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2023.10.30

評論「パレスチナ・ガザ戦争」◎人道危機回避に停戦が急務 ー国際社会は明確な意思を示せー

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 パレスチナ自治区ガザ情勢はイスラム組織ハマスの壊滅を目指すイスラエル軍が事実上地上侵攻し、民間人の死者は増加する一方だ。何よりも子供たちの犠牲が3300人を超えていることに怒りを禁じ得ない。ガザはイスラエルの完全封鎖により、水、食料、医薬品がほぼ底をつき、人道危機が深刻化している。ハマスに拉致された人質約220人の命も心配だ。イスラエルは人質解放と人道危機を回避するため停戦に応じ、和平交渉の道を探るべきだ。

▼ホロコースト以来の犠牲に反発

 今回の衝突のきっかけはガザを実効支配するハマスが10月7日、ロケット弾攻撃とともに、戦闘員多数をイスラエル領内に侵入させ、大規模奇襲攻撃を仕掛けたことだ。ユダヤ人市民ら約1400人が死亡するホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来最悪といわれる惨事となった。ハマスはユダヤ人や外国人ら220人以上を人質としてガザに拉致した。

 イスラエル国民の怒りは燃え上がり、国際的な支持も相次いだ。同盟国である米国のバイデン大統領が早々にイスラエル入りし、全面的な支持を約束した。米国の“お墨付き”を得たイスラエルはハマス壊滅を目指して報復の猛爆撃を続け、今や地上部隊がガザに侵攻して攻撃を激化させている。イスラエル軍は2005年、占領していたガザから撤退したが、それ以降2度にわたってガザに地上侵攻している。だが、過去の作戦がハマスへの「懲罰」攻撃だったのに対し、今回は「まっ殺」が目的だ。奇襲攻撃を事前に察知できなかったとして厳しく責任を問われるネタニヤフ同国政権にとってそれ以外の選択肢がないからだ。

▼自衛権を超えた報復

 だが、イスラエル側の死者が約1400人なのに対し、パレスチナ側は8千人を超え、ほとんどが子どもを含む民間人だ。確かにハマスの攻撃は残虐だったが、病院など市街地への無差別爆撃も十分に非道なものだろう。「自衛権を超えた報復」と言っていい。

 イスラエルはハマスの政治、軍事組織の解体を掲げているが、幹部らを殺害してもその過激な思想は根絶できない。親族や友人らが殺された後に残るのは憎しみだ。「戦争に勝っても平和を失う」という結果に直面するだけだろう。

 イスラエルの報復行動は一見、正当性があるように思われるが、パレスチナ和平交渉を拒否し、ガザなどパレスチナ自治区のパレスチナ人を迫害してきたのはイスラエルではないか。グテレス国連事務総長はハマスの攻撃の背景にあるパレスチナ人の苦しみを忘れるべきではないとの見解を表明したが、その通りだ。

▼問われる米国と国際社会の責任

 残念なのは米国の動きだ。バイデン氏は支持と連帯を示すためイスラエルを訪問、「自衛権の範囲内」として地上侵攻に青信号を与えた。人道物資のガザ搬入にも尽力したが、十分とは言い難い。

 しかも米国は国連安全保障理事会で戦闘の一時停止を求めた決議案に拒否権を行使し、葬り去った。ウクライナ侵攻でのロシアの拒否権を非難しながら、自らも停戦の機会をつぶした。「二重基準」とのそしりを受けてもやむを得ないだろう。背景には同氏が来年、大統領選挙を控えている事情がある。イスラエル寄りの有権者の支持を獲得する必要性に迫られているということだ。

 しかし、パレスチナ紛争が未解決のまま放置されてきたのは米国だけではなく、国際社会全体の責任でもある。そうした中、国連総会緊急会合がこのほど「休戦決議」を120カ国以上の賛成で採択したのは国際社会の意思を示した上で意義がある。世界の分断を反映するように米国は反対、中国、ロシアは賛成した。

 残念なのは日本が棄権に回ったことだ。米国の顔をつぶさず、だからといって石油を依存するアラブ諸国とも敵対したくないという苦しい選択だったのだろうが、イスラエルの空爆をまずは止めることが優先課題ではないのか。日本政府に猛省を促したい。

 イスラエルには国際社会の意思を受け止め、他者の意見に耳を貸す姿勢がほしい。パレスチナ人との共生・共存を拒否し、自分たちだけが支配者として君臨し続けても、決して真の平和を手にすることはできまい。ホロコーストを経験した民族としてそのことは十分に知っているはずだ。