2024.08.28
評論「ハリス氏指名受諾」 ◎政策遂行力を示せ 激変した米大統領選挙情勢
▼勝利へのカギ
ハリス米副大統領が民主党の大統領候補としての指名を受諾し、11月の選挙に向け共和党候補のトランプ前大統領との一騎打ちの号砲が鳴った。リードしていたトランプ氏をハリス氏が五分に持ち込んだというのが現況だが、双方とも互いを批判し、激しい中傷合戦に陥る恐れも強い。 党大会を終えたばかりのハリス氏には勢いがあるが、大国を率いていくための手腕は未知数。まずは政策遂行力を示すことが勝利へのカギとなるだろう。
▼焦りのトランプ前大統領
選挙戦はめまぐるしく展開した。再選を目指していたバイデン大統領が6月、トランプ氏との討論会に惨敗。同氏はその後、奇跡的に暗殺を逃れたこともあり、圧倒的優位に立った。だが、バイデン氏が選挙戦から撤退し、ハリス氏が民主党の看板になったことで情勢は激変した。最新の世論調査ではハリス氏が僅差でトランプ氏をリード、勝敗を左右する激戦7州でも互角の勝負。民主、共和党大会の視聴者数でも民主党大会の方が上回った。
バイデン氏を念頭に選挙戦を組み立ててきたトランプ氏は急きょ戦略の見直しを迫られているが、対応し切れていない。「ハリス氏はクーデターで指名を獲得した」と批判しているのはそれだけ焦っている表われだろう。
▼9月10日のディベートが今後を左右
ハリス氏は黒人とアジア人の移民を両親に持つ少数派出身。検事から上院議員、副大統領にまで上り詰めた。だが、副大統領としては実績に乏しく、知名度は低かった。その意味で同氏が指名受諾演説で出自を語ったのは人となりを知らせる上で有益だった。「後戻りしない」と未来志向の指導者像を掲げたのも「社会の分断」に苦しむ国民に強くアピール、特に若者や女性には夢を与えたのではないか。
だが、政策については、中間層の再興や物価高対策、法人税の引き上げなどでトランプ氏との違いを際立たたせたが、具体的な実現手順、財源などが不透明だ。争点の移民問題や外交政策はバイデン政権の方針を踏襲しており、今後はどう独自色を出すのかが問われる。
もう一つ、ハリス氏には不安材料がある。立候補以来、一度も正式な記者会見を開いていないことだ。厳しい質問や追及に当意即妙の対応ができるのかどうか。対してテレビ出演で鍛えたトランプ氏の討論力は相手を圧倒する技量と迫力を兼ね備えている。
9月10日には両者の初の討論会が開催されるが、ハリス氏がトランプ氏と真っ向から渡り合えるかが、勢いを維持する上で重要になる。もしハリス氏が勝てば、女性初の米大統領となり、女性の社会進出を阻んでいた「ガラスの天井」が砕け飛ぶ象徴的な出来事になるだろう。