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2023.10.23

星槎宇宙教育について ー宇宙で変わる星槎の学びー

執筆:星槎宇宙教育アドバイザー  稲葉 茂

1 宇宙教育の父との出会い

 私が「宇宙教育の父」と言われているJAXA名誉教授・的川泰宜先生と出会ったのは、2008年12月でした。当時、私は、相模原市教育委員会に所属し教師塾の創設の準備に関わっていました。その関係で的川先生にアポを取り、教師塾塾長就任の依頼をお願いしたのが初めての出会いでした。

 「相模原市はどんな教師を育てたいのか」「相模原の教育の特色は何か」と核心的な質問を受けたことを記憶しています。また、同時に的川先生の「宇宙教育」についても触れることができました。ここで一番印象に残ったのは、太陽系探査衛星「ボイジャー」が太陽系外に出る間際に海王星付近から撮影した地球の写真を見せながら語っていただいた次のような言葉でした。

 「稲葉さん、この小さな点が地球。宇宙のはてから見ると地球は、小さな点でしかないのですよ。ここで私たちは命を育んでいるのですね。僕は、この写真を見ると『いのち』の大切さを未来ある子どもたちにしっかりと伝えていかなくてはならないと思っています。これが宇宙教育なんですよ。」

2 私たちをつくっている元素はどこで作られたか

 では、私たちが現在、生活している宇宙空間は、どのようにしてできたのでしょうか。現在の学説では、今から138億年前に全くの無の状態からビックバンという大爆発が起こり、その中で私たちの体の基になる様々な元素がつくられたと言われています。

 その元素が集まり、星が誕生し、光輝き超新星爆発で一生を終えます。その爆発で様々な元素が宇宙空間に拡散され、また再び集まって新たな星が誕生しています。

 そのような流れの中で、太陽系も誕生し地球も生まれました。つまり、地球上の生命の源は、宇宙の果てから運ばれ奇跡的に誕生したものだったのです。だから、そのルーツをたどればみんな同じです。

 その意味ですべての人類は、みな兄弟です。また、すべての生物も、みな兄弟だといえます。

3 宇宙とは何か?

 今から138億年前に無の状態から誕生した「宇宙」。仏教では宇宙は無始無終。始まりも終わりもないもの、非常に大きなもので知る対象でないと捉えられていたといわれています。

宇宙は、別の言い方をすれば宇宙は時間と空間の広がりともいえます。つまり、現在の宇宙は、138億年の時間をかけてここまで膨らんできたのです。これから先もこの宇宙を膨張させるエネルギーが続く限り膨張し続けると言われています。一方、エネルギーがなくなると収縮し、最終的には元の点のようになるとも言われています。

しかし、そのエネルギー源は何なのでしょうか? それも明確に分かっていないのが現在の状況です。また、宇宙には、私たちが地球上で知り得ている物質も以外の物があると考えられています。それが暗黒物質とか暗黒エネルギーが提唱されていますが、それも現在は見つかっていません。理論上の物です。

つまり、宇宙は、わからない事だらけなのです。だから、魅力的な存在でもあります。宇宙教育の一つのキーワードがこの「わからない」です。

4 生徒らの時間軸と空間軸

 現在の宇宙が時間と共に空間を広げているものだとすると生徒の生活も宇宙と同じではないでしょうか。つまり、生徒らは、進級という時間と共に活動空間を広げ、いろいろな経験を積み重ねています。その意味では、学習活動そのものが宇宙的なものになっている必要があります。

 もし、時間と共に学習活動空間が狭まり止まってしまったどうでしょうか。その生徒の未来が暗いものになってしまいます。

 では、時間と共に学習活動空間を広げる教育(学び)のエネルギー源は何でしょうか。それは、私たちの身近な生活上にある「なぜ」「どうして」という知的好奇心ではないかと私は思います。宇宙教育の二つめのキーワードは、「知的好奇心をベースにした自然科学に偏った特別な教育ではない」ということです。

5 宇宙教育を展開する前に 

(1)生徒の学ぶ姿から学ぶ教師

 我々教師は、1時間の授業中にどれだけ生徒一人ひとりの学ぶ姿を見ているでしょうか。出された課題の意味が分からない生徒、分かったふりをしている生徒、簡単で時間を持て余している生徒、そこには、いろいろな生徒の姿があります。そのような生徒の学ぶ姿から教師が学ぶことがとても重要です。

 もし、学ぶことを諦め机に伏せている生徒を見たら、教師であるあなたはどのように対応しますか。学びを諦めた生徒が一人場合、複数人の場合、当然対応の仕方が違いますね。同時になぜ、生徒がそのような行動を取るか考えたことはあるでしょうか。

 私自身、過去には、「学ばない生徒が悪い」という考えでいました。しかし今は、「私の出した課題の問題点」を考えるように努めています。生徒の学ぶ姿から学ぶようになり多くの事が見えてきたような気がします。

(2)生徒の特性を理解した教師

 生徒の学ぶ姿から見えてきたことは、次のような事です。

  ①真似したがる。

  ②少し高い課題に挑戦することが好きである。

  ③未知との体験をしたがる。

  ④仲間と共に学びたがる。

  ⑤認めてもらえるのが好きである。

  ⑥聞いた話はすぐ忘れる。

  ⑦自分から学んだことは忘れない。

 このような生徒の特性を理解して、授業課題や展開を考えることがとても重要だと思います。

6 學という意味

 協同的な学びは、學という字が示す学びの本質を示しています。學という字の「つかんむり」は、子どもが学ぶ教室や校舎を表しています。そして、その中心には、常に「子」がいるという意味があります。また、「つかんむり」の上の2つの「手へん」は、子どもの学びを支える教師や大人の「手」を意味しているそうです。そして、2つの「手へん」に挟まれた「2つのメ」は、子どもはお互いにいろいろな考えや気づきを交流しながら学でいるという子どもの学ぶ姿を示しています。

 このような協同的な学びの実践を通して、私たち教師が生徒を「よくみて、よくきいて、よく感じる」を心がけ、生徒に心を砕けるようになることが望まれます。生徒に心を砕ける先生のいる教室には、仲間に心を砕ける子が育つと言われています。そんな教室をめざしたいものです。

7 宇宙教育の学びと学校の学び

 今までの学校の授業構造は、先生が自分の持っている知識を生徒に正確に伝達するという形のように思えます。したがって、生徒と教師の関係は、「上下関係」になりがちでした。そのため、生徒は、先生の問題を先生のために先生のやり方で解くようになり、その結果、その枠に入れない人は、不登校やいじめの対象になる等の課題が生じてきました。

 現在、社会は、国際化、情報化が急速に進展しています。その結果、社会文化や知識は、多様化してきています。このような状況の中で宇宙教育がめざす学びはどのような学びでしょうか。

今までのように教師の持つ知識を伝えるだけでは変化の激しい社会に対応できません。生徒が、多種多様な社会文化や知識に「なぜ、どうして」と疑問を持ち自らの力で探究する学びが求められています。

 では、そのような学びの中の教師の役割は、何でしょうか。従来のように正確に知識伝達する役割から多様な社会文化や知識を探究する生徒を支援することが最も大切な仕事になると私は思います。

 このような21世紀型の授業を展開するための手法が、宇宙をベースにした教材にはたくさんあります。なぜならば、宇宙は謎だらけで探究の対象物が数多く存在するからです。

8 宇宙教育とは

 JAXA宇宙教育センターでは、「宇宙教育」次のように定義し、ねらいを述べています。

 〇「未来の社会構築」 に貢献する教育活動を「宇宙」という切り口と視座を持って創造する教育

 〇「宇宙を」教えるのではなく「宇宙で」科学的な観察・思考・課題解決の能力を子どもに育む

また、宇宙教育の手法を次のように整理しています。

①学習者の経験と知見の積極的活用を意図して図る。

②参加者の多様性を積極的に確保している。

③他者との協同を図る仕組みがある。

④多様な価値や視点にふれるしくみがある。

⑤実践を広げる工夫がある。

さて、宇宙教育を始める前に「生徒の学ぶ姿から学ぶ」ことと「生徒の特性」について述べました。是非、これらの事を考えながら宇宙教育の定義、ねらいを見てほしいと思います。宇宙教育は、星槎の理念である「共生教育」の具現化に向けた一つの手法ではないかと私は思います。

9 宇宙教育と協同的な学び

宇宙教育の手法の中に「他者との協同を図る仕組みがある。」が明記されています。ではなぜ、協同的な学びが必要なのでしょうか。

宇宙開発では、いろいろなプロジェクトが同時に進行します。多くの人がチームワークよく協力してミッションを成し遂げていきます。いろいろな人が協力し合うことがポイントになります。

星槎には星槎の「槎」に乗り合わせ時間と共に活動空間を広げる多様な特性を持った生徒たちが通っています。その特性を補い支え合い学ぶことは、実際の宇宙開発でも求められているプロジェクトチームに通じることです。星槎宇宙教育における協同的な学びは、「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」という「星槎の3つの約束」を生徒に実感してもらえることになると思います。

10 これからの星槎の学び

国際化、情報化が急速に進展する現代社会では、時間と共に文化や知識量が増えつづれて行きます。そのような変化に対応するためには、伝達型授業から探究型授業への転換が求められています。また、探究型の学びでは、一人ではなく多くの仲間と協同して課題を解決する宇宙開発システムに似た協同的な学びの推進を求めています。

 その意味で、これからの星槎の学びは、すべての教科領域での宇宙教育素材の活用した探究型の課題を協同的な学びの中で解決していく必要があると思います。これが星槎と似たような教育内容を掲げている学校との差別化を図る唯一の手法だと私は考えています。そのためにも全校舎での宇宙教育を推進していくことが求められます。

11 三位一体の学びをめざして

教師が「生徒の知的欲求」を高めるためには、教材(宇宙教育素材)をどう見るかという教材観を磨く必要があります。教材の本質に迫りどのように生徒に紹介するかにより、生徒の世界づくりに寄与できるように教師自身が研鑽していく必要があります。

また協同的な学びを通して、他の人の考え方や見方の違いを交流することが大切です。このような交流を通して真の仲間づくりができます。この協同的な学びで大事なことは課題の質です。前記したように教師が教材の本質から得た質の高い課題(一人では解決できない課題)を用意できるかが重要になります。

最後に、生徒一人ひとりに自分の学びを振り返ることの大切さを気づかせることです。

従来の学びでは、復習テスト等で自分のできないことばかりを気づかせているケースが多かったと思いませんか。

これからは、今までの学びを通して自分ができるようになったことを述べさせることです。そして、そこには、仲間の支援があったことを実感させることが大切です。このような実践をコツコツと積み重ねることで「星槎の3つの約束」の具現化が図れると思います。それはわからないことだらけを「探求していく」宇宙教育でこそ実現され得るに違いありません。