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2024.07.22

評論「トランプ氏共和党候補受諾」 ◎真の融和を目指す時だ 暗殺未遂を契機に分断の解消を

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 米共和党大会は7月19日、トランプ前大統領が党候補の指名受諾演説を行い、副大統領候補に指名されたバンス上院議員とのコンビで、11月の大統領選挙に向け走り出した。

 トランプ氏は1週間弱前にペンシルベニア州での演説会場で、右耳に銃撃を受けながらも、暗殺未遂を辛くも逃れたばかり。それだけに指名受諾演説の内容に注目が集まったが、同氏は「米社会の不和と分断の修復」を掲げ、「すべての国民の大統領になる」と宣言した。だが、その後の演説内容は民主党非難の「トランプ節」に戻り、公約が本物かどうかに大きな疑問が残った。同氏には民主党との対立を鎮静化し、有言実行で分断の社会に真の融和をもたらすよう求めたい。

 ▼神に生かされた指導者アピール

 トランプ氏は暗殺未遂で奇跡的に助かったもようを振り返り、「私は今夜この場にいるはずではなかった」「その瞬間、神のそばにいると感じ、安心感を覚えた」など「神によって生かされた人物」という物語を静かに語った。トランプ氏は大会初日に会場に姿を現した時は、従来の攻撃的でエネルギッシュな雰囲気とはうって変わり、「別人のように冷静な空気をまとっていた」(米テレビ)。こうしたこともあり、演説では攻撃的な姿勢を和らげ、国を団結させる指導者像を打ち出すのではないかと見られていた。

 しかし、暗殺未遂について語った最初の15分を過ぎると、元のトランプ氏に戻り、相変わらずの民主党批判を繰り返し、事前の演説草稿から脱線してアドリブ満載の「トランプ節」がさく裂した。

 ▼国民の半分が内戦を懸念

 同氏は前回の大統領選の敗北を認めず、支持者を扇動して議会襲撃を引き起こしたとして弾劾訴追され、刑事事件としても起訴されたが、こんな同氏への支持、不支持をめぐっては国民が真っ二つに割れている。最近の世論調査では、国民の半数近くが「内戦が起こり得る」と考えているほど深刻だ。ケネディ大統領や公民権運動の指導者だった黒人のキング牧師らが暗殺された不穏な1960年代になぞらえられることも多くなった。

 暗殺未遂後、「トランプの自作自演」「バイデンが命じた犯行」といった陰謀論がネット上で駆け巡ったのもこうした背景がある。

 トランプ氏はこれまで自身が「民主党支配階級による“闇の政府”と戦う救世主であり、バイデン政権の政治的迫害の犠牲者」との物語を振りまいてきた。対してバイデン氏はトランプに「民主主義の破壊者」とのレッテルを張ってきたが、「この主張が暗殺未遂に直結した」(バンス氏)と批判され、民主党は戦略の見直しを迫られているのが現実だ。

 ▼銃規制の論議なし

 トランプ氏は演説で持論の米国第一主義も強調、軍事力増強と「力による平和」を訴えたのは日本にとっても重大な関心事だ。また同氏は外国製品への関税の引き上げも主張しており、復活当選すれば、中国ばかりではなく、対米貿易黒字を抱える日本も標的になる懸念がある。

 今回の暗殺未遂事件は米国の銃社会の暗部と銃規制の必要性をあらためて浮き彫りにした。人口をはるかに上回る4億丁もの銃が社会に拡散している現状は尋常ではない。しかし、共和党は銃規制には消極的で、大会でその問題が真剣に論議されなかったのは残念だ。

 来月に党大会を開く民主党は高齢不安からバイデン大統領の選挙戦選戦からの撤退圧力が強まり、バイデン氏が「いつ決断するかに焦点が移っている」(米メディア)。8月の党大会では、ハリス副大統領が党の候補として決まる公算が高いだろう。

 だが、これ以上の対立の先鋭化は避けなければならない。内戦な論外だ。両党は非難の応酬をやめ、政策論争で勝負すべきであり、国民の「結束と共生」に真剣に取り組んでほしい。