2024.11.29
評論「トランプ米次期政権」 ◎イエスマンばかりの「裸の王様」に 三権独占、復讐と省庁解体を懸念
米国第一主義のトランプ氏が復権することになって世界には様々な衝撃が広がっているが、その次期政権の布陣がほぼ固まった。通常と比べて異例に速いペースだが、身辺調査が甘く、醜聞や適性への疑問が噴出、早くもつまずきを見せている。
その理由はトランプ氏が候補者の綿密な身元調査や審査を経ずにほとんど直観と独断で起用を決めたことが一因だ。同氏のこうしたやり方は実績や資質よりも自分への「忠誠心」を最優先しているためだ。周囲にイエスマンだけが集まれば、「裸の王様」になるリスクが高まるのは必定で、憂慮せざるを得ない。
▼司法省、軍が標的
同氏は1期目の政権運営で、良識派の閣僚や軍幹部らに阻止されて思い通り政策を実行できなかった点や、バイデン政権下で刑事訴追(議会襲撃事件など4件)されたことに深い恨みを抱いているとされる。氏の持論は民主党のエリートたちが「ディープ・スロート」(影の政府)を作って米国を操っており、自らもその犠牲者になったというものだ。
特に前回の選挙の敗北をひっくり返そうとして抵抗された司法省、情報機関、連邦捜査局(FBI)や同氏の命令を無視した国防総省に対しては報復に燃えていると伝えられている。軍制服組の元大将は「トランプ氏ほど危険な人物はいない」と批判している。
同氏は今回、これら省庁の改造・解体を狙い、自分の指示を忠実に実行する人物をトップに充てようとしており、この思惑に沿って国防長官にはFOXニュース司会者のヘグセス氏を指名した。ヘグセス氏は元軍将校だが、政策などに携わったことはなく、人員340万人の巨大組織を率いるのは経験不足の上、性的暴行疑惑もある人物だ。軍部から不安視されるのは当然だ。
司法長官にはいったん、ゲーツ元下院議員が指名されたが、児童買春疑惑が浮上して辞退に追い込まれた。情報機関を統括する国家情報長官や不法移民対策を担う国土安全保障長官の人事にも資質に疑問が出ている。新型コロナウイルスのワクチン懐疑派であるケネディ氏の厚生長官指名には、感染症専門家らから強い懸念が出ている。指名は選挙戦でトランプ氏の応援に転じた論功行賞との見方が強い。
閣僚でないものの、新設の「政府効率化省」を指揮するマスク氏は自分の企業と政府との間で巨額の契約を交わしており、権限を持てば利益相反が問題となるだろう。
▼民主主義の危機
トランプ氏がこうした強気の人事を断行できるのは三権を掌握したとの自信が背景にあるからだ。ホワイトハウスの奪回に成功し、議会は今回、上下両院とも共和党が多数派を占めることになった。共和党はもはや「トランプ党」になったと言ってよく、トランプ氏を諫めるような議員は姿を消した。最高裁判所はトランプ氏が1期目政権で、保守派判事3人を任命。この結果、最高裁判事9人の構成は保守派が民主党寄りのリベラル派を凌駕して多数派を押さえた。トランプ氏は今や、行政、立法、司法の三権を独占した状態にある。
同氏は元々、独裁者に憧れるような性癖があり、ロシアのプーチン大統領を「天才」と呼び、トルコのエルドアン大統領ともウマが合う。北朝鮮の金正恩総書記にも好意を寄せている。トランプ氏が独裁傾向を強めれば、米国の民主主義が危機に陥るのは言うまでもない。だからこそ同氏に進言し、「暴走」に歯止めをかける存在が必要だ。閣僚や議会に気骨ある人物が出ることを期待したい。