2024.07.31
評論「バイデン氏撤退」 ◎やり残した課題に全力尽くせ 後継ハリス氏、トランプ氏と互角勝負
バイデン米大統領(81)が次期大統領選挙戦から撤退した。高齢不安による撤退圧力を受けての苦渋の決断だが、賢く、潔い身の引き方として称えたい。政治家の出処進退は恋々と権力にしがみつくのではなく、かくのごとく果断に行いたいものだ。
後任として託したハリス副大統領(59)の支持率が上昇、共和党候補のトランプ前大統領(78)と互角の勝負になっていることもあり、撤退への賛同が広がっている。バイデン氏には退任までまだ半年の時間がある。再選の重圧から解き放たれた同氏が銃規制問題やガザ戦争の終結などに課題を絞り、全力で取り組むよう求めたい。
▼焦りのトランプ共和党
同氏は6月のトランプ氏とのテレビ討論会で惨敗。暗殺未遂事件でトランプ株が急上昇する中、民主党内から撤退を求める声が高まっていた。バイデン氏が撤退を決めたのは11月5日の投票日までにトラプ氏優位の形勢を逆転することが難しく、選挙で大差の敗北となれば、1期目で積み上げた業績に傷が付き、レガシー(政治的遺産)を残せないとの判断があったためだろう。
なんとしてもトランプ氏の復活を阻止するとの思いも強い。理念を重んじるバイデン氏は議会襲撃事件を扇動し、「独裁者」になることを公言するトランプ氏が「民主主義の破壊者」に映る。バイデン氏にとって心強いのは党内がハリス氏支持でほぼ固まったことだ。「バイデン離れ」を起こしていた若者や黒人など少数派もハリス氏の下に結集、旋風が吹きつつある。ハリス氏は8月19日からの民主党大会を前にオンラインで党指名を獲得する見通し。
ハリス人気の高まりに、トランプ共和党は戦略の見直しを迫られている。これまではバイデン氏の耄碌(もうろく)ぶりを国民に印象付けることに躍起になってきたが、それがブーメランのようにトランプ氏に跳ね返ってきている。若さではかなわないトランプ氏がハリス氏を「うそつき」「過激な左翼」と中傷非難を激化させているのは、選挙戦の流れの変化を敏感に察知したためだ。共和党支持者のSNSなどでは黒人でアジア系のハリス氏に対する差別的な投稿も目立ってきたが、こうした汚いレッテル貼りにはうんざりだ。
▼銃規制とガザ戦争終結に集中を
バイデン氏は今後、選挙戦をハリス氏に委ね、やり残した課題の実現を優先し、「あぶ蜂取らず」にならないよう短期集中型で臨むべきだ。
ここは課題を内外の二つに絞ったらどうか。国内の課題としては、銃規制を推進するよう求めたい。トランプ氏の暗殺未遂事件で浮き彫りになったように、人口より多い4億丁に上る銃が社会に拡散している状況は看過できない。これまでも学校などの銃撃事件が起きるたびに規制問題が論議されたが、すぐに立ち消えになった。トランプ氏の事件もあり、共和党に協力を要求すべきだ。
国際的な課題としてはパレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦争を終わらせることだ。民間人の死者が4万人にも上るガザの悲劇的な状況を止めるのはイスラエルへの軍事支援を続けるバイデン氏の責務である。バイデン氏には歴史に残る大統領としてその名を刻んでほしい。