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2023.08.19

評論 「ウクライナ和平会合」◎粘り強く協議重ねよ ー世界が待つ和平実現ー

執筆:佐々木 伸 教授 (星槎大学大学院 教育学研究科)

 ロシアによるウクライナ侵攻の戦況はウクライナ軍の反転攻勢にも大きな前進はなく、長期化の様相に一段と懸念が高まっている。

 こうした中で今月初旬、サウジアラビアで開催された「ウクライナ和平会合」は唯一、和平実現を協議する場だ。協議には世界約40カ国が参加、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国や中国も代表を送った。声明などの成果文書は出されなかったが、この枠組みを拡大し、粘り強く協議を重ねるよう求めたい。

 今回の会合は6月のデンマーク開催に続いて2度目。前回は、参加したのはわずか15カ国だったが、サウジの実力者ムハンマド皇太子が働き掛けたこともあって参加国は大幅に増えた。反ロシアの米欧や日本のほか、インド、ブラジル、南アフリカなど中立的な立場を取る「グローバルサウス」の国々や、ロシアのプーチン大統領を支える中国も参加した。ウクライナは出席したが、ロシアは招待されなかった。

 会合では、ウクライナの10項目和平提案について議論されたが、ロシアとの関係を維持している国が多い事情を反映して激しいロシア非難はなく、停戦に直結するような成果はなかった。だが、人道支援や食料不足、核の安全などに関する作業部会の設置が決まり、「ウクライナの主権と領土保全の尊重といった国際法の原則が今後の和平協議の中心になるべき、との認識が共有された」(欧州外交官)意味は大きい。

 ただ、今回の和平会合をめぐる各国の思惑はさまざまだ。サウジでの開催には「世界の指導者を目指す」皇太子の野心が見え隠れする。皇太子は西側のロシア制裁には加わらず、敵対してきたイランとも和解するなど「米国離れ」の独自外交を展開し始めたが、和平会合を主催することで、巨額な石油収入を背景に国際的な影響力増大を狙っていると見られている。

 一方でバイデン米大統領の胸中は複雑だろう。大統領はウクライナ支援をけん引してきたが、「和平会合」は自らのイニシアチブではない。米国内では、国民の間には支援疲れがたまり、来年の大統領選に向け議会での支援反対も強まりそう。本音では「和平会合」が米国の思惑から外れ、“独り歩き”するのではないかと恐れているのは間違いあるまい。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は今秋の「和平サミット」開催を目指し、ウクライナ支援のさらなる拡大を切望している。だが、ロシアに対する反転攻勢は地雷原に阻まれて苦戦、西側から供与された戦車などもロシア軍の攻撃でかなりの損害を受けた。米欧には、占領された状態でも停戦交渉に入るべき、との声もあり、領土の完全奪回を主張する大統領の焦燥感は強い。

 本来、こうした国際紛争には国連が調停の役割を果たさなければならないが、ロシアが安保理常任理事国に座る現状では、国連に期待はできない。機能不全状態が続くだろう。このため「ウクライナ和平会合」の意義は極めて重要だ。今後も協議を続け、和平に向けた道筋を見つけなければならない。