成塾の取組、教師の魅力を伝える講座を行ったり、大学推薦枠を増やしたりするなど、教育委員会と大学との連携強化があげられる。かつては、質の高い学生の獲得に向けた連携であったが、現在は教員不足解消に向けた連携協働の取り組みにできる。二つ目に、各都道府県・政令指定都市教育委員会が、教員の確保に向けた取り組み事例を「公表」し合い、人材確保の工夫を共有し合うことが重要だ。その上で民間等が立ち上げた「学校支援サポーター人材バンク」などと連携し、校長が自ら積極的に活用する官民一体となった取り組みも一手になろう。 三つ目に、教員免許状を保有していても、長く教壇に立っていない者が教職を志す際、指導に必要な知識・技能の向上を図り、即戦力をもって学校現場に入職できるよう、本学などの通信制大学が、オンライン学習できる体制を積極的に整えることも教員不足解消の策となり得る。

 中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」では、教師の養成・採用・研修に関する検討を行っている。今後に向け、質の高い教職員集団の形成を掲げていることには賛同するが、教員を取り巻く危機的な状況を踏まえ、教員の処遇を抜本的に見直し、教員を支える仕組み、安心して働ける労働環境を強く打ち出してほしいものである。

▼離職を止める

 小学校要請訪問で気になることは、学校が複雑化(コロナ禍・ギガスクールICT教育等)し、対応業務や研修が多く、「授業準備」の時間が取れないなどの悩みが多いことだ。職員室を見渡せば、スクールサポーターが常駐し、スクールカウンセラーや補助教員もおり、教員の多忙化は減少しているのではないかと思えるが、実際には、子どもの多様性に対する個別最適化への対応が増加している。そのため、勤務時間以降も子どものために働くべきであるという考え方を優先し、勤務時間終了後、速やかに帰ることが背信行為ではないかと自問する教員もいる。子ども固有の問題を何とか解決しようと懸命に取り組み、消耗する。冒頭に述べた教え子も、燃え尽きて転職を希望した一人といえよう。

 教員も子どもも心と時間に余裕を持ち、学校生活を充実させたいものである。自信と誇り、本務に専念する姿を取り戻し、授業で勝負し、子どもとともに成長できる仕組みを作り出すことこそが、離職を止める最善の策ではないのだろうか。