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2023.08.10

評論「トランプ氏3度目の起訴」◎無党派層が良識示せ どう裁く民主主義への攻撃

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

トランプ前米大統領が大統領選敗北の結果を覆すため議会襲撃事件を引き起こしたとして起訴された。同氏に対する起訴はこれで3度目だが、今回は「民主主義への前代未聞の攻撃」(スミス特別検察官)なだけにより重大かつ深刻だ。

同氏は「政治的迫害」と無罪を主張、これを支持する共和党はバイデン政権と与党民主党へ強く反発しているが、刑事被告人が来年の大統領選を引っ張るという異例の展開になった。

米国の政治や社会が真っ二つに割れ、鋭く対立する状況を打開するための方策はあるのか。年々増えている無党派層の力が一つの回答ではないかと思う。彼らが選挙で良識を示し、それが分断修復の一歩につながることを期待したい。

起訴状などによると、トランプ氏はバイデン大統領に敗北した2020年の選挙結果を覆して権力を維持するため、議会の認定手続きを妨害しようと図った。支持者らを「議会まで行くぞ」と扇動し、米国史の汚点となる襲撃事件を誘発した。

民主主義の根幹を否定する事件であり、世界の指導的な立場にある民主大国を危機に陥れた責任は極めて重い。同氏は自らの発言が憲法に保障された「言論の自由」であると強弁。バイデン氏が選挙を妨害するため「司法を武器化」して政治的弾圧を加えていると非難、起訴を陰謀論にすり替える戦略を取っている。

共和党側はさらに、バイデン氏の次男が同氏の影響力を他国との商取引に利用し、氏自身も関与したのではないかとの疑惑追及を強め、大統領弾劾までちらつかせている。起訴に対する関心をバイデン氏側の問題にそらす戦術のようだ。

公判の焦点はトランプ氏が「選挙は不正だった」との主張を虚偽だと認識しながら広めたかどうかの立証だろう。

襲撃事件の際、議会にいたペンス前副大統領の証言が重要な証拠になりそうだが、同氏は「自分を憲法の上に置くような人物は大統領になるべきではない」と批判しており、トランプ氏には最も恐い存在になるかもしれない。

問題は一連の起訴が来年の大統領選に影響を与えるかだ。共和党の大統領候補指名争いでは、トランプ氏が各種世論調査平均で54%の支持を得て他者を圧倒、起訴を求心力増大の糧にしていることが浮き彫りになっている。再選を目指すバイデン氏と一騎打ちの場合は互角の勝負になるとの予想だ。

トランプ氏や同氏に支配される共和党の大勢は今後も起訴を政争の一環とみなし、同氏の「犯罪性」については聞く耳を持たないだろう。分断が固定化し、相手方に対する憎悪が増幅されていく懸念が強い。分断を解消する処方箋はあるのだろうか。それは国民の半数近くに達したとされる無党派層の「見識」ではないか。トランプ氏の身勝手な振る舞いを放置してはならない。そのことを処断するのは無党派層の責務だ。